第7話 コウは初陣を迎える!
コウが7歳になった時、村でイベントが行われた。村で1番強いのが誰か? トーナメント形式の武闘会が行われた。ルール上、武器は木製、防具着用というものだった。コウは迷わず参加した。
初戦は、矛を持ったオッサンだった。爺(転生前)の特訓で、棒や槍を得意とする流派との試合も経験していたので、違和感も恐怖心も無かった。矛の一撃が捕らえたのはコウの残像で、実体はオッサンの胴を払っていた。歓声が起きた。
それから、トントン拍子で勝ち進みコウは優勝した。まともに武術をやっている者のいない村なのだから、自慢にはならないかもしれないが、村人のコウを見る目が変わった日となった。村人全員が、コウを“神の子”と呼ぶようになった。それから、施設の敷地内に、コウの正式な武術道場が出来た。
なんやかんややっている内に、コウは10歳になった。道場のメンバーの剣技も、少しはさまになってきていた。そんな時、戦争のための兵士募集の貼り紙があちこちに貼られた。
「神父様-!」
「行くのか? コウ」
「わかってたんか?」
「ああ、私はお前の父親代わりだからな」
「止めないんやな」
「止めたらやめるか?」
「そんなわけないやろ」
「だろう? 止めても無駄なのはわかっておる。まあ、この村で、1番強いのはお前だしな」
「ほな、行ってくるわ。行けば、金を貰える。施設の仲閒に美味い物でも食べさせてやりたいねん」
「死んでは元も子も無いぞ」
「僕は死なへんわ。ほな、行ってくるで」
「無事に帰れよ」
「おう! 無事を祈っといてくれや、神父様」
コウの旅装は異色。背中に日本刀、左の腰に長剣。そして黒いマント。おかしな2刀流になっていた。これは、普段使いを洋式の長剣にして、背中の日本刀はいざというときしか使わないと決めているからだった。つまらぬことに日本刀を使いたくない。なるべく刃こぼれもさせたくない。だから日本刀を温存しているのだ。そこまで日本刀を大切にしていたのは、洋式の剣と比べて切れ味が違うからだ。自分を捨てた母親が、東方の島国の出身だったから手に入れることが出来た貴重な愛刀だった。この刀は、いざという時しか使わないと決めていた。
結局、コウのいるヨーラ村から兵士に志願したのはコウだけだった。コウは、皆に盛大に見送られて村を出た。集合地点の草原には、何万もの人がいた。流石に驚いた。“合流希望者を、もう1日だけ待つ”ということで、その晩は草原で寝た。夕食は配給されたが不味かった。
目を覚ますと、昼前だった。いよいよ始まる。まずは、5人組に分けられた。更に5人組が2つで十、十が5つで50,50が2つで100とされた。それで100人隊が結成された。
100人長は、サイという色白で華奢な男だった。若いのか老けているのかもわからない、不思議な雰囲気のする男だった。100人長は、自身の副長セイを紹介し、短い訓示を述べた。訓示が終わると馬から降りて汗を拭いていた。そしてしばらく、命令を待った。
「カン千人隊、出陣」
サイはカンの千人隊に組み込まれている。コウ達も行進を開始する。それから、ひたすら歩いた。何日か歩いて、大草原が見下ろせるところまで来た。何万もの両軍が睨み合っている状況だった。まだ、戦いは始まっていない。味方の歩兵部隊の最前列に、カン将軍(すなわちコウ達)の隊は配置された。
「おいおい、1番前じゃねぇか。こんなの、死ぬ確率が高くなるだけじゃないのか?」
「何を言うとんねん。前やなかったら手柄を立てられへんやないか」
「何を偉そうに、ガキのくせに」
「ガキで悪いか? お前より強いで」
「何!」
「喧嘩はやめるように」
サイがたしなめた。と、同時に軍令旗が降られた。
「行きますよ」
サイが馬に乗って、動き出した。コウ達も隊列を組んで前へ進む。敵の一団もこちらへ前進してくる。当然、衝突する。この衝突の時、死ぬ者は多い。コウはダイナマイトを正面の敵兵の中に投げ込んだ。一区画、爆発によって敵前線に穴が出来た。コウは、ダイナマイトを何本か持って来ていたのだ。
突然の爆発に、敵も味方も驚いた。コウは、その中へ突進する。後は、爺や茜との練習通りだ。自分の剣の届く範囲を、完全に自分のテリトリーとして戦う。侵入しようとするものは、剣でも、槍でも、矛でも、容赦しない。かわす。かわされた敵は、その後で致命傷を負うことになる。コウは乱戦でも受け太刀をしなかった。
コウは、初陣で死体の山を築き上げた。生身の人間を斬ったことはある。あのチンピラ2人だ。通常、初めて人を斬った者は生々しい感触に“人を斬ってしまった”とショックを受けることもあるのだが、コウにはそれが無かった。
コウは、身分の高そうな敵を探した。1人いるのだが、どうも千人長クラスに見える。本当は将軍級と手合わせを願いたいところだが、将軍のいるところまでは、遠くて辿り着けそうにない。コウは諦めて、千人長で我慢することにした。
連なる敵の盾。邪魔だ。コウは、もう1度ダイナマイトで突破口を開いた。一気に、千人長の側まで距離を詰める。
「なんだ、子供ではないか」
「あんたの首を獲る男だ」
「ふん、やってみろ」
次の瞬間、5箇所の傷を負って、敵の千人長は落馬した。5箇所全て、コウの鋭い突きが甲冑の隙間を貫いていたのだった。
コウは倒れた男の首をはねた。
「誰かはわからへんけど、敵の千人長を討ち取ったでー!」
戦いは1日で終わった。味方の勝利だった。敵は逃げたが、追撃はしなかったようだ。褒美をもらった。千人長を討ったことが評価されたらしく、予想以上の金貨をもらえた。これなら、施設の仲間達に美味しいものを食べさせたり、おもちゃを買ってあげるのには充分過ぎる。
「コウ」
サイ百人長だった。
「お前のおかげで、私も300人長になれた。礼を言うぞ」
「いえ、礼をいわれるようなことは……」
「次回から、お前は一気に100人長だ。また、私の配下にならないか?」
「ええ、構いませんよ。ほな、次も一緒に戦いましょうや」
「そなたの歳は幾つだ?」
「10歳やけど」
「将来が楽しみだな」
「ほな、また、次の戦場で!」
多額の報奨金をもらって、コウは村に帰ってきた。
「神父さん、施設のガキ共に美味いもんをたらふく食わせたってや、後、本でも服でもおもちゃでも好きなだけ買うたってくれ。それが全部終わって残ってたら、それが教会への寄付金や」
サラが近寄って来た。
「おう、どうした?サラ」
「おかえり」
サラはコウの頬にキスをした。これがコウの初陣だった。
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