チュートリアルダンジョン“始まりの祠“ダンジョン豆の聖剣煮

「ここが冒険者登録の更新を行う際に案内されるダンジョンになります」

 

 本日、ギルド登録書の更新の為、店長達は最寄りのギルドでダンジョン講習を受けていた。店長達以外にもゾロゾロと他四組の冒険者達。ギルド職員の講義の元、キャンプの仕方や、魔物との遭遇時の説明、素材採取の際の注意点など事細やかに説明を受ける。

 

「ここで養殖されているスライうは殺さないでくださいね? モンスターテイマーによって飼育されている個体ですので」

 

 だったら、魔法とかで威嚇するの可哀想じゃないだろうかと店長は思うが、とりあえず店長は攻撃職ではないので、身を隠す方法など、職員に言われた通りしっかりとこなしていく。

 

「採取の際の注意点ですが、このダンジョンは豆科の植物が自生しています。これを採取していただき、お持ち帰り、自室で食べていただいても構いません。ですが、一部で全部採取してしまうとその部分で二度とその素材採取が不可能になる可能性があります。特に商売を生業にしている方は気をつけてください。多くても三分の一にとどめる事。これを念頭に採取をお願いします」

 

 店長はそれに従い、ミドさんとニーさんにアイコンタクト。昨今、ダンジョンにおける素材の乱獲が問題視されている。ダンジョン内の環境が著しく変化するとその中で円環していた物が崩れ、魔物がダンジョンから湧いてくるなんて事態になりかねない。それに倣い店長達はお店で出す分、試食する分をしっかり調整し採取した。そして店長は水を張った鍋の中に豆を入れて灰汁を抜く下準備に入った。

 

「では最後の講習です。こちら、このチュートリアルダンジョンにおける目玉となるのですが、古の時代に四つの腕がある異常進化したサイクロプスを剣聖様が倒しここに封じたとされる聖なる剣です。今まで誰が抜こうとしても抜けなかった物となります。ダンジョンに入るとこういう選ばれた者しか手に入れられないアイテムという物が時々存在します。是非みなさん挑戦してみてください」

 

 という事で並ばされてみな聖剣を抜く挑戦をしてみるが、本当に抜けない。店長も力一杯引いてみるが、「うん、全然抜けない。これで鉄煮したら美味いかなーと思ったけどダメだねこりゃ」という店長のたった一言。

 それにミドさんの魂に火がついた。

 

「店長、お任せください! こんな剣の一本や二本、軽々と抜いて見せます!」

 

 そんなミドさんの言葉に冒険者達は笑う。ミドさんは聖剣を握ると引っ張る。しかし、抜けない。それに驚くも縦割れした瞳、全身から氷の魔力が満ちる。ドラゴンの力を解放。周囲にバチバチと強烈な力場が発生する。

 聖剣は本来抜くべきではないミドさんに抵抗しているようにも思える。が、規格外の存在であるミドさんは、ドラゴンの翼、尻尾と半竜化して思いっきり引っ張り、ズボボボボボ! と聖剣を抜いてしまった。

 

「はぁはぁはぁはぁ、なかなかぁ、手こずりましたぁ」

 

 細いレイピアのような聖剣。「すごいねミドさん、じゃあそれで豆煮ろうか? 鍋、細長いの出そうかな」と店長はマジックリュックからパスタを茹でる際の鍋を取り出してそこにアク抜きした豆を入れる。そしてお酒、砂糖、醤油、最後に聖剣を入れて煮込み始めた。

 

「剣を食うのか店長?」

「ニーさん、これはねぇ、鉄分を豆に移して元気になれる料理だよ」

 

 えっ? 何してるんだろうこの人たち、というのが他冒険者と職員の思うところだったが、一人の冒険者が「聖剣で煮た食べ物とか凄い加護あるんじゃね?」と言うので、確かに、食べてみたいなとか思う冒険者がちらほら、それに店長は頷くと、マジックリュックからテーブルと椅子を取り出して、並べていく。

 甘辛くて美味しいダンジョン煮豆が完成すると、白いワインを陶器の入れ物に移してドンと置く。

 

「ただいまより、居酒屋“ダンジョン“開店です! 本日はご覧の通り、オススメの料理は聖剣で煮たダンジョン煮豆です。ドリンクが二杯ついて銀貨一枚。銀ベロセットがオススメですよ!」

「俺、食べたい! いただくよ」

「私も」

「今は講習中なのですが、いい匂いですね! では私も」

 

 と皆席について、甘辛い聖剣で煮たダンジョン煮豆を肴に白ワインでダンジョンチュートリアル講義の締めとした。

 そして聖剣で煮た事で、魔法使いの冒険者の魔法力は満ち満ちと、戦士タイプの冒険者達のパワー、筋力はアップ。それぞれ聖剣の加護を少しばかりいただける事になり、煮豆のテイクアウト注文が殺到した。

 

「これ凄いね。今後も煮物を作る際は活用してみようかな?」

「あのぉ、心苦しいのですが冒険者さん」

 

 とギルドの職員が申し訳なさそうに店長に話しかける。チュートリアルダンジョンの聖剣は本来抜けない物であり、他冒険者にもこう言うアイテムがあることを伝える物。

 

「あー、やっぱ持って帰っちゃダメか、返しますね」

「よろしいですか?」

 

 しっかりと洗って店長は元の所に刺してみる。そして引っ張るも抜けない。念の為に他の人も抜こうとするが抜けない。聖剣は元の場所に戻ったのだ。

 そして、ギルド職員の人が再度申し訳なさそうに、

 

「あのですねぇ、チュートリアル中の商売は……」

 

 という事で、店長とミドさんとニーさんは補講となり、再度このダンジョンの講習を受けることになり、次は貝のように静かに講習を受けて、ギルド登録の更新を済ませた。

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