第12話 コウは囲まれる!
翌朝、コウは早い内に支度を調えて洞窟へ向かった。洞窟の中、コウはコウモリの大群に迎えられた。コウは“引き返そうかなぁ”と思った。コウはコウモリが苦手だった。更に奥へ行くと、蛇がいた。“やっぱり引き返そうかなぁ”とコウは思った。コウは蛇も苦手だった。ランプだけの灯り、薄暗い。数メートル先しか見えない。コウは気配に敏感なので、視界が悪くても戦えるだけの自信はあったが、そういう問題ではなく早く洞窟を出たかった。
「!」
コウが気配を感じた。長剣を抜く。
「誰だ!?」
声の主に灯りが届いた。髪はボサボサ、無精髭で毛むくじゃらの男が岩に座っていた。剣やボーガンを傍らに置いていた。そして、猟銃を構えていた。この世界では、銃はまだまだ貴重品だった。だが、連発式ではない。単発式なので、一撃さえ防げばコウの勝ちが決まる。
「自首する気は無いんか?」
「俺は悪くない。俺の思い通りにならない世間が悪いんだ」
「お前が何をやったところで、お前が監禁した人妻は、もう戻って来ないんやぞ」
「ああ、あいつは旦那と街を出た。だが、婆ちゃんが探してくれている。その内に見つかるさ」
「罪の無い者を30人も殺したらしいやないか?」
「罪はある。この街の者は俺に協力しなかった。逃げるジュリアを見逃したんだ」
「お前、頭がおかしいんか? なんで、皆がお前に協力すると思ってるんや?」
「俺は、この街の有力者の息子なんだぞ」
「もう一度聞く、自首せえへんか?」
「うるさい、撃つぞ」
「早く撃てや、こっちは撃つのを待ってるねん」
“バーン!”
コウも、銃弾より早く動けるわけではない。銃口の向きから弾道を予測して避けただけだった。実は、幻治郎から銃を持っている相手との戦い方も教わっていたのだ。次の瞬間、受け太刀いらずのコウの剣がサムの首を斬り落としていた。
「楽に死ねたんや、文句は無いやろ」
コウは、生首を拾い上げたが、そこで叫び声が聞こえた。
「ギャアアア!」
振り向くと、手荷物を持った老婆が立ち尽くしていた。
「あんたがこの男の婆さんか?」
返事は無い。
「どうやねん?」
「あんた、私の大切な孫を、よくも……」
「やっぱり、あんたがこの男の婆さんか。過保護はアカンで、罪には罰が必要やで」
「ほとぼりの冷めるまで隠れさせていたのに」
「30人も殺しておいて、ほとぼりが冷めるわけがないやろ? それより、このオッサンが探してたかわいそうな人妻はソッとしておいてあげなアカンで」
「ジュリアのことは探していない。サムには“探している”と言ってたけど、嘘だ」
「そうか、ほなジュリアさんは安全なところにおるんやな、安心したわ」
「お前は何者だ?」
「僕は賞金稼ぎのコウ、この首を保安官のところに持って行くから、あんたは少し反省した方がええで」
コウは、首の無い孫の姿を見て立ち尽くす老婆を置いて、その場を立ち去った。
サムの生首を保安官の元に届け、賞金をもらうための手続きが終わると、コウはランに会いに行った。
「ただいま-!」
「あ。コウちゃん、無事だったのね、良かった。銃を相手によく勝てたわね」
「ああ、楽勝やったで。銃を相手にする訓練もしてたからなぁ」
「賞金の額も大きかったでしょう?」
「うん、手元に届くまで何日かかかるけど、今日はお祝いや」
「そうだね、お祝いだね」
「ランがサムのことを教えてくれたから良かった」
「普通、話を聞いただけでビビっちゃうのに、コウは勇敢なのね。この街でも、コウちゃんのことおは有名になってるもんね。コウちゃんは街の英雄だよ」
「そんな英雄に抱かれる気分は?」
「最高。自分の男が出世していくのは気分がいいわ」
その時、珍しくノックの音がした。
「あれ? 何やろ? これからお楽しみやのに」
「おかしいわね、こんなこと滅多に無いんだけど」
コウはドアを開けた。店長が気まずそうに立っていた。
「どないしたんでっか?」
「コウ様に、お客様です」
「誰やろ」
「店を出て、相手を確認してください。お逃げになるなら裏口に案内します」
「逃げる? なんで逃げなアカンねん。ええよ、表から出るよ」
「すみません。幸運をお祈りします」
表に出た。30人程の男達が待ち構えていた。甲冑を着た重武装だった。
「僕がコウやけど、お前等、何の用やねん?」
「孫の仇!切り刻んでくれるわ」
サムの祖母がいた。復讐に来たようだ。
「今朝の婆さんか、この男達は何や?」
「うちの私兵よ。普段は商品の護送などに使ってるけど、皆、一騎当千の猛者達よ」
「ここで暴れたら街に被害が出るから、広場に移動しようや」
「わかった、では広場へ!」
コウは、男共に囲まれながら広場に移動した。
「ここらでいいな?」
「ああ、ここなら暴れても問題無いやろ、ほな、かかって来いや」
コウが長剣をぬいた。同時に四方八方から男達が襲って来る。
コウが習った神武流は、元々1対多数の時に効果的な流派だった。
剣が描く円の軌道を利用して、後方まで四方の敵を相手に出来るのだ。
正面の敵を斬ったそのままの軌道で背後の敵まで斬る。左側の男の胴を斬る遠心力で右側の男の胴も払う。しかもコウは、見事に甲冑の隙間を斬り続けた。相変わらず受け太刀も鍔迫り合いもしない。一撃必殺の剣技だった。神武流に、数の不利はほぼ関係無かった。この男達30人よりも、姉の茜1人の方が遙かに手強い。
男達も馬鹿ではない。いや、むしろこういう仕事をしているだけあって、危険に関しては人一倍敏感だ。およそ半数を斬ったところで、残った者達はコウに襲いかからなくなった。
「何をしている、早くやれ!」
婆さんが1人エキサイトしている。婆さんは、まだ半数いるではないか、と思っていた。男達は、半数もやられてしまったと認識している。婆さんと私兵達の考えは真逆だった。だが、婆さんも動こうとしなくなった私兵を鼓舞する必要を感じた。
「この男を討ち取った者には、金貨100枚じゃ!」
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