新規出現ダンジョン“王都の魔窟“ ジャイアントバットの干物

「思った以上の盛り上がりだね」

「お祭りか何かか?」

「ニー、新しいダンジョンが出現した為、冒険者が殺到しているんですよ」

 

 ダンジョンが出現する詳しい理屈はいまだに解明されていないが、ある日突然、今までそこにあったかの如くダンジョンは現れる。物によっては明らかに誰かによって作られたかのようなダンジョンも存在する為、研究者の一部はダンジョンを生み出す高位の存在を仮説している者もいる。

 そして、ダンジョンという場所は危険性もさることながら、素材を集め、異物を獲得し、お金になる。

 お金になるという事は自ずと人が集まってきて経済が回る。今回、王都の近くにダンジョンが出現したという事で多くの冒険者達が周辺諸国から集まってきた。

 

「で、店長はここで一稼ぎをするという事じゃな?」

「そういう事だね。ただ同業他者もやって来るからいつも通り俺たちは広い場所で、そのダンジョンの恩恵を調理していくだけだよ」

 

 店を持たない店長の店は負債コストがほぼないと言っていい。なんなら素材すらダンジョンで基本調達している為、ダンジョンが危険な場所という事以外は殆ど労力に見合った報酬が手に入る。

 

「また小麦の値段が上がったらしいぜ」

「糧食、倍で売ってやがったぜ」

 

 などなど、物価上昇が騒がれる昨今でも常に同じ価格で提供できる強みがあった。二時間待ちでようやく入れたダンジョン。王都の魔窟、流石に大勢の冒険者が押しかけただけあって、入り口からしばらくはモンスターのもの字もなく、素材やら何やらまで何もない。

 

「この前、チュートリアルダンジョンで、素材は残しておきましょうねー! とか言っておったのに、冒険者とやらは雑草一本でも根こそぎ持っていきよるなぁ」

「そうだね。まぁ、正直冒険者って労働に見合わぬ報酬だから、より稼ごうとするんだろうね。と言っても俺たちのお店も魔物が出てきてくれないとメイン料理ができない。結局同じ穴のムジナなんだろうね」

 

 マジックリュックの中に今まで調達した食材があるのでそれを使って店を開く事はできるのだが、店長はそのダンジョンの素材に拘っていた。

 

「しかし店長、これはしばらくこのダンジョンで魔物一匹見つけるのも大変じゃないでしょうか?」

「いやー、ミドさん、ほんとそれね。冒険者の数がモンスターの増える速度を完全に上まってるよねー、まぁいなかったらいなかったで、今回はダンジョンの下見って事でいいかな。もちろん、二人には給料は出すからね」

 

 ミドさんとニーさん、ドラゴンバイトの二人は調理後の給仕以外に店長のダンジョン内でのボディーガードの役目もあるわけで、ダンジョンに入れば時給が当然発生している。

 

「店長とデートだと思ってますのでー! お金なんていらないですよー」

「我はいるぞ! あとでソフトクリーム買うんだからな!」


 てくてくとダンジョンを進み、他の冒険者達と挨拶を交わし、少し逸れた所に広い場所がある事を教えてくれた。そこに向かってみると、とうもろこし焼きだの、芋を塗り込んだパンケーキだのの店が既に出店されていた。

 しかも割高だが、ダンジョン内では安い。手持ちの糧食を減らしたくない冒険者からすれば食べ物がダンジョン内で手に入るのはありがたい。

 

「ここはダメだね」

 

 固定の冒険者を得ている他のお店の利益を横取りしてあとで問題になりかねないので店長達は先に進む。

 そこでようやく。

 

 バサバサバサ!

 

「ジャイアントバットですね。捕獲しますか?」

「お願いできる?」

「はぁい、店長ぉ!」

 

 可愛く敬礼ポーズをすると思いっきりジャンプするミドさん。羽を広げると1メートル程の大きさのジャイアントバットを十匹は捕獲してきた。

 店長はそれらをナイフで絞めて内臓を取り出すと、塩を盛り込んでいく。そしてニーさんに魔法を所望。

 

「このジャイアントバット乾燥してもらえるかな?」

「かまわぬぞ」

 

 ボゥと炎の魔法を塩を盛り込んだジャイアントバットを並べてある真上に固定化させる。日光による一夜干し、機械による文化干し、ならぬ魔法による魔法干しがここに完成する。

 

「よし、急速に作ったけど、お味はどんな物かな?」

 

 軽く炙ってマヨネーズと香辛料を粉末にした物をかけて一口。ミドさんとニーさんにも味見をしてもらう。

 

 しばらく三人でモムモムと咀嚼。

 ごっくん。

 

「なんだろうね。これ、イカみたいな歯応えでしっかりお肉だ」

「控えめに美味しいですね」

「我はもっと干す時間を長くすべきと思うがの」

 

 短時間で作った干物にしては美味しい。今回はこのジャイアントバットの魔法干しをメインに、机、椅子と店長達は準備する。

 そしてこの少しダンジョンの正規ルートから離れた場所にやってきた冒険者達にお酒の入ったボトルを見せて、

 

「いらっしゃいませ居酒屋“ダンジョン“開店です」

「今日はジャイアントバットの魔法干しがメインじゃぞ!」

「お酒が二杯ついて銀貨一枚、銀ベロセットがおすすめです」

 

 一組、二組……と思った以上に人が来る。その為、ミドさんとニーさんが交代でジャイアントバットを捕獲しにいく事となった。

 あれ程講習で受けていた乱獲云々の話を忘れてモンスターを捕まえまくった結果、しばらくの間ジャイアントバットをダンジョン内で見る事がなかったとか。

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