帝都3日目
「……はぁ」
ベッドの上で休むリク。先程、宿に戻ったリクだったが、自分の荷物が全てカウンターの横に置かれていた。時魔法の影響で彼が宿に宿泊してた事実も忘れられ、空き部屋にあったとされた彼の荷物は全て外に出されていたのであった。
なんとか誤魔化し荷物を受け取ったリクは、再度宿泊の手続きをすることができた。
「帝国は、どのくらいの早さで動くんだ」
リクが今考えることは、あの飛竜をいかに討伐するかだ。それでも現在のリクは単独で動くつもりは無い。現在の実力ではあの飛竜の討伐が難しい事はリク自身も自覚していた。時魔法を使用すれば、攻撃を避けることはできるだろう。
「時魔法は……あまり使えないか」
感覚でしか分からないが、時魔法の残り回数が少ない事をリクは認識していた。帝都に来て時間も経っていない中で、既に3回も時魔法を使用したリクに余裕はない。
「明日、ギルドに行って帝国の動きを探るしかないか」
帝国は飛竜の討伐に当たりギルド側にも協力を申請するだろうとリクは予想していた。
「ギルドか……そういえば、資料室に行けなかったな」
帝都ギルドの資料室になら何かしらの情報があると思っていたリクだが、既に彼の冒険者登録は無くなっている。今のリクは資料室に入ることはできない。
「……なんとかして情報を集めるしかない」
* * * *
「昨日に比べて、人が多くないか?」
翌日、リクは帝都の中央広場で食事をとっていた。噴水の横に腰を下ろしながら、パンに肉と野菜が挟まれた物を口に運びながら思わずリクは呟いた。ギルドは帝都の中央に位置するのだが、1日目と2日目に比べギルド周辺が異様に混んでいる。
「何か、今日はあるのかな」
一見すると何か特別な催しをしているようではないが、帝都に来てから未だに3日目であるリクにとって、それはわからない。
「取り敢えず、中に入るか」
食事を終えたリクは、ギルドの中へと向かう。因みにリクは昨日とは違い、フードを被っている。今、帝都内でエリック達に会うと面倒なことが起きるのは避けられない。
「おいおい……なんだよこれ」
中に入ったリクは、ギルド内の光景に圧倒されていた。ギルド内は冒険者達で溢れ、歩くのすら困難なほどだった。何とか奥に進もうとすると、冒険者達の会話が聞こえてくる。
「おい、なんで今日はこんなに人がいるんだよ。これじゃあ依頼が受けれねーぞ」
「なんでも、ギルド長が発表があるらしいぞ」
「だとしてもだ。普通こんなに人が集まるか?」
多くの冒険者達の反応から、ギルドがここまで込み合うのは滅多に無いことがわかる。発表と聞いて、リクの知っている限りで思い当たる節は1つしかなかった。
「……だとしても、対応が早すぎるだろ」
帝国の余りにも迅速な対応に驚きながらもリクは奥へと進む。そこでは更に他の冒険者が興奮気味に話していた。
「本当だって!さっきギルド長と一緒にウォラプスさんがギルドに入って行ったんだよ!」
「マジか!?だとすれば、相当に大事じゃないか」
ウォラプス、それはリクにとっては聞いた事が無い名前だったが、冒険者達の反応からその人物が帝都でも有名な人だというのが分かる。
「おい、リンドさんだ!」
1人の冒険者が気付き、声を上げたことで、リクも含め他の冒険者達は一斉に同じ方向を向く。
「帝都にいる冒険者の皆さん、よく来てくれました」
リンドはギルドの2階から1階に集まっている冒険者に向かい話を始め、彼の傍には3人の人物が立っている。3人の内1人はフードで顔を隠しており、その中にはエリックもいた。2階に立つ4人を見て、リクは眼を見開いていた。
「――どういうことだよ」
リンドの横に立つ3人。エリックを除いた2人をリクは知っていた。彼女達が今も自分の事を覚えてくれているかどうかは定かではない。それでも彼女達は、リクが王国を旅立ってから、最も関係を深めた者達だった。
「ありゃ、エリックだよな?後の2人は誰だ?」
「ありゃ相当に上玉だが、俺達とは育ちがちげーな、ははは」
「――アメリア」
2階に立つ人物はアメリアだった。帝都に来てから帝都の城に向かった彼女が何故あそこに立っているかが、リクには分からなかった。そしてアメリアの隣に立つ、フードで顔を隠した小柄な人物。彼女たちを知っているリクには、それがルナだと確信できた。
「本日、皆さん伝える事があります。まずは順を追って説明しましょう。――事の発端は昨日です。皆さんも知っているでしょう、ここにいる彼、エリック君がとある魔物に遭遇しました」
リンドの言葉と共にエリックに注目が集まる。エリックは帝都でも顔が広く、信頼を得ている冒険者である。
「彼が遭遇した魔物――それは、飛竜です」
リンドが口にした飛竜という言葉にギルド内が騒め、リクの周りでも各々が喋り始める。
「飛竜だって?ありゃ魔物じゃないだろ」
「それに、エリックもそうだが、俺達でも飛竜の1匹や2匹――」
「皆さんが知っている通り、飛竜というのは魔物ではありません。しかし、彼らが遭遇したのは魔物となった飛竜なのです。その飛竜を私達は、
「
生物が魔物となった前例など存在せず、生物と魔物は異なる存在。それがこれまでの常識だった。しかし、飛竜が魔物となった存在、
「信じられないかもしれませんが、事実です。今朝方、帝都の兵士がその存在を確認しました。
リクが昨日伝えた事が冒険者達にも伝えられ、驚愕する者もいる中、一部の冒険者はその存在を信じていない者もいるようだった。
「飛竜が魔物になるなんて考えられるか?」
「そもそも、飛竜を使った飛竜隊は聖国の十八番だろ?聖国が帝国に戦争を仕掛けようとしているだけじゃないのか?」
「現在、
「皇帝陛下が……だと!?」
この帝国において、皇帝の名を用いて虚偽を述べる事は極刑の対象となる。その名をこの場でギルド長が述べたという事が、
「ここで、私達が皆さまを集めた本題となります。――帝国の兵士達と、冒険者達で、
対
「討伐部隊に参加すれば、報酬がでます。まず報酬金の額はまだ決定していませんが、最低でも金貨10枚。加えて、貢献次第では昇格も約束します」
「き、金貨10枚!?」
「参加するぞ!!!」
「俺もだ!討伐隊に入れてくれ!」
金貨10枚は
「うるせぇぞ、お前ら!!!おい、リンドさんよぉ!!!その討伐隊には、どうやったら入れるんだ?」
1人の冒険者が叫び、参加条件を尋ねたことでざわめきが徐々に小さくなり、一同は2階で静かに立つリンドに再び視線を移す。
「そうですね、それはもっともな疑問だと思います。――ですので、今回は特別にこの方に説明して頂きます」
「やっと、出番が来たか!前置きが長いぜ、リンド!」
リンドがそう言うと同時に、大きな声がギルド内に響き渡り、彼と横に立つエリック、ルナ、アメリアの後ろから1人の男性が現れ、ギルド内の冒険者が一斉に声を上げる。白い体毛を持ち、ミゲリア以上に鋭い眼光を持った獣人。その身体から放つ雰囲気が、彼が強者であることをリクの本能に訴えていた。
「おぉ!ウォラプスさんだ!」
「ギルドに来てるってのは本当だったのか!」
他の冒険者が彼の名前を次々と口にする。リクがこのギルドに来た時、他の冒険者が話していた男だ。
「あれが、ウォラプスって奴か」
自分に注目が集まっている事を確認したウォラプスは大きく息を吸い込む。
「お前らぁ!!!討伐隊に入りたいかぁ!!!」
「おおぉぉ!!!」
ウォラプスは他の冒険者の声が掻き消されるほどの大きな声で叫び始め、彼の声はギルド内どころかギルドの外にまで響き渡る。
「当然だよなぁ!!!俺達は冒険者だぁ!!!名声が欲しいよなぁ!!!」
「おおぉぉ!!!」
「――なんだよこれ」
ウォラプスの言葉で益々盛り上がる冒険者達。まるで怒号のように響き渡る彼らの声を聞き、リクは顔をしかめる。
「だったら、てめぇらの力を俺に証明してみせろぉ!!!」
「おおぉぉ!!!」
リクを含めた一部の冷静な冒険者や、ギルド職員以外のウォラプスの言葉に乗った全ての冒険者達は全員手を掲げ、雄たけびを上げる。ギルド内を確認し、ギルド内の盛り上がりが最高潮に達したことを確認したウォラプスはニヤリと笑った。
「この俺、勇者ウォラプス・ベンドルフがここで宣言する!!!対
「うぁぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「―――はぁ?」
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