第二章【出会いと別れの帝都】
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「ここまでで大丈夫か?」
「ああ、助かったよ」
リクは現在、ルクス王国とベンドルフ帝国の故郷付近の街、シルトの前にいた。シルトは王国から帝国にかけての最後の街だ。シルトからベンドルフ帝国の帝都までは森と平原が広がっており、シルトは旅人にとって長い旅路の補給地点となる重要な街でもある。
「どうだ、リク、一緒に街で食事でもしないか?ここまでの礼に奢ってやるぞ?」
装備以外は身一つで村を出ることになったリクは商人の護衛をすることで生活費を稼ぎながらこの街まで辿りついており、現在は道中で他の行商人から仕入れたフード付きのローブを纏っている。
「ここまでの護衛料金はもう貰ってるから大丈夫だよ、シェフト。気にしないでくれ」
「そうか、お前さんは前に行ってたようにこのまま帝国に向かうのか?」
「ああ、先を急ぐんだ。すまないな」
リクはここまで数日間、商人のシェフトと行動を共にし、ようやく帝国との国境付近までたどり着いていた。リクが故郷を離れ、既に数週間が経過しており、王国内を横断することがここまで時間がかかるとは思っていなかった田舎育ちのリクだったりする。彼はこれまで村の外にほとんど出たことが無かったので常識には疎い部分もある。
「気にすんな!お前との旅は楽しかったぞ!ほら、これは餞別だ。俺達がよく食べる携帯食さ」
朗らかに笑いながらシェフトはリクに向かって小包を渡す。商人からすると、護衛で雇う冒険者や傭兵の人物像は非常に重要であり、時には商人を弱者として見下す人もいる。そんな中でリクは分け隔てなく接する性格の為、リクは全く気付いていないのだが、シェフトは彼の事をかなり気に入っていた。
「いいのか?わざわざ食料まで」
「いいんだよ、勇者様の加護があらんことをってやつだ。それに俺は街で色々買えるが、お前さんはそうは行かないんだろ?」
「ありがとう、シェフト。またな」
「おう、気を付けろよ。もし俺の店に来る機会があったらサービスするぞ!」
手を振りながらリクは森へと向かう。暫く手を振り続けていたが、リクは森の方を振り向き、走り始める。商人と共にしていると魔物と戦闘する時以外は訓練があまりできない。走り始め、暫くしてから後ろを振り向くとシェフトは既に街の中に入ったのかいなくなっていた。
「サービスか……その時までシェフトが俺の事を覚えてくれてれば、良いんだけどな」
* * * *
商人達にとって情報は武器だ、彼らは地理情報だけでなく、世界の情勢にも精通している。ここに来るまでの間、護衛しながらベンドルフ帝国についての情報を彼らから集められたのは運が良かった。自分の中で帝国と言うものは皇帝が治めていて、武力を重要視している王国より過酷な国程度の認識だったのだが、話を聞いてみると、実態は少々異なるらしい。
「世界一の兵力を持つ軍事国家」
現在の皇帝ブラキム・フォン・ベンドルフは、富んでいる帝国内の地下資源力を基に歴史的に強靭とされていた軍事力を更に強固とし、その軍事力をもって他国に戦争を仕掛けようとしているのではないかと噂されているらしい。そしてその噂を現実味を帯びたものとしている理由が、
「度重なる他国との外交拒絶、か。本当に大丈夫なんだろうな」
定期的に行われている各国の王族たちが集う会談があるらしいのだが、現皇帝はこれまでの殆どの会談に参加をしていないのだとか。それでも帝国から得られる資源に他国は頼らざるを得ない為、皆口を噤んでいるらしい。
「っと、帝国に入ってばかりの事を心配するのもな」
周囲からの魔物の気配が一気に強まった。恐らくはこちらに向かってきている。
「待つのは……性に合わないな」
大体の方向は把握した。先に仕掛けて、一気に叩く。全身に身体強化を行き渡らせ、森の中を駆け出す。恐らくは魔物もこちらの動きは察知しているはず。地上を行くのは危険だ。木々の枝を渡って上方から接近する。
「見つけたぞ」
数メートル先に魔物を6体を見つけた。名前は知らないが、2足歩行の巨大な豚のような魔物であり、身体にはサイズが合っていない防具を付けている個体もいる。恐らく殺した冒険者から奪ったのだろう。油断はできない。こちら側を警戒しているが、木の上にいる自分にはまだ気づいていないようだ。先制攻撃で一気に決める。
木の幹を蹴り、魔物の胴体を両断し敵の集団の中央に着地する。残り5体。死んだ魔物の身体は灰となって消える。そこで魔物達が反応するも遅い。再び駆け出し跳躍。一番近くにいた魔物の脳天を突き刺す。残り4体。魔物達が攻撃を仕掛けてくるが、そんな大振りの攻撃には当たらない。躱しながら股の間を滑り込みながら片足を切断。鉄の防具を身に付けた個体が剣が斬りかかってくるが問題は無い。以前までなら鉄の防具には手を焼いていたが、今の自分は旅の中で新たに技術を身に付けた。
「頼むぞ、
構えながら
「ブモォォォォォォォ!!!!」
こちら側を脅威と認識したのか、叫びながら逃げ出す2体。これが狩りならば見逃してやってもいいが、相手は魔物。逃がした奴が次にどこで誰を襲うかは分からないのだ。逃がすつもりは無い。
「逃がすと思ってるのか」
* * * *
「まあ、こんなもんか」
魔物の群れを討伐したが随分手慣れたものだ。それもやはり商人達と行動を共にしたのが大きかった。1人で行動するのであれば魔物は無視して進むことができたが、戦えない連れがいるのであればそうは行かない。加えて彼らから魔物の知識を得ることもできた。今の魔物は初めて見たが、魔物討伐を行う際の注意点も彼らかな学ぶ事もでき、おかげで逃げ出した2体も迷わずに討伐ができた。何も知らない自分だったら魔物が逃げ出した時点で見逃していただろう。それに魔物は金になる。魔物は死亡すると肉体は消滅し、体内に存在する魔石のみが残る。一体どういう生態をしているのかは知らないが、魔物とはそういうものらしい。そしてその魔石はギルドで買い取ってもらえるため、回収は忘れてはいけない。
「取り敢えず、森を抜けて……ん?」
戦闘を終え、周囲を改めて探ると、妙な気配を感じる。多くの魔物達が一箇所に集まっているのだ。そして魔物達は中心を空洞にして、その周りに固まっている。この集まり方には覚えがある。ここに来るまでにも何度も察知した気配だ。そしてたいていの場合は、
「くそっ、間に合ってくれよ!」
冒険者が魔物に囲まれて窮地に陥っている。
リクはそのまま勢いよく気配の方向に駆け出す。このような場合、冒険者によっては被害を恐れて関与しないことも多いが、リクは迷わずに走り出す。気配を察知してしまった以上は無視することはできない。彼がここに来るまでに同じような状況に何度か遭遇したが、救援が間に合ったのは半分にも満たない。時には魔物は撃退したが、深い傷を負った冒険者を助けることができなかったこともあった。
「まだ見えないのか!」
森を駆けるリクの心に焦燥感が芽生える。
「っ!あれか!」
走っていると飛んでいる魔物の大群を見つける。飛んでいる魔物の名前はキラービー。子供程度の大きさをした魔物であり、巨大な巣をつくる為、時には数十匹もの群れになるのだが、
「これは……50は超えるか」
群れの数に圧倒されるも、キラービー達の中心に女冒険者が1人いるのが見える。彼女の周囲には多くの魔石が転がっている。彼女だけで既に30匹を超える数のキラービーを討伐しているのだろう。リクはキラービーを斬りながら彼女の元に駆け寄る。綺麗な青白い鎧を身に付けた冒険者。恐らくは騎士なのだろう。目立った外傷はない。恐らくは魔力切れか。
「おい、大丈夫か。取り敢えずこれを飲むんだ」
リクは手早くポケットからポーションを渡す。ポーションを飲み、魔力を回復させることができれば状況は好転するはずだ。リクはここから状況を打開する策を考えていたのだが、そうは上手くいかなかった。なぜなら―、
「貴様!余計なことをするな!何故、ここに来た!」
「……はい?」
女騎士は突然、叫びながらリクの事を罵倒し始めたからだ。
「って何言ってんだお前!そんなこと言ってる場合じゃないだろ!こんなに魔物に囲まれて!」
「黙れ!貴様は命知らずの大馬鹿なのか!?こんな状況で貴様のような子供が1人来たところで、状況は変わらんわ!」
「いやいやいや!別に命知らずなんかじゃないって!それにそっちだって俺とそんなに年齢変わらないだろ!」
「うるさい!私は既に18歳だ!とっくに成人している!貴様と一緒にするな!」
目に涙を浮かべながら叫び続ける女騎士。リクからすれば救援に着た瞬間から散々なことを言われてげんなりしているのだが、彼女を助けることには変わりはない。フードで顔を隠しているから声で勝手に子供と判断したのだろうが、いい迷惑だとリクはうんざりする。ちなみにリクは現在17才であり、この世界における成人とは18歳だ。
「はぁ、まあいいや」
リクは
「や、やめろ!見ず知らずの貴様まで私の為に!」
後ろから叫び声が聞こえるが、無視し、心の中で今まで旅をしてきた商人や道中で知り合った冒険者達を思い浮かべて謝罪をする。
「……ごめん、皆」
謝罪は済ませた。後はこいつらを全員討伐すれば終わりだ。目の前で誰かが死ぬくらいなら、時魔法などいくらでも使用してやる。現在使える回数は持続時間にもよるが、約4回。50匹の群れを倒すには十分だ。
「
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