推定冒険者ランク中級ダンジョン“試練の荒野“ ヘルハウンドのスペアリブ 伯爵暗殺未遂事件の真相

「店長、あの人間の貴族来るでしょうか?」

「うーん、どうだろうね? 微妙なラインだと思うけど、多分来るんじゃないかなぁ?」

 

 店長とミドさんは初級のダンジョン“試練の荒野“にやってきていた。ちなみに、ニーさんは万が一伯爵一行が草原ダンジョンに行った時の為に別行動してもらっている。最初は駄々を捏ねたが、店長が特大の弁当を作ってくれたのでそれを見てホコホコした顔で見回りを引き受けてくれた。

 

「ニーさんがいれば草原に伯爵が行ってても安心だよね」

「えぇ、ドラゴンの位としてはニーの方が私より上ですからね。そんな事より、店長。久しぶりに二人っきりですねぇ!」

「そうだね」

 

 瞳をハートに変えてミドさんがこのシチュエーションに悶える。二人で開店準備をするのはいつ以来だろうとミドさんはウキウキしながら折りたたみのテーブルと椅子を組み立てる。最近はドラゴンバイトが一人増えた事でこの尊い時間が失われていた。

 

「本日は何を料理しますか?」

 

 居酒屋“ダンジョン“の醍醐味は新鮮なダンジョンの食材を使う点にある。それを楽しみにやってくるお客さんも大勢いるくらいだ。荒野だし、虫か自生している果実なんかをメインに添えるか? 店長が考えていると、赤い大きな体躯をした犬型の魔物がしもべの小型の魔物を連れて姿を現した。開店準備をしている店長とミドさんを横目に通り過ぎようとしていたのだが、

 

「犬食文化は俺の世界では廃れ始めてるんだけどな赤犬っぽいし、いっちょ食べてみるか」

「はーい! では行ってまいりまーす!」

 

 可愛く敬礼ポーズ、当然店長に向けての可愛さアピールのつもりだったのだが、何を思ったのか、店長もミドさんに敬礼ポーズを返した。絶妙にミドさんの気持ちが伝わらない億劫さもありながら、店長の敬礼ポーズが圧倒的に可愛かったのでこの伝わらない気持ちの行きどころは魔犬ハウンドドックに向けようかと気持ちを切り替える。

 

「そういえば、こういう諺がありましたね。竜頭狗肉と、ドラゴン看板を出してドラゴンの肉を出しているという精肉店が実はあなた達ハウンドドックの肉を出していたとか?」

 

 しもべの魔物がミドさんに近づく前に氷の彫刻に変えられる。大型のハウンドドッグはミドさんには敵わないと気づき逃走を図ろうとするも氷の監獄に捉えられる。

 

「今まで冒険者を数で襲い捕食していたんでしょう? 次はあなたの番が来たという事です」

 

 ミドさんを見つめ、そしてクゥーンと媚びるような声をあげる。ミドさんにはそういう魔物愛護の気持ちは一切無い。しかし店長が少し考える。

 

「魔物の肉は氷漬けになったのを使おうか、このでっかい犬は別の仕事をしてもらおうか?」

 

 そう言って店長は大型のハウンドドックの頭と首を撫でた。するとお腹をみせて敗北ポーズをとる。このハウンドドックが雌である事に気づいたミドさんは睨みつける。

 

「店長に色目を使うな! 駄犬が」

 

 店長は氷で絞められた小型のハウンドドックを解体して肉を部分別に分けていく。今回使うのは肋部分。その他は冷凍してマジックリュックにしまう。

 そして丁度、伯爵とその従者達、そして伯爵の家族もついてきたらしい。

 

「居酒屋“ダンジョン“開店です! 本日のメインはハウンドドッグのスペアリブ。そして、今回のオススメのお酒はコークハイです。二杯ドリンクがついて銀貨一枚、銀ベロセットがお得ですよ」

「以前もそうだったな。全員分もらおう」

「かしこまりました! ミドさん、皆さんにお酒を」

 

 ハウンドドックのスペアリブも店長が作ったクラフトコーラで味付けしてある。伯爵が「では皆のものやってくれ! 乾杯」と音頭をとり、食事が始まる。そんな中、伯爵と従者はハウンドドッグのスペアリブを美味しそうに食べるが、伯爵の家族は手が進まない。

 

「お肉、苦手でしたか? 何か他の物をお作りしましょうか?」

「いえ、結構」

「ところで伯爵様、よくここが分かりましたね?」

「あぁ、妻達が贔屓にしている占い師に君たちの場所を調べさせてな。私は草原に行こうと思ったのだが、それが正しかったようだ。こうして、最高の食事を楽しめる」

「それは良かった。伯爵様、当店のアルバイトは呪いについて詳しいようで、どうも伯爵様の呪いは人によるものでは無いかと? 伺っております。何か心当たりは」

「考えつく限りではないな」

「そうですか、グラス空きましたね? 二杯目どうですか? あと、少し面白い余興があるんですがこちらもいかがでしょう?」

「なんだ? ゲテモノか? なんでも食うぞ。君の料理はなんでもうまい」

「恐縮です」

 

 パチっと指を鳴らすと巨体のハウンドドッグが現れる。店長は暗い顔で伯爵一行にこう言った。

 

「ハウンドドッグは殺意に敏感だそうです。この中に伯爵を呪った者の縁者がいればたちまちその牙に裂かれるでしょう。今は魔除けの護符によりハウンドドッグも大人しいですが、護符を外せばどうでしょう? 試してみますか?」

「何を言っているのあなた!」

「店長さん、やってくれ、私の従者や家族が私を呪うわけがない」

「いいんですか? もしいればハウンドドッグに」

「あぁ構わん」

 

 ではと店長が行動しようとした時、伯爵の妻が観念した。巷で流行っている若い占い師と不倫、唆された結果。

 屋敷にきた最初から呪いの件はミドさんとニーさんに見抜かれていた。常連客へのアフターサービスとしてカクテルポーションで呪いは解いたのだが、伯爵のお願いで今に至る。

 あとは家族の問題だ。奥さんが処刑されようが店長達の知った事じゃない。


「手間をかけたな、別途手間賃を運ばせよう」

「いえ、お代は頂いてますので、また伯爵様がダンジョンで当店を見つけた時にご贔屓にお願いします」

 

 この一見より、貴族王族間の中で居酒屋“ダンジョン“の名前は広く知れ渡る事になる。伯爵の命を救った店として・・・・・・・

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