推定冒険者ランク勇者“次元の狭間“ジャバオック尽くしコース

 店長達、居酒屋一行と老人はダンジョン“次元の狭間“の最深部を目指す。

 

「ワシの名はアーサー。槍使いだったが、この通りもう槍もない。しかし長年このダンジョンで彷徨った為、この場所に関してはよく知っている。様々な罠があるがワシがいれば安心するといい」

 

 とアーサーさんは言うが、発動させると岩の巨兵が襲ってくる罠だろうと、大爆発する罠だろうと、ミドさんとニーさんは次々に発動させていく。

 何故なら。

 

「罠は発動させて破壊してしまった方が店長にもしもがなくなりますから! 店長もアーサーさんも離れていてくださいね」

 

 とか言うダンジョン殺しの規格外のドラゴン達の行動にアーサーさんも開いた口が塞がらない。ここに出てくる魔物のランクは確かにおかしい。本来、超級、上級のボスモンスターレベルの物が次々に現れる。

 

「はははは! ここは滾るなぁ? ミド・ガルズ・オルム! 我らドラゴン相手に向かってくる骨のある魔物が沢山だ」

「ふむ、これはひょっとすると勇者とかいう人智を超えた人間じゃないと攻略できないレベルかもしれませんね」

 

 勇者様。冒険者の中に紛れているというが、その力は神をも凌ぐと言われている実在するのかどうかすら分からないダンジョンにおいて都市伝説的に語られる存在。

 

「へぇ、いるんだね勇者。おっ、なんか奥が明るくなってきたよ」

 

 店長が指を指した先、このダンジョンを突き抜けて生えてそうな大木があり。その下にはキノコ? ドラゴン? 足しで2で割ったような巨大な怪物とそのキノコの苗床にされている老人達が5人。

 

「おぉ! あれはワシの仲間達じゃ! ジャバオックめ。許さん!」

「アーサーさん、まぁ待って下さい。あの食材はちょっと俺とかアーサーさんとかではどうしょうもないので、ここはお二人に任せましょう。お願いできるかな? ミドさん、ニーさん」

 

 店長にお願いされてミドさんはもうバサりとドラゴンの翼、そして尻尾まで生やして瞳をハートに変える。

 

「もちろんです店長ぉ! あのドラゴンもどきに絶望と言う名の仕込みをして差し上げますわ!」

「聞いたも見たこともないが、あれは良いな」

 

 ニーさんも体から溢れんばかりの炎の魔法を滾らせて二人並んでジャバオックに向かっていく。二人を見つけたジャバオックが咆哮した。店長の見立てではあれはドラゴンの形をした菌糸類ではないか? ニーさんが口から炎を吐いた。それに嫌がるように翼で防御したジャバオックの翼は焼け爛れ、そしてめちゃくちゃいい匂いがする。

 その瞬間、店長はハンカチで口と鼻を抑える。

 そしてこの匂いの記憶を辿る。

 

「これは! 間違いない、松茸だ!」

 

 店長はお湯を沸かす。このジャバオックを食べるのに適したお酒は間違いなく清酒。これ以外には考えられない。

 

「アーサーさん、二人が松た……じゃなくジャバオックの相手をしている間にお仲間を助けてあげてください」

「そ、そうじゃな」

 

 店長はアーサーさんの仲間を助ける手伝いをしない。一見すると中々酷い光景だが、アーサーさんの仲間が助かった後に美味しく温かい食事を食べさせてあげようと準備しているのだ。

 ジャバオックはミドさんとニーさんの猛攻を耐えていた。今までこんな魔物は存在しなかった。されど、一人でもとんでもないドラゴンであるのにそれが二人、結果としてジャバオックの巨体はゆっくりと倒れていく。

 それと共に店長はジャバオックにダッシュする。包丁で割いて、それらを焼いていく。また別のジャバオックの身を土瓶に入れる。

 

「ミドさん、ニーさん、テーブルと椅子の準備をお願い! 料金はさっきアーサーさんに貰ってるから、松茸じゃなくてジャバオックパーティー、団体様ご予約コースだ!」

 

 清酒を使って酒蒸し。土瓶蒸し、焼きジャバオック。そしてジャバオックご飯。ジャバオックのお吸い物。それらを次々にテーブルに並べていく。

 

「アーサーさん、ジャバオックのコース料理作りましたので皆さんに食べさせてあげてください。相当お腹空いてるでしょ。俺たちも手伝いますので、居酒屋"ダンジョン"開店です」

 

 店長、ミドさん、ニーさんと介護のように年老いた冒険者達にジャバオック尽くしのコースを食べさせていく。すると見る見るうちに元気になり、自らジャバオック尽くしコース、そして清酒をガブガブ飲む。

 

「ちっこいお姉ちゃん、お酒お代わり」

「ちっこくないわ! 人間時の姿が小さいだけじゃ! ほら清酒の熱燗」

 

 ワイワイガヤガヤ、老冒険者達は店長やミドさん、ニーさんに今までの冒険の話をしてくれる。天空塔の怪鳥、空に浮かぶ遺跡の秘宝。しかし、そんなダンジョン聞いた事がない。

 

「それにしても出口はどこだろう」

 

 店長の言葉に老冒険者達は、ジャバオックの後ろに聳え立っていた巨大な松の木を指差す。

 

「あそこの木下じゃよ。しかし、あそこの根元にはジャバオックが自生し、ここのダンジョンに入った者は魔物ですら逃げ出す事ができなかった」

「でもジャバオックは私たちが倒しましたし、食事を終えたら帰りましょうか?」

「そうだね! ジャバオックの身も乾燥させて大量に持ち帰れるしね」

 

 たらふく老冒険者達は食事を終えると、店長達の片付けを手伝って巨大松の木の下へ松の木の下には穴があり、そこが次元の狭間の出口らしい。

 

「やっと帰れるの!」

「そうじゃそうじゃ、ジャバオックの討伐を村のみんなの土産話にしてやろう」

 

 そう言って店長達と共に老冒険者達は出口に歩む。穴の先はあの崖下に続き、穴を振り返るともうそこにはダンジョンは存在しなかった。

 

「まさに謎の場所に謎の魔物でしたね」

「そうだね。アーサーさん達は」

 

 これからどうするんですか? と聞こうとした時、先ほどまで後ろにいたはずのアーサーさん達はいない。代わりに、彼らが身に纏っていた防具や古びた衣類などが穴の出口あたりに散らばっていた。

 

「気が遠くなる程の時間、次元の狭間に魂が捕えられていたんじゃろ。自らが死んでいる事も忘れるくらいにの」

 

 というニーさんの見解を店長は否定した。

 

「違うよニーさん、帰ったんだよ。アーサーさん達は、家族の元へね」

 

 それは実に人間らしい考え方、店長の言葉にミドさんは「そうですね」と同意し、ニーさんも「だと、我も嬉しいかもしれんな」と否定するのはやめた。このダンジョンの地図を持っていた者が誰だったのかとか、気になる事はあるが、居酒屋には一見さんも多くいる。店長は見知らぬ金貨を眺めながら、

 

「今日はお疲れ様! ちょっといい宿を取ってゆっくり休もうか!」

 

 推定冒険者ランク勇者“次元の狭間“居酒屋“ダンジョン“出店完了。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る