第4話 よし、ちょっと探してみるか、魔王
魔王、その言葉を聞くだけで体が熱くなる。
「はぁ…………魔王は殺したはずだ。あの時、たしかにこの目で見届けたんだ」
魔王と戦った場所は魔王が住まう魔王城。その中でまだ大英雄だったころの俺とその仲間たちは戦った。
彼女は強かった。今までの敵がかすむほどに強くて、今でもその時の熱を覚えている。
「全然、冷めない」
誰もいない大通りで立っていると、ふとお店の窓から自分顔が反射して見えた。
真っ白になった髪、175あった身長も165まで縮んで、まるでこの世界に来た頃の自分を見ているかのようだった。
「…………正直、こっちのほうがイケメンだな」
こんな姿になったのには理由がある。
それは魔王討伐後、魔王の内に眠る膨大な魔力が暴発し、魔王城もろとも六英雄たちを巻き込んで吹き飛ばした。
そして次、目覚めたとき、俺は見知らぬ場所に真っ裸で寝そべっていた。広がっているのは木々ばっかりで、状況を理解するのは大変だったが、偶然にもミカさんと出会ったんだ。
その後、何とか生きるすべと環境を手に入れたある日、体の中に異変が起きていることに気づいた。
それはミカさんの手伝いをしていた時、手を滑らせ、刃物で手を切ったのだが、すぐに再生したのだ。何事もなかったかのように。
その時、魔王のある言葉を思い出した。
『私の体は呪われていてね。どんな傷、軽症だろうと、重症だろうと、瞬時に再生する。殺せるのは勇者だけ』
魔王はどんな傷でも瞬時に再生する。そのため、勇者が持つ聖勇武器でしか、魔王を傷つけることができない。
「細胞の再生。マジでチートだな」
思い返せば、俺たち勇者がいなければ魔王を倒すのは不可能だった。
「あ、だいぶ冷めてきた」
ふと、熱かった体がだいぶ冷めていることに気づいた。
「よし、ちょっと探してみるか、魔王」
この熱はきっとあの時の戦いの熱が今でも残っているからだ。なら、もし、本当に魔王が復活しているのなら、再戦を申し込みたい。
あの時の戦いをもう一度したい。
そうすればきっと、この熱も冷めるはずだ。
「待てやおら!!」
そう決心した矢先、暗い大通りから声が響き渡った。
「はぁはぁはぁはぁはぁ」
こっちに向かって逃げてくるフードを被る人。そしてその背後で必死に追いかけている3人組。
「ってあの子、もしかしてチグサか」
追いかけられているチグサはこっち向かって逃げている。
このままいけば、巻き添えだ。
「…………仕方がないな、たくぅ」
チグサは後ろをちらちらと確認しながら追いかけてくる人から逃げていた。そんな時、突然、大通りの路地裏から手が伸びてきて、そのまま引きずり込まれる。
「こっちだ、チグサ」
「え、シンくん!?ど、どうして」
「話はあとだ。それより逃げるぞ」
あんな大通りで逃げていても視界が開けていてすぐに見つかる。だったら、逃げる道は一択、路地裏だ。
「くぅ、めんどくせぇところに逃げやがって、お前ら!こっちだ!!」
「3人だけじゃないのか」
特に服装に共通な部分がないところを見るとただの野郎か、もしくは雇われた傭兵だろうが、これだけの人数を雇うんだから、相当躍起なのは確かだ。
もしかして、助けないほうがよかったんじゃ、と脳裏によぎった。
だって、後ろを見ろよ。見ただけでも15人ぐらいは追いかけてきている。
「チグサ、お前なにしたんだよ」
「べ、別に何もしてない…………た、たぶん」
俺は疑いの目でチグサを見つめた。
「そんな目で見ないで」
フードを深く被っていて表情はよくわからないが頬が少しだけ赤くなっているのが見えた。
「よし、ちょっと無理するから。こっちにこい!」
「きゃぁ!?」
俺はチグサを胸に抱きよせた。
そして、足を止めて急ブレーキをかけ、思いっきり飛び上がった。
「す、すごい跳躍」
勢いのまま家の天井に着地し、そのまま走り出した。
「ふぅ、なんとかなっ――」
チグサのほうへと視線を向けた時、言葉を失った。
艶やかな灰色の髪に、綺麗な真紅の瞳。その姿はまるで貴族のお嬢様のようで見惚れてしまうほどに美しかった。
そう偶然にもチグサが深くかぶっていたフードが脱げ、見えなかった顔があらわにったのだ。
そして、もう一つ、言葉を失ったのには理由がある。
「ど、どうしたの?」
「チグサ、お前…………ふ、フードが脱げてるぞ」
「え…あ、ふぅ」
フードが脱げていることに気づいたチグサはすぐにフードが被り直した。
「せっかく美人なのに隠すなんて勿体ないな」
「美人じゃないです」
「…………んっ!?」
「逃がさねぇよ!」
天井の上で囲まれた俺たちは逃げ道をふさがれた。
「…………身体強化魔法か。なるほど、お前ら魔法使いか」
ただの野郎か傭兵かと思ったが、まさかのマギだったとは予想外だ。
「大人しく、そいつを渡せ。そうすれば、痛い目逢わず、楽に殺してやる」
「俺を殺す?殺せるなら、殺してほしいぐらいだな!」
俺はすかさず腰に携えていた剣を引き抜いた。
「おいおい、やる気か?こっちは6人、それ比べてお前らは2人だけだぞ?」
魔法使いは基本、近接戦闘が不得意で魔法で距離をあけながら戦うのが基本だ。だが、こいつらは十分走るぐらいには体力があるし、何より身体強化魔法を覚えていた。
つまり、魔法使いの中でも珍しい、近接戦闘に特化した魔法使いだということ。
「戦うときに一番重要なのは相手の実力を測ることだ。覚えておくといいぞ、三流魔法使い」
「なぁ!?くぅ、やれ!お前ら!!」
「チグサ、少しだけ目を閉じていろ」
「んっ!」
チグサは力強く目を閉じた。
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