*「そんなつもりはなかったと言っても遅い」マクシミリアンはそう言った。
*マーク付きは多少センシティブな表現を含みます。
苦手な方はご注意ください。
これは、本編よりも先、未来の話。
―――――――――――――――――――
突然気になってそのひとの腕を引いた。
「ん? どうした?」
とこちらを見る瞳は、いつもと変わらず角度によって色を変える空色。じっと瞳を覗けば、小首を傾げた彼は「ああ」と言って身を屈めてきた。
宝石のようなそれが近付いて、伏せられる。優しく触れてくる唇に思わず目を閉じそうになるが、そうではない。
「ん――っ!」
軽く彼の胸を押して抵抗を示せば不思議そうな顔をされる。今まで、こんな風に拒絶したことはないので当然だろう。
「違ったのか?」
マクス様は自分の唇を軽くつつく。形の良い唇が笑みを作る。
「違わないんですけど、違います」
なんとか瞳を覗きこもうと背伸びをすれば、また、ちゅっ、と口付けられる。
「マクス様っ!」
「うん?」
「ですから、そうではなくて……」
見たいのは、瞳だ。しかし彼は、はあ、と溜息を吐きながら首筋に手を当て「そんなに嫌がるのなら、もうしない」とこちらに背を向ける。
「あ、待って、待ってください」
拗ねた?
それとも、嫌がる素振りを見せたからショックを受けてしまったのだろうか。
嫌がったわけではないんです、と言いながら肘に縋りつくと、やっぱりちょっと不貞腐れたような様子で彼はこちらを見下ろしてきた。
「それで?」
「瞳を、見せてくださいませんか?」
明らかに不満そうな彼に問えば「それは構わないのだが」と言いながらもまた顔を近付けてくる。
「あの、マクス様……?」
「ただし」
と悪戯っぽくその目が笑う。
「この状態でなら、いくらでも見て良いぞ」
「ん……っ!」
抵抗する間もなくまた口付けられる。しかも、今度は深い深いキスだ。
「ちょ……っと」
「ぅ、ん?」
それなのに、彼は目を閉じない。目を閉じるのを許してもくれない。
近付きすぎて焦点が合わなくて見えません、と合間に言っても止めてはくれない。
絡んでくる舌は、いつもよりも執拗に私の口内を舐る。
「ああ、目を閉じるな。見たいと言ったのはあなただ」
ほら、好きなだけ見ろ。
そう言いながら口元が笑っているのが伝わる。
「見え……ませ、んっ」
ちゃんと見せてください、と言う私に
「だから。一番近くで見ればいいじゃないか」
そう言うために少し離れた彼の瞳は、やっぱり不思議な色をしていた。
しばらくしてやっと満足したのか、ぐったりしてしまった私を抱え上げた彼は「それで?」と改めて聞いてきた。
「なにが見たかったんだ?」
意地悪、と小さく呟いた私にやたら満足そうなマクス様に「マクス様の瞳は、どうしてそんなに様々な色に見えるのですか」やっとちゃんと聞くことが出来た。
「色?」
小首を傾げたマクス様は自分の目元を指先で撫でる。それから「ああ」頷いて説明してくれた。
「これは私の魔力量が多いからだな。本来は薄い青だよ。成長するにつれて、こんな色になった」
「そうなんですか?」
「元の目の色はコレウスが知っているな。あとどこかに幼い頃の絵姿もあると思うが――」
「え、見たいです!」
「いや、瞳の色だけなら魔力を抑えればいいのだから」
ほら、と言う彼の瞳が澄んだ空色になる。これはこれで綺麗だ。しかし、あの不思議な色の瞳になれてしまっていると、若干物足りないような気がする。
……あれ? そういえばこの色、見覚えがあるような? こちらに来たばかりの頃に見たような……?
「あなたも以前、見たことがあるだろう?」
「ありました。すっかり忘れていました」
「おやおや、ずいぶんと悲しいことを言うじゃないか。私は聖堂で会った時の姿も全て覚えているというのに」
申し訳ないと思って小さくなっていると、そのままベッドに運ばれる。ベッドに横にされて上から覗き込まれれば、私を覆うように彼の髪が垂れ下がってくる。
「それで、どちらが好みだ?」
「いつもの、不思議な色が……少しピンクがかっていて、とても綺麗だと思います」
彼の顔に手を伸ばすと、上から包まれて掌にキスされ、彼の頬に押し付けられる。
「そういう色に、あなたからは見えているのだな」
「人によって見え方が違うのですか?」
「いや? よく見ると、私の感情が色に現れているらしいな。自分ではよくわからないのだがな。コレウスから指摘されて知った」
マクス様の吐息が掌に当たる。
「感情……」
「ああ、この色を見ることが出来るのは、あなただけだよ。愛しいという感情が溢れているのだろうから」
何度も掌や指先、手首にキスされて、徐々に唇の触れる位置が上がってくる。腕から、肩、鎖骨、首筋と何か所にも口付けられて、何回かはきつく吸われているから、きっと跡が残っている。
「ははッ、全部見えてしまっているのは、恥ずかしいな」
「だからって、隠さないでくださいね?」
「隠さないよ。ビーにはすべて見てほしい」
私を覗き込んでくる空色の瞳の表面に、薄くピンクが含まれている。愛されているのだ、と見て実感できるだなんて、私はとても幸せなのではないだろうか。しかし。
「でも、この色を見るのは私だけではないのでしょうね」
「うん? なんだ。他のものに気が行くのではないかと疑われているのか? 私はあなた以外を愛する気などな――」
「いつか子供が出来れば、その子にも……」
言い切る前にきつく抱きしめられる。息が出来なくてマクス様の胸を押せば「すまない」と眉を下げて笑われた。
「確かにその通りだな。あなたとの子供に、愛を注がないはずがない」
額にキスしながら、彼は甘い声で囁く。
「あなたは本当に私を煽るのがうまいな。そんな風に言われては、加減なんて出来ないぞ」
煽っているつもりなどないのです、という私の言葉は、彼の唇に飲み込まれていった。
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