第13話  コウは嫁を貰う!

 この鼓舞は効果的だった。私兵達が再び動き始めた。


「どうする?」

「どうするって、命にはかえられないだろう」

「いや、俺達は金が欲しくてこんな危険な仕事をしてるんだ、ここは稼ぐチャンスだ」

「4人で同時に斬りかかったらなんとかなるんじゃないか?」

「そうだな、四方から同時に斬り込めばなんとかなるよな」


 愚かな男達が4人、コウの剣に撃退された。素人の目には、4人が同時に斬り殺されたかのように見えたことだろう。神武流の1番の強さは、その速度だった。そして念を込めた打撃の破壊力。私兵達は、もう襲いかかってこなくなった。


「何をしておる、早くやってしまうのじゃ」


 老婆の声に耳を貸す者は、もういなかった。私兵達は逃げ去って行った。広場には、死体の山とコウと老婆だけが残った。


「婆さん」

「ひい!」

「死にたくなかったら、僕をあんたの館に案内しろや」

「わかった、ついてくるがいい」


 絵に描いたような豪邸に辿り着いた。


「館の主人と会わせろ」

「言われなくても会わせるわい、まだ屋敷には私兵が残っておるわ」


 豪邸の中に入っていく。老婆の背に剣をつきつけながら歩くコウを見て、使用人達はかなり動揺していた。


「客間にポールを」


 婆さんが使用人に命じた。コウ達は先に客間らしき部屋に入った。

 ほどなく、50代くらいの紳士が現れた。17~18歳の娘と一緒だった。娘は、赤いドレス姿で、とても美しかった。


「君がコウか、私はポール、この家の主だ」

「あんたの息子を斬ったコウや」

「話は聞いている、今日は何の用かな?」

「さっき、この婆さんに殺されかけたんや」

「だろうな、私兵を30人程連れて行ったのは聞いている」

「僕は生き残った。30人の私兵も、もうおらへんで。斬ったのは20人程やけど、他の者は逃げてしもたわ」

「それで?私に何の用かね?」

「今後、また復讐を理由に狙われるのは避けたいねん。せやから、この屋敷の男にはみんな死んでもらうわ。勿論、あんたにも死んでもらう」

「私達を殺すのかね?」

「そうや、それで馬鹿馬鹿しい復讐はもう終わりや。今夜で全て終わらせるねん」

「この屋敷に、まだ私兵はいるぞ」

「ここに呼んだらええやないか」

「では、呼ぼう」


 ポールが、傍らの使用人に合図した。甲冑姿の私兵が雪崩れ込んで来る。コウは、婆さんを離した。


「婆さんは、部屋の隅で見とけや」

「人質を手放すとは、よほど腕に自信があるんだな」

「人質やないで、元々、ここまで案内してもらうだけのつもりやったんや」

「皆、かかれ」


 同じことの繰り返しだった。コウの剣の前に、私兵達は一太刀で倒されていった。すると、ポールが銃を取りだした。サムの時と同じく、銃口から弾道を予測して避けた。また、数を減らした私兵達は逃げ去った。使用人も姿を消していた。コウの剣が、ポールの喉元に突きつけられた。



「あんたを殺したら、もう終わりにできるんやろか?」

「待て、もう君を襲わない。お互いに干渉しないことにしよう」

「すまん、言葉だけでは信用できへんわ」


 その時、女の声が響いた。


「待って!」


 赤いドレスの女の声だった。


「なんや、心配せんでも女は殺さへんで」

「父を助けていただきたいの」

「生かしておけば、きっとまた僕は狙われる。そんなしょうもないことは、今夜で終わりにしたいねん」

「私が永久に人質になります」

「どういうことや?」

「私があなたの妻になります。それで父とあなたは義理の親子、いかがでしょうか?」

「ベッキー、何を言うんだ、こんな男の妻になるなんて本気か?」

「お父様、その男は最近有名な賞金稼ぎ、見ての通り、腕も立ちます。軍ではこの若さで500人長との噂、この家の親族になっても問題無いのでは?」

「僕はそれでもええで、このお嬢さん、別嬪さんやからなぁ。それに、このお嬢さんを嫁にもらえるんやったら、これからは僕があんた等を守ってやるけど」

「コウ、私を連れて行って。お父様、それでいいわね」

「あ、言うとくけど、僕にはもう嫁さんはおるから、お嬢さんは第二夫人やで。それでもええんか?」

「この国では重婚が認められています、私は第二夫人で構いません」

「後は、オッサン次第やで。ここで死ぬか?お嬢さんを嫁に出して生き残るか?どっちがええねん?」

「わかった、ベッキー、この男と行け」


 コウは、宿にベッキーを連れて帰った。それから1週間、コウとベッキーは宿から出なかった。一週間後には、ベッキーはコウにメロメロになっていた。


 コウは、ベッキーが自分に惚れたことを実感できたので、安心してカレンの元へ行った。


「コウちゃん、ベッキーと結婚したんでしょう?ハーレムに呼んでくれる約束はどうなるの?」

「え?ハーレムは作るで。カレンにも来てもらうことは決定してるから、よろしく」

「それで、ハーレムはいつ頃作るの?」

「近い内に作るで。もう少し稼いだら作るわ。そろそろ一度故郷に帰らないと、嫁さんのことも心配やし。ハーレムはヨーラ村に作ろうかと思ってるんや。平和やから」

「稼ぐなら、いい相手がいるよ」

「どんな奴や?」

「賞金の額が違うのよ、50人分だから」

「わかった、山賊やろう?」

「そう、東の山にいるんだけど、東の山道を通れなくてみんな困ってるの」

「50人は多すぎちゃうか?」

「でも、コウちゃんは30人を相手に勝ったんでしょ?」

「しんどかったわ、50人を相手に無傷で勝てると思うほど自惚れてへんよ」

「そうかぁ……でも、誰かがなんとかしないと」

「街に自警団を作ったらどうやろう?この街は保安官しかいないから」

「それ、いいと思う。でも、みんなタダでやってくれるかな?」

「自分達の街を守るんやで、タダでもええやろう?」

「うーん、この街の人はタダでは動かない気がする」

「ほな、ポールに報酬を頼んでみるわ」

「うーん、コウちゃんが行った方が早いと思うけど」

「今後のことも考えたら、自警団は必要やで。ほな、ポールの所に行って来るわ」


 コウは、ポールの豪邸を訪れた。


「娘は元気かね?」

「ああ、元気すぎるくらい元気やで。大切に扱ってるから、心配せんでええよ」

「今日は何をしに来たんだね」

「自警団を作ろうと思うんや」

「自警団?」

「そうや、この街は無防備すぎるからな」

「金持ちは私兵を雇っている。自警団の存在は必要無い」

「まあ、そう言わんと、協力してや。金持ちはそれで良くても、一般人は困るやろ?」

「どう協力しろと言うんだね?」

「自警団は危険な仕事やから、活躍した時には報酬を払ってあげてほしいねん」

「なんで私がそんなことを」

「あんたは大金持ちや、自警団に払う報酬なんてポケットマネーくらいのもんやろ?」

「断る。この街は、この状態で長く続いてきたんだ」

「そうか、わかった。ほな、これで失礼するわ」



 コウは、諦めて帰った。街中に自警団員募集のポスターを貼った。応募者はいなかった。







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