第4話  コウの挙式、そして初夜!

 夕食後、いつもよりも言葉数の少ない2人だった。祖父の発言によって、なんだか気まずくなっていた。コウは茜を完全に意識していた。茜も気にしているのだろう。明らかに挙動不審だ。コウは、ギクシャクした雰囲気を不快に感じていたが、何故かこの雰囲気を打破する気の利いた台詞が浮かんでこなかった。いつも女の娘(こ)と話す時には話し上手なのに。そして、沈黙状態。コウは“何か話さなければ!”と思いつつ言葉が浮かばなかった。


 沈黙を破ったのは、意外にも茜だった。


「コウちゃんは、私と結婚するのは嫌?」


 コウは驚いた。予想外の角度からの発言。コウは、茜は自分と結婚するのは嫌だろうと思っていた。茜には、きっと好きな男性がいるだろうと。だが、今の発言だと、まるで茜が自分と結婚するのを了承しているような聞き方だ。とりあえず、沈黙は破られた。コウは質問に答えた。


「僕のことより、姉貴の問題やろ? 姉貴にも好きな人はいるやろうから」

「好きな人は、いるよ」


 コウはそこでガッカリした。やっぱりだ。やっぱり茜には好きな男性がいるのだ。わかっていたつもりだが、最愛の女性が他の男性を好いている話を聞くのは嫌だ。


「ほら、ほんなら僕なんかと結婚したらアカンやんか。僕は、姉貴を束縛するつもりは無いで。姉貴は自分の好きな人と結婚して幸せになったらええねん。好きな人がいるなら、その人と幸せになったらええやんか」


 コウは気付いた。俯いた茜が涙をこぼしている。何故だ? 今の会話で泣くところは無かったはずだ。気付かない内に茜を傷つけたのだろうか? 茜の涙は見たくない。コウは焦った。


「なんで泣いてるん? 僕と結婚するのがそんなに嫌やった? 僕、何か傷つけることを言うた? ごめん、泣かんといて」

「違う、違うの。嬉しいの。嬉しいから泣いているの」

「え! 今の会話の流れで何が嬉しいねん?」

「コウちゃんと結婚できるって考えたら、嬉しくて」


 コウは固まった。なんて? 今、茜はなんと言った? 聞き間違いか? でも、聞き間違いじゃなかったら、それはコウにとって最高に幸せな展開だ。


「なんで? 姉貴は僕のことをどう思ってるの? 僕のこと、弟としか見てないんやろ? もしかして、男として見てくれてたんか?」

「うん。コウちゃんは私の大好きな男の子。あの日、動物園で助けてもらってから、ずっと好きだった。だから、何人もの人から告白されたけど全部断ってた。今まで誰とも付き合わなかった。コウちゃん以外の男性と付き合う気はしなかったから」

「でも、僕、姉貴より3つも年下やけど。それでもええんか? 頼りないとか、そういう気持ちは無いんか? 本当に僕のことが好きなんか?」

「3つ年上の私は嫌?」

「そんなことない、僕も正直に言うわ、僕もずっと姉貴のことが好きやねん。初めて会った時から。一目惚れやった。でも、一生懸命、姉弟として振る舞おうとしてただけなんや。恋人が何人もいたのは、1番好きな姉貴と付き合えなかったからや。姉貴が手に入らへんから、人数で紛らわせてたんや」

「なんだ、私達って、両想いだったんだね」


 マジか? コウは驚いていた。思いがけない展開。しかも、コウにとって最高に幸福な展開だ。夢みたいだ。まさか、自分の想いが成就するとは思っていなかった。


「姉貴が僕のことを好いてくれてるんやったら、もう何も問題は無い。姉貴、結婚しよう」

「うん、結婚しようね」

「恋人達とは別れるわ。姉貴と夫婦になれるなら、他に女はいらん。女は姉貴1人で充分や」


 コウの荒んでいた人生が、色鮮やかな景色に変わった。


 コウの高校卒業を待って、茜との挙式が執り行われた。最初は和装、お色直しで洋装(ウエディングドレス)。元々茜は大美人だが、この日は更に美しさが増していた。“この世のものとは思えない!”それがコウの感想だった。もう、茜以外の女性は要らない。残りの人生、女性は茜だけ! コウは改めてそう思った。コウは気を失うくらい幸せだった。幸福の絶頂とは、こういうことを言うのだろう。


 面倒臭くて退屈な式、披露宴が終わると……。

 そう、初夜だ!


「コウちゃん、私も布団に入るよ」

「やっと、この時が来たんやなぁ。式とか披露宴とか、長かったわぁ」

「長く感じた?」

「長く感じた。でも、姉貴の花嫁姿を見ていられたのは幸せやったで。せやから、式でも披露宴でも、僕は姉貴しか見てへんねん。スピーチとか、全然聞いてなかったわ。まあ、そんなのは後で今日のビデオを見たらわかるし。結婚写真は一生の宝物やわ。姉貴のウエディング姿、本当にキレイやった」

「もう、コウちゃん、もう姉貴って呼んじゃダメだよ、茜って呼んでね」

「茜……茜……茜……」

「呼びにくい?」

「ううん、茜と呼べるのが嬉しいわ」

「コウちゃん、私、初めてだから優しくしてよ」

「え? 初めてなん?」

「意外だった?」

「いや、茜ならそういうこともあるやろうと思ってたんや」

「処女で良かった?」

「処女で良かった」

「まずは、キスから?」

「そう、まずはキスから」



 長いキスをしながら、コウは茜を布団に押し倒した。

 優しく、ソッと。

 それは、とてもとても幸せな時間だった。







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