*ベアトリスとチョコレートはどちらも甘い。

*マーク付きは、若干センシティブな話になります。

苦手な方はお気を付けください。

本編後、ふたりが結ばれた後のどこかの日の朝のお話。


―――――――――――――――――――――――


 寝起きだか朝だかにビターなチョコを食べると、健康やら美容やらに良いらしい。


 朝、クイーンのチェックを受けなくて良くなってからしばらくして、彼女の朝の習慣が始まった。

 今日もベアトリスは、起き上がるとすぐにベッドサイドに置いてあった小さなケースからチョコレートの包みを取り出し、そっと口に含む。妻のことを寝転がったまま眺めていたマクシミリアンは欠伸を噛み殺す。

 ぼーっとしたまま枕を抱きしめるような格好で目を閉じていると、まだ寝ていると思ったのだろうか、ベアトリスはマクシミリアンを起こさないように気を付けながらベッドを抜け出そうとする。


「どこに行く?」


 彼女が立ち上がる寸前、マットレスの上に残されている手を握って引き寄せた。


「起きてたんですか?」


 驚いた顔で自分の上に覆いかぶさるような格好になっている彼女の口から、チョコの甘い香りがする。甘いものが特に好きなわけではないが、これはなんとも美味しそうだ。


「それ、誘惑されているようだな?」

「え?」


 なんですか? と困惑したように彼女は自分の服を見下ろす。

 胸元がはだけているとでも思ったのだろうけれども、そんなことはない。ただし、昨夜マクシミリアンによって付けられた赤い跡がわずかに見えている。


「そっちじゃなくて、こっちだ」


 ふに、とぷっくりした唇を親指で撫でる。


「なんとも美味しそうな香りがしている」


 そう言いながら、彼女の頭を己に近付けるように後頭部に触れた手に力をこめる。


「全部食べてしまいたくなるな」

「え? チョコレートですか? マクス様も召し上がるなら、あのケースの中に――」

「ではなくて」


 本当にわからないのか? と軽く笑って、彼女の唇を甘噛みする。

 戸惑ったように薄く開いていた唇を割って、舌を侵入させた。

 彼女の口の中は、ほろ苦いチョコレートの味がする。舌を絡めると、それが少し甘くなったように思えた。


「ん……っ」

「それ、目覚まし効果があるんだったか?」


 ちゅっと唇を吸って離し、彼女と体の位置を入れ替える。


「おかげさまで、目は覚めたな。ついでにこちらも」


 腰を押し付ければ、ベアトリスの頬が赤くなる。


「そういえばチョコレートは、昔媚薬として使われてたとかってミレーナ嬢が言っていたな」

「そんな話を聞いたことはないです」

「私もなかったが、ミレーナ嬢の生まれ故郷ではそう言われていたそうだよ」

「……ミレーナ様、物知りでいらっしゃいますね」


 そうだな、と言いながらマクシミリアンは再びベアトリスに口付ける。


「効果抜群、と言うべきか。これ、このまま起きるのは無理だな。落ち着かせないと、起きられない」


 ちゅっちゅ、と何度も彼女の甘い唇を味わう。


「さて、どうしようか」

「わ、私を離してくださればいいのでは?」


 もう一度深く口付ければ、彼女の腕から抵抗する力が抜けそうになる。しかし。


「無理です。今からでは時間がありません!」

「ちょっとだけ」

「マクス様のちょっとは、ちょっとじゃないから駄目です。無理です」


 クララー! アミカ―! とメイドたちに助けを求められては、これ以上はできない。マクシミリアンは諦めてベアトリスを離し、また横になる。

 もう一度寝てしまうんですか? 起きないんですか? と肩を揺すってくるベアトリスを、ここでまた抱き寄せて押し倒すように身体の位置を入れ替えたら、彼女はどんな顔をするのだろう。

 ――本気でやったら、嫌われるかもしれないな。スケベじじいと思われるのも嫌だ。

 すんでのところでそう考えたマクシミリアンは、それを妄想の内に留めることにしたのだった。

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