推定冒険者ランク超級ダンジョン“魔界のたもと“溶岩ゴーレムの溶岩焼き

「うん、このワインは当たりだね」

 

 グラスを揺らしながら店長は開店するも閑古鳥が泣いているのでワインのティスティング。香りを楽しみ、色を見て、味見をする。新しく契約するか決めかねているワイナリーのワインの試作品。これはお客さんに出さないワインで、ミドさんとニーさんも同じくグラスに注いでもらったので一口。

 

「んまー!」

「えぇ、でも普段のワインと違いが分からないですけど」

 

 そう、店長のお店はあくまで居酒屋なのである。ダンジョン内で開店するので少々高い金額を提示しているが、大衆的なお酒を出す。ワインも然り、できる限り、安価で美味しい物デイリーワインを仕入れているのだが、今回契約しようか迷っているワイナリーのワインはちょっとした高級ワインクラスの質を持っている。

 

「参ったなぁ。俺が元々提携して作ってもらったワインより遥かに美味いねこりゃ」

「そんな事ありません! 店長が作ったワインも美味しいですよ!」

「あはは、ありがと。でも俺は料理のプロだけどお酒はやっぱりお酒のプロには敵わないね。今度、会ってぜひ契約をしようと思う。という事でだよ。開店してみたのにお客さんが一人もやってこないから、このワインに合った料理を一つ作ってみようか?」

 

 と店長は二人にマジックリュックをみせてウィンク。

 初級から上級までであれば比較的毎日冒険者がいる物だが、今回は推定冒険者ランク超級ダンジョン“魔界のたもと“溶岩地帯であり、単純にダンジョンとモンスターの危険度が高い。

 要するに試食会をするわけなのだが、これはニーさんが喜ぶ。

 

「おぉ! いいのぉ! 店長、何を作るんじゃ? 何を屠ってこれば良い?」

「そうだね。そもそもここってどんな魔物がいるんだっけ?」


 店長はダンジョンガイド、1602という王国歴1602年の最新ガイドを開いてマップと生息している魔物を見る。ダンジョン最深部にはボスモンスター、ボルカニックドラゴン。生息している他魔物は炎のスピリット、そして溶岩ゴーレム。

 

「ここで食べられそうなのは最深部のボスモンスターくらいかぁ」

「ボルカニックドラゴンなど聞いた事がない。所詮は炎属性寄りの低級ドラゴンであろう? 我がちょいと撫でて首でも持ってきてやろうか?」

「こら、ニー。一応私たちはドラゴン種の最上位を冠しているんです。もう少し言葉を選びなさい」

「そうだね。襲ってこないボスモンスターを狩るのは冒険者じゃない俺たちの仕事じゃないから、ここはコイツ! 溶岩ゴーレムを使って溶岩焼きを作ってみようか?」

「「溶岩焼き?」」

 

 二人が不思議そうな顔をしているので「溶岩ゴーレム捕まえてきてくれる?」という店長のお願いにミドさんが「ここは私! 店長の一番のドラゴンバイトにお任せください!」と言うのでお任せする。るんるんとスキップでもしながらミドさんは溶岩ゴーレムを引っ張ってきた。人間が触れよう物なら、大火傷では済まないようなそんな状況。ドラゴン故、溶岩ゴーレムの温度にも耐えうるタフネスを持っているんだろう。

 

「氷属性のミド・ガルズ・オルムが嬉々として炎のゴーレムを捕まえてくるとは、相当に惚れられとるの店長」

「ん? ニーさん、なんか言った?」

 

 店長は店長で、マジックリュックの中から、オークの肉、バーサーカシュリンプ、スライム熟成のチーズなど、今まで集めてきた食材を取り出すと並べ、今から行う料理を楽しみにしている。

 要するに話を聞いていなかったらしい。

 

「いや、してくっそ熱いから店長近づきすぎると死ぬぞ?」

「そうだね、思った以上の温度だから、ミドさん、身体の一部、板状の溶岩を一枚外して持ってきてくれる?」

「はーい! ここ、コアですね」

 

 そう言って無理やりミドさんは溶岩ゴーレムの身体の一部をもぎ取った。それを持ってくると「じゃあ、その辺に置いてもらっていい? こいつを使って食材を焼きます」と、味をつけたオーク肉、バターと一緒にバーサーカーシュリンプ。そしてスライム熟成チーズをとろとろに溶かしてパンにつける。

 

「食べ終わったら、ゴーレムの身体を返してあげようか、じゃあ、今までの食材のアレンジだけど、味見してみよっか?」

 

 溶岩焼き、遠赤外線を利用しさらに煙も殆ど出ないこの調理法は匂いを気にする女性冒険者に人気が出そうだなと店長は三種類の料理をワンプレートにミドさんとニーさんに配って試作のワインで乾杯。

 

「ゴーレムのコアを使った溶岩焼きは一定の熱を保ったまま、なんだろう。食べるとやる気に満ち溢れるね!」

「恐らくは溶岩ゴーレムの持つスキル。不屈を料理を通じて取り込んでいるのかと思います」

「こやつらコアを破壊しない限り何度でも復活しよるからなー」

 

 これは、冒険者からすればバフがかかりいいかもしれないなーと店長はワインを一口。ドラゴンバイトの二人も美味しそうに溶岩焼きの料理をむしゃこら食べているので何か他に追加で作ろうかと思った時、声が聞こえた。

 

「食事している人たちがいる」

 

 疲れた顔でここまでやってきた冒険者達。多分、実力より上のダンジョンを選んでしまったんだろうか? そんな冒険者達を前に店長は食事をやめると、笑顔を見せる。

 

「いらっしゃいませ! 居酒屋“ダンジョン“開店しています。本日は溶岩ゴーレムのコアを使った溶岩焼きがおすすめですよ!」

 

 この後もちょこちょこ冒険者がやってきて溶岩ゴーレムにコアを返すのが遅くなったので、店長は溶岩ゴーレムにお詫びとして溶岩ゴーレムが食べるという岩塩をあげた。

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