推定冒険者ランク上級+ダンジョン“轟の山脈“ お品書き2サンダーバードの燻製玉子とホットワイン

 険しい山脈を店長とミドガ・ルズ・オルムことミドさんは歩む。五合目を越えた所から山そのものがダンジョン認定されているデオン山脈。紳士の装いに登山用のブーツ、そして寒さ対策に毛皮のコートを着た店長、方やミドさんはいつも通りの細く長い足と胸を強調したエプロンドレス。

  めちゃくちゃ気分は良さそうだ。

 

「ぴーくにっく、ぴくにっく! 店長とぴくにっくー!」

「ミドさん、お店開くだけだよー」

 

 八号目あたりの山小屋に宿泊する冒険者相手に商売をしようと店長の提案でもっか登山中なのである。

 

「本日は何を作るんですか?」

「今日はねー、ギルドで依頼されたお仕事も同時に行うから山小屋から材料提供があるらしいんだよ。こんな高い所を攻略する冒険者は相当腕に自信があるんだろうね。なので調理法とお酒で喜んでもらおうと思ってるよ」

「私、お酒運ばなくていいんですか?」

「本日は保存の効くお酒だからこのマジックバックの中から出すよ。この前は鮮度が命だったから無理させちゃったね」

「店長のお願いとあらば、私は初めてだって捧げる所存ですぅ!」

「ふふっ、ミドさんジョーク面白いね!」

 

 二人は普段洞穴とかが多いダンジョンの中で今回は山という事で高山植物や生息生物、さらには魔物まで珍しい見物をしながら目的地まで向かう。

 途中で、1匹の魔物と遭遇、その魔物の姿が、カボチャ頭の空飛ぶ魔物だった。何を思ったか、店長とミドさんに襲いかかってきたので、店長は図鑑を見る。

 

「パンプキンヘッドってやつかー! 食べれそうだね」

「分をわきまえない者は逝ってよし! 襲ってこなければ食材にならなかったのに」

 

 と言いながらミドさんの叩き落とされて絶命。そんなパンプキンヘッドの頭を店長は出刃包丁でザクザクザクと切る。火を起こすと、鍋に砂糖、醤油、味醂、そして赤ワインを入れてその中にパンプキンヘッドの一口大に切り分けた頭を入れる。

 

「今日のお酒は葡萄酒ですか?」

「そうそう! 標高が高いから、身体の温まるお酒がいいかなって」

「さすが店長です! お客様の事を第一に思われて! 私の事もそれくらい想ってくれていいんですよ? それにこんな不躾なモンスターをこんな美味しそうな料理に変えてしまうんですもの! 好き」

「ありがと。南瓜の煮付けは別容器に移してこのまま運ぼうか? 時間が経つと味がいい感じに沁みてくるからね。あとで少し味見しようか?」

「はーい!」

 

 ミドさんの御心は中々店長には噛み合わない。

 時折、水分補給をしたりこまめに休憩、酸素が薄くなってきているのだ。暗くなってくる少し前、点々と山小屋が密集しているあたりに到着した。

 

「ここが八合目っぽいね。僕らの依頼されてる山小屋は、あったあった! グリフォン荘! あそこだね」

「店長が依頼を受けてダンジョンでお店を出すのって珍しいんじゃないですか?」

「今回はね。ギルドで募集してた出稼ぎ料理人の仕事を請け負ってるんだ。たまにはギルドの仕事しないと冒険者登録期限切れちゃうからね。今回はその仕事の後にお店を出すよ」

 

 ギルドの手厚い福利厚生を享受する冒険者達は、最低二ヶ月に一回は余程の理由がない限りはギルドの依頼を受ける必要がある。

 

「お待ちしてました! 料理人さんですね? ささ、もうお客さん結構いるので厨に入ってください。材料は冒険者の方がとらえたサンダーバードがありますので」

「はい! ミドさん、お手伝い、お願いします!」

「はーい! 何なりと申しつけてください! 店長ぉ!」

 

 二人は用意された巨大な鳥の魔物の食材で夕食を二十人分程作り、翌朝の食事の下拵えも終わらせると、料理の片手間に作っていた物を取り出す。

 

「サンダーバードの卵を頂けたのは大きいね。こいつをゆで卵にして味玉にした物が今日のメインのおつまみだ」

「大きくて美味しそうですねぇ!」

「うん、拳大の大きさがあるから、結構な数を出せるしね。で、これは味玉で終わらないんだよ! フライパンに燻製用のウッドを引いて網をおいて、耐熱容器に味玉を入れて蓋して火にかけて味玉を燻して燻製卵にクラスチェンジさせる」

 

 ミドさんは店長の料理スキルに関して高い水準があるという事しか分からない。見た事も聞いた事もない料理を次々にそこにある食材で作り出す。なんならお酒も調味料も作ってしまう。

 こんな店長の恋愛遍歴について気になって仕方がない。

 

「あの店長は……」

「ミドさん、パンプキンヘッドの煮物、食べてみて? 甘すぎ? 辛い? 丁度いい? はい、アーン」

「アーン! あっ! 甘くて、とーっても美味しいですぅ! 店長ぉ!」

「よーし! ミドさんが美味しいって言うなら間違いない、これで行こう」

「もう、店長お上手! 好き」

 

 店長はマジックリュックから赤いブドウのワインが入った巨大な皮袋から、陶器製のでっかいデキャンタに移す。燻卵をスライスして、野菜とチーズを乗せた物、そしてお通しのパンプキンヘッドのワイン煮をお通しに、準備が完成したので、折り畳みのテーブル、椅子を用意。

 各々の山小屋での食事を終えて息抜きがてら外に出てきた人に向けて、大きなよく通る声で店長とミドさんは呼び込み開始。

 

「いらっしゃいませー! 居酒屋“ダンジョン“開店です!」

「本日の店長のメニューはお通しはパンプキンヘッドの煮物、ほっぺたが落地ちゃうくらい美味しいです。それにメインはサンダーバードの卵をゆで卵にして、味付けした物を燻製にした珍味中の珍味です! お酒は赤い葡萄酒、そんじょそこらの代物じゃないですよ! 店長が各町のワイナリーを訪ねて、共同開発した葡萄酒です。是非、温めてどうぞ! お酒が二杯ついた、銀貨一枚、銀ベロセットでお試しあれ!」

 

 麓の銀貨一枚は高い。が、高度の高い山の上の銀貨一枚はそうでもない。ここに来る冒険者は商人ですら、それなりの稼ぎを見越しているわけだ。

 

「まぁ、普通だな。一杯やっていくか?」

「いいなぁ! 葡萄酒で暖まりたいし、女の子も可愛いしな」

 

 てな感じでゾロゾロと冒険者達が集まってきた。閉店時間は食材とお酒が無くなるか、お客さんが完全に捌けるまで、店長はミドさんに瓶を見せる。登山中に色々採集した果物を切ってワインに漬けてある。

 

「仕事終わりはグリューワインで一杯しようね?」


 仕事終わりは店長を独占できる時間、早く食材尽きるか、さっさと人間共、帰って山小屋で寝てくれないかなーとか思いながら、ミドさんは笑顔のまま接客を続ける。

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