ポーションカクテルとお見舞いテイクアウトのコカトリス薬膳スープ
「鶏肉が欲しいなと思った時にコカトリスが出現したのは有り難かったね」
伯爵の屋敷に向かう前、店長達は危険な魔物であるコカトリスに遭遇、そしてドラゴン二人の活躍で捕獲、鶏肉を手に入れる事に成功した。居酒屋“ダンジョン“はテイクアウトも割と人気で今後お昼頃にダンジョンに入った時はランチタイムも設けてみてもいいかもしれないなと色々試作料理に挑戦中。
今回は、具合が随分悪い伯爵様がいるという事でお見舞いに向かっている。そんな中、貴族の屋敷に行く際の礼儀として手土産を用意する物だが、今回店長はランチタイムに出す予定の薬膳スープとダンジョン内で手に入ったポーションをいくつかバスケットに入れて伯爵の屋敷にやってきた。
「居酒屋“ダンジョン“御一行様、お待ちしておりました」
伯爵の家は思ったより大きくないが、一般人がこんなでかい家持っていいんだという謎の疑問を店長に感じさせた。屋敷の執事長に通された応接間で待っていると、杖をついた初老の男性が姿を現した。そして店長はこの男性の事を覚えていた。店長の方から初老の男性の方に歩き軽く握手。
「以前、従者の方を連れてモンスターのハンティングにこられていたお客様ですね」
「覚えていてくれたか」
「えぇ、もちろん」
ミドさんは全く記憶にない。というか人間の事なんていちいち覚えていない。ニーさんは出されたお茶と茶菓子に舌鼓を打っていた。店長は男性の弱り方に関して尋ねてみる。
「あの、以前は従者の方とダンジョンを走り回られていたのに、どこのご病気なんですか? とても以前のお客様と同じには思えなくて」
「あの後もいろんなダンジョンにハンティングを楽しんでいてね。ある日、胸が焼けるように痛くなり、どうやら死霊系の魔物に呪われたらしい」
そう言って上着を脱いだ男性、体に死神の鎌のタトゥーがあった。それが毎日少しずつ心臓に向かって動いているらしい。最終的に心臓に鎌が刺されば死に至る呪い。
「ミドさんや、ニーさんはこれって消せる?」
「呪い関係は全く」
「無理じゃな。どこで呪われた物かも分からぬし、その魔物を討伐せねばならぬではないか?」
「冒険者ギルドに討伐依頼はしているのだがな、どこで呪われたかも分からぬ故難航している」
店長は頷くと、ポーションをいくつか並べる。それらをシェイカーに入れてシャカシャカと振り、柑橘類の汁を入れてカクテルグラスに注いだ。
「ポーションも美味しいものがいくつかあったので、いくつかの痛み止めの効果があるポーションを混ぜてみました。気休め程度ですけどどうぞ」
「美しい、君の作る物はどれも本当に面白いな」
「恐縮です」
初老の男がポーションカクテルを口にすると目を見開く。冷たくて美味しい。そして痛みが確かにすっと引いていく。特効薬ではない気休めの薬だが、専門医に処方させている痛み止めより効果があり、そして何より上手い。
「ハハっ、これは凄いな。痛みが嘘みたいに無くなる」
「よければレシピをお渡ししておきますね。あと、お見舞いにコカトリスのスープを作ってきました。温めてどうぞ」
「あぁ、ありがとう。できる事ならダンジョンでもう一度あの店に入りたかったよ」
「いらしてはどうですか?」
店長の申し出に従者達、他この家の家族達は驚き、応接間に入ってくる。
「ちょっと待て、店の店主ごときが、父上の身体の状態が分かっていないのか?」
「そうですぞ!」
店長は頷く、
「人とは何かを成すべく為に生まれてきて、成し終えた時にその生涯を終えます。ここで静かに最期を待ち、後悔するか、最期にやりたい事をして充実のまま終えるか選ぶのは伯爵様かと思います。俺たちはこの近くのダンジョン、草原、岩場、荒野、このどこかのダンジョンで店を出します。ただ、それだけは伝えておきますね。では俺たちはこれで失礼させていただきます」
「もてなしもできずすまないな」
「いえ、伯爵様。お大事に」
店長達は伯爵の屋敷を出る。ニーさんが鼻をスンスンとさせながら店長に「なぁー、なぁー店長。あれ、魔物の呪いじゃないぞ」と言うので「へぇ、そうなんだ」と興味なさそうに地図を見てどこのダンジョンで店を開こうか考える。
「ミドさん、どのダンジョンが美味しい食材いるかなぁ?」
「そうですねぇ、ここは無難に草原が魔物も植物も選択肢が多いんじゃないでしょうか?」
「なるほど、確かにそうだね。とりあえずそれも決めるのに、今日は街でご馳走でも食べながら決めようか?」
正直お店の料理を外食するより店長が作る料理の方が美味しいんだけどなぁとかミドさんとニーさんは思うが、たまには別の味も悪くないかと宿屋を決めてから街の料理屋に繰り出す為、少しお洒落をした二人は少しばかり話題になった。お忍びでどこかの令嬢がやってきたと。
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