シルヴェニア夫妻の耳飾りの話。

こちらは5月末にサポーター様限定で公開したものに少々加筆したものになります。


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 これを、と蜂蜜を固めたような石の耳飾りを見せられたベアトリスは、差し出してきたひとを見返した。くれるのかと思いきや、そうではないという。


「ここに、あなたの魔力を込めてもらえるかい?」

「魔力、ですか?」


 見様見真似で魔力を込めれば、それは角度によってキラキラと輝くようになった。

 今自分はなにをやらされたのだろう。

 そう思っているベアトリスに、その耳飾りを灯りに透かすように満足げに見ていた彼女の夫は言う。


「これで、あなたの身に危険が及んだ時にすぐに察知することが出来る」

「あの、マクス様。私、既にそのような作用をするアクセサリーはいくつもいただいているのですが……?」

「いや、これは私が身につけるものだよ」


 マクシミリアンはそう言うなりベアトリスの唇にその石を押し付け、嬉しそうな顔で自分の耳に装着する。続けて、空色の石の装飾が付いた耳飾りを取り出した。


「そして、これはあなたに」

「マクス様のつけているものと、同じような作用をするものでしょうか」

「ああ。私になにかがあったら、あなたに伝わるようになっている」

「……嫌です」


 既にマクシミリアンの魔力が込められているのだろう。彼の瞳のように様々な色に輝いている石を睨んでベアトリスは拒否する。贈り物を断られると思ってはいなかったのだろう。マクシミリアンは少し驚いたように「ん?」と小さく声を漏らした。


「なにかがあったら、なんて、怖くてつけられません」


 その表情は強張っていて、彼女が本当にマクシミリアンの身に万が一の事態が起きることを怖がっているのだとわかる。マクシミリアンは、妻のそんな姿を見て笑い出した。


「はははッ、大丈夫だ。万に一つも、そんなことは起きないから」

「でも」


 なにがあるかわからないではないか、と思う気持ちはマクシミリアンもわからなくはない。なにかの間違いで、今自分の耳につけている装飾具から妻の危機を知らせる信号が出たら、と想像すれば目の前が真っ暗になりそうだ。


「あなたがそんなに恐れるのなら、なおさらだ。これがただのアクセサリーで済むよう、私はこの先、傷ひとつ負うことはないと約束するよ」

「……本当ですか?」

「ああ」


 だから、安心してつければいい。

 そう言われたベアトリスは、小さく頷いてその耳飾りをつけた。それから、髪をかき上げて耳を見せる。


「似合いますか?」

「とても似合っているよ」


 自分の瞳の色がそこにあることにご満悦なマクシミリアンだったが


「ここに、マクス様の口付けをください。先程、私にさせたように」


 お守りの意味ですよね、と尋ねられ、気付いていたのかと穏やかに微笑む。


「それでは、両方にしてあげよう」


 左右の耳につけられた、小さな石にそっと口付ける。彼女の無事を願って、それから、彼女に心配をかけるようなことはしないと心に誓いながら。

 顔を寄せれば、鼻先を彼女の香りがくすぐる。石は小さく、唇を押し当てればどうしても妻の耳にも触れることになる。吸い寄せられるように直に耳朶に、それから首筋にと唇を滑らせると


「マクス様」


 ベアトリスは非難するような声を出す。しかし、それが拒絶でないことをマクシミリアンは知っていた。


「これは、お守りと、祝福だ。おとなしく受け入れておくれ」


 それを口実に何度も彼女に口付けたマクシミリアンだったが「ならば、私からもさせてください。効果はないかもしれませんが」と妻から言われ、実行され、どうしてこんな昼間にしてしまったのだろう、夜だったらこのまま……と激しく後悔することになったのだった。

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