賄いダンジョン飯、バーサーカシュリンプのフリッターと給料日

「居酒屋“ダンジョン“閉店です」

 

 食材が尽きたわけでもお酒が尽きたわけでもない。ダンジョン内にいるので時間の感覚が狂うが、もう夜更け、冒険者は帰るか、一泊する為にキャンプ準備。客がはけたわけである。

 

「今日もいっとう忙しかったのぉ」

「ニーさん、お疲れ様」

「店長、お疲れ様です」

「ミドさんもお疲れ様」

「店長ぉ! 好き」

 

 問題もなくいつも通りに仕事が終わるというのは幸せな事だ。椅子を三人分だけ残して片付け、要するに賄いタイムが始まる。賄いは本来見習いやバイトが作る物で限られた食材と一品から二品の品数で腹を満たす為に作られる物。と言われているが、居酒屋“ダンジョン“の賄いを見た冒険者達は口を揃えてこう言うのだ。

 “ご馳走だった“と

 

 贅の限りを尽くされた王宮の料理よりも食べてみたいと言われる程に居酒屋“ダンジョン“で出される料理の中で作り置きができる物がテーブル一杯に並び、硬くて日持ちする長いパン、バターにチーズ。もちろん、具沢山で熱々のスープだって並ぶし、なんと言っても店長がメイン料理を披露するのだ。

 それは隠れ家的食堂と言っても過言ではない。本日は木製のジョッキでワインを飲むらしい。

 

「それじゃあ、乾杯」

「うむ、乾杯じゃ店長!」

「乾杯です! 店長ぉ」

 

 今までは一人、最近は二人の女の子に直々に賄いを振る舞う店長の姿はさながらどこかの令嬢、あるいは姫お抱えのコックのようだ。そしてメインの食材はなんだろう? 本日居酒屋“ダンジョン”で身をたっぷり使ったグラタンの食材だったバーサーカーシュリンプの身を集めて作ったフリッターらしい。

 

「んまいなー! このミルク、味が変わっておるな? 仕入れ先を変えのか?」

「おっ、ニーさんよくわかったね。この前行ったダンジョンの近くの牧場で飲ませてもらったミルクがいい味しててねー変えんだ」

「わ、私も気づいていましたよー! でも店長がより美味しい商品に変えたんだなーと当然すぎる故に言わなかっただけですぅ」

 

 だなんて、ミルク一つとっても話題に事かけない。ちなみにこの店長達の会話が各方面の売り上げに直結する事があったりするのでバカにできない。

 

「バーサーカーシュリンプは身が詰まってて甘くてこれが高級食材なの頷けるね。まさかのダンジョンなのに捕獲は人グループ十匹までと王国で管理されていたのは驚きだったよ」

「王族が独り占めするためか? そんな物我には関係がないがなー! ワハハハハハ! 店長、我が許す。全部捕獲してしまえー!」

「ニーさん、それすると絶滅しちゃうから王国は管理してるんじゃないかな?」

「はぅ! 店長のそうお優しい考え、ニー、よく考えて物を申しなさい! 店長はこの世に降り立ったメシアのごとき存在なのですよ」

「あはは、まぁ、メシ屋である事には間違いないね。バーサーカーシュリンプのフリッター食べてみてよ。タルタルソースがよく合うと思うよ」

 

 わざわざこの賄いを食べる為に店長がオイスターソースとタルタルソースを用意してくれているのでミドさんとニーさんは言われた通りタルタルソースをたっぷりつけて、ナイフで大きく身を切って口に入れる。

 

 もむもむもむもむ。

 と咀嚼、咀嚼するごとに二人の表情が緩む。そんな表情を見るのは料理に従事する者としては至福だなぁとか店長は思っている。

 

「とっても美味しいです店長!」

「うまい! 今日のもうますぎるぞ店長!」

「よーし、そりゃ良かった。ワイン、おかわりはいかがですか? お嬢さん方」

 

 そう言ってデキャンタから店長は二人のジョッキにワインを注ぐ。この時間は今までミドさん一人の時間だったのだ。ワインをちびちびやりながらミドさんは愚痴をこぼす。

 

「というかニーが来なければ私と店長だけの大人の時間だったのに」

「まぁ、そう言うな我は今や金を返さないといけない借金の身だからな」

 

 そのニーさんの言葉に店長は手をポンと叩いて思い出す。二人分の小さい袋を用意する。ミドさんの方が大きく膨らんでる。

 

「なんじゃこれは店長」

「ニーさん、お疲れ様。この前払えなかった分を差しいて大銀貨10枚と銀貨15枚。バイト代だよ。ミドさんの方は大銀貨20枚ね。今月もお疲れ様でした」

「えぇ! 今年多くないですかー!」

「うん、売り上げも良かったし、ちょっと色つけたから街に行く時とかに楽しんでね。ニーさんは無駄遣いせずにお金足りたいと思ったところに無闇矢鱈に行っちゃだめだよ」

 

 と言うかドラゴンに貨幣経済は存在しない。要するにニーさんはこれより自由の身になり、ミドさんはやっと店長と二人っきりになるとバイト代と合わせてダブルで喜んでいたが、

 

「まぁ、なんだ。アレだ店長、我がいないと危ないシーンが色々あったであろう?」

「そうだね。ニーさんにはダンジョン進む際もお店でも助けて貰ったね」

 

 偉そうな振る舞いも幼い見た目のニーさんであれば我が子のように冒険者達も可愛がってくれてそこそこ人気があった。

 要するに、ニーさんの提案は。

 

「まぁミド・ガルズ・オルムだけでは心配故に、我がしばらく同行してやろうというのだ! ドラゴンバイトとしてな! 終焉龍ニー・ズ・ヘッグが人間と共に行動した事など、歴史上初なのだからな! 喜べ店長!」

「まじかー! ありがとー」

 

 ミドさんの中でもマジかーこの泥棒ドラゴンとハンカチを噛んで悔しがる。そんないつも通りの賑やかな三人の元に豪華な服を来た男性が跪いて挨拶した。

 

「居酒屋“ダンジョン“の方々とお見受けする! 私はコルマン伯爵の従者、タリウス! どうか、どうか我が主の命尽きる前にもう一度、居酒屋“ダンジョン“の食事をしたいと願う伯爵の最後の願いをお聞きくだされ!」

 

 おっと、ややこしい奴が来たぞ! と言うのがミドさんとニーさんの心の声。それに店長が腕を組んで、

 

「うーん、困ったね。それは別に構わないんだけど、その伯爵様。ダンジョンに入れるだけの体力とかはあるんですか?」

「いえ、我が主の屋敷に」

「それは俺はいいんだけど、伯爵様からするとそれ違うくね? って思わない? 多分、何かの時にダンジョンに入られて俺の店に寄ってくれたお客様なんだよね? だったら、ダンジョン内で経営している俺の店に行きたいって事じゃね?」

 

 噂されていた貴族に呼ばれても絶対に店長はお店を開かないと言うのは語弊だった。時間さえ合えば全然それも可能だが、貴族や王族といえでも本当のユーザーはダンジョン内で経営されている店長の居酒屋“ダンジョン“を好むのだ。

 

「一旦、その伯爵様に会いに行ってみようか」

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