第8話  コウはまた戦場へ!

 コウが12歳になった時、また戦が起こった。コウは、また戦に行くことにした。 サラは2年前は笑って手を振っていたが、この2年間で戦に行くということの危険度合いがわかったのだろう、泣きながら止めた。だが、コウの決意は変わらなかった。コウは泣いているサラを抱き締めて“必ず帰って来る”と約束した。


 コウが戦に行く理由は金だった。コウは、教会の施設の子達のために、もっと沢山のことをしてあげたくなったのだ。前回、100人長待遇になったことで、毎月、王都から給料が送られてくるようになった。今度、手柄を立てて300人長、500人長になったらもっと多くの給料がもらえるはずだ。


 コウは村を出た。今回は同い年の男の子、シュリも一緒だ。シュリも孤児で、コウの剣術道場では1番強かった。明らかにシュリは緊張していた。


「おいおい、シュリ。めっちゃ緊張してるやないか」

「しょうがないよ、戦場なんて初めてなんだから」

「お前、飯も残してたやろ?」

「緊張したら、食事が喉を通らなくなって」

「そんなことで、どないすんねん。わかった、戦場では僕から離れるな。僕から離れなかったら、シュリ1人くらい守れるから」

「わかった、今回はコウから離れないようにするよ」


 例によって、待ち合わせ場所の双厳にダラダラと集結していた。まあ、全員揃うまではこんなものか、とコウは思った。だが、その日は“急ぐから”という理由で1泊して待ったりはしなかった。そこで、コウはサイと再会した。


「コウ、今回も頼むぞ」

「はい、任せてくださいよ」


 サイはコウのことをよくおぼえていた。今回は、コウも100人長として馬に乗ることになった。シュリは、馬に乗るコウのことをカッコいいと思った。


「また、最前列なんですねぇ」

「ああ、私は司令部から疎まれているからね、巻き込んで申し訳無い」

「いえ、この方が大物の敵を見つけやすいんとちゃいますか? 僕は最前列に配置されるのは嬉しいですよ」

「また、武功を狙っているのかい?」

「はい、この戦で300人長にはなりたいんです」

「じゃあ、僕は500人長を目指そう」


 銅鑼の音が響き始めた。


「おっと、進軍だね」

「シュリ、衝突するときは気を付けろよ」


 シュリは予定通りコウの近くにいる。進軍して、敵の最前列との距離が縮まる。


「ぶつかるぞ!注意しろ」


 コウがダイナマイトで敵の最前列に穴を開けた。今度は、続けて2.3本投げ、最前列に幾つかの穴を開けた。


「コウ隊、突入!」

「サイ軍、コウ隊へ続け」


 敵陣に楔が打ち込まれた。


「この左翼を任されている武将を探そう」

「サイ様、あいつじゃないですか?」

「ああ、あの豪奢な騎士か」

「行きましょう」

「そうだな」


 だが、そこで立ち塞がる者がいた。


「ここは通さぬぞ」

「あんた、何人長なんや?」

「聞いて驚くなよ、3千人長だ」

「向こうにいる豪奢なのは?」

「5千人長だ」

「なんや、どちらも将軍やないのか」

「どうする、コウ?」

「サイさんは、5千人長の所へ行ってください。ここは僕が引き受けます」

「わかった。ここは任せる」


 サイ達は構わず進む。


「おいおい、俺を無視するな。まずは、お前から止めてやる。といいたいところだが、その若さ、というか幼さ、2年前の戦闘でうちの千人長を討ち取ったとガキというのは、もしかしてお前か?」

「そうだ。今はもっと強いぞ」

「なら、許さん。ガキだが、全力で相手をしてやる」


 3千人長は、槍を構えた。次の瞬間、グッと馬を走らせる。2人の間合いが一気に近付く。槍はコウに避けられ、3千人長の喉元に深く剣がくい込んでいた。


「あ、しまった!」

「どうした? コウ」


 心配するシュリにコウは言った。


「また、名前を聞くのを忘れてしもた」

「勝ったのだからいいじゃないか」

「まあ、それもそうか。首をはねるわ」


 生首を剣先に突き刺し、高く掲げ、敵にも味方にも見えるようにした。


「誰か知らへんけど、3千人長を倒したでー!」


 更に、少し離れた所が、一気に賑やかになった。サイが5千人長を討ち取ったのだ。3千人長、5千人長を討ち取られた左翼から、敵は崩れていった。夜になる前に、敵軍は去って行った。


「僕は千人長になれたよ」


サイが言った。


「そうなんですか? スゴイですね」

「君も500人長だからね。これからもよろしく」

「500人長ですか?300人長をではなく」

「僕も500人長をとばして千人長だよ。これから、君が僕の副将だからよろしく」

「よろしくお願いします」

「じゃあ、お互い、故郷に帰ろうか」

「はい」

「シュリ、帰るぞ」

「うん」

「なんや? 元気が無いやんか。落ち込んでるんか?」

「何の手柄も立てられなかったから」

「何人、斬った?」

「4~5人は斬ったと思う」

「上出来やんか。次は、100人長とか、300人長を斬ったらええねん。それよりも、実戦を経験した、人を斬り殺す経験が出来たことが重要なんや。シュリ、シュリは今、確実に昨日よりずっと強くなってるはずやで」

「そんなもんかなぁ」

「これで、安心してシュリに村を任せられる。村の自警団は、シュリがまとめろ」

「え! 俺が?」

「ああ、僕は村にいないことも増えると思う。僕の留守中、村を守ってくれる存在が必要なんや。シュリ、任せたで」

「そんな責任のある仕事、俺には無理だよ」

「まあ、とりあえず今回はこれでええやんか。死ななくて良かったやん。ほんで、全員に配られる給金はもらったか?」

「もらった、こんなに貰えるんだね」

「そうや、戦のあるところには金があるねん。ほな、帰ろか」



 教会に戻ってきた。13歳で成人、ここにいられるのは、もう少しだ。誕生日が同じサラも同じ日に出て行く。サラは、教会を出たらコウと暮らすつもりだった。コウも、そのつもりだった。







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