第3話  コウの本当に好きな人!

 その日、コウは朝早くに目が覚めてしまった。思い立って、コウはスーツを着た。


「あら、コウちゃん、何処行くの?」

「登校前の散歩や、いってきます」

「どこに行くのかわからないけど、いってらっしゃい」

 

 コウはタクシーに乗り込んで、“早朝風俗”へ。馴染みの店、馴染みの店員、馴染みの女の娘(こ)。


「あ、コウちゃん、また来てくれたの?」

「うん、また来たで」

「学校に行く前なのに、疲れてもいいの?」

「疲れに来たんや、さあ、今日は僕が攻める番やで」

「ああん、朝から疲れさせないでよ、この後の仕事に響くから」

「じゃあ、疲れない程度にほどよく攻めるわ」

「ダメ! 今日は私が攻める。コウちゃんに攻められたら、気持ちいいけどフラフラになるから」

「わかったよ。任せるわ」

「コウちゃん、今、何人彼女がいるの?」

「昨日、1人増えたから、4人」

「へー! よっぽど好きなのね。お姉様のことが」

「姉貴は関係ないやろ」

「嘘、本当に大好きなのはお姉さんだけで、4人の恋人達は、満たされない心を数で埋めようとしてるだけなんでしょ? お姉さんにはお見通しよ。素直になりなさい」

「うるさいなぁ、だったら、どないせえっちゅうねん」

「お姉さんと付き合いなさい。もうそろそろ、逃げるのをやめたら?」


 コウは何も答えなかった。後は、行為に集中して時間が経った。


「あ、コウちゃん、時間が来たみたい。服着ようか、まだ学校に間に合うでしょ」



 コウは、家に帰って学生服に着替え、学校に行った。学校では、コウは女子としか話さない。一匹狼だった。


 学校内では、コウは好きなように振る舞っていた。1年生の頃からそうだった。結果、まず3年の不良グループに目を付けられた。10人以上を相手に、1人で戦った。そんな日が続いた。コウは無傷なのに、3年生は日に日に数を減らした。3年生は、いつの間にか絡んでこなくなった。


 2年生にも絡まれた。3年生と同様の流れになった。

 そして、今、同学年の不良から毎日狙われている。だが、素人が何人来ても、コウの敵ではなかった。


 コウは、剣道部に在籍していた。1年生、2年生と、全国制覇した。受け太刀や、つばぜり合いをしない勝ち方が美しいと評判になった。だが、3年生の大会は辞退している。3連覇とか、そんなことはコウにとってどうでもいいことだった。コウはそんなことに興味は無い。ただ、“1度か2度は優勝しておこうかなぁ”と思っただけだった。周囲からは3連覇を期待する声もあったが、基本的にコウは面倒臭いことは嫌いで、周囲の声など聞いてはいなかった。


 茜も全国優勝している。たった1回だけ出て優勝して、それからは出なくなった。茜も、連覇とか、そういうのはどうでもいいのだった。茜も、“1回くらいは優勝しておこうかなぁ”と思っただけだった。勿論、茜も受け太刀や鍔迫り合いをしないスタイルが話題を呼んだ。



 その日の昼休み、茜から電話があった。


「はい、コウやけど」

「コウちゃん、お爺ちゃんが倒れたから、スグに病院へ来てちょうだい。〇〇病院よ」

「わかった! スグに行くわ!」


 先生に早退を報告するでもなく、コウは病院へ急いだ。


「爺ちゃんの具合は?」

「心臓発作だったんだけど、今回は命に別状は無いみたい」

「そうか、良かった。めちゃくちゃびっくりしたわ」

「だって、お爺ちゃんが急に倒れたから、私も慌てちゃって……ごめんね、驚かせて」

「面会は出来るんかな?」

「ええ、行きましょう」


 病室に入った。幻治郎は元気そうだった。元気な姿を見て、コウは安心した。


「爺さん、倒れるとは爺さんらしくないやないか」

「そういうな、儂も、もう歳じゃからな」

「いつ退院なんや?」

「ついでに幾つか検査することになったから、2週間後じゃ」

「それまで、門下生はどないするねん?」

「茜とお前で稽古してやれ」

「姉貴は、普段から師範としてやってるけど、僕もかよ」

「うむ、師範代ということで頑張ってみろ」

「わかった、2週間でええんやったら、やるわ。だから安心して休んでいてくれ」

「うむ……せっかくの機会じゃ、2人に話がある」

「なんやねん?」

「何でしょう?」

「儂は隠居するから、お前達2人に道場を任せる」

「2人って、どういうことやねん」

「茜とコウ、お前達は夫婦になれ」

「夫婦!?」

「本気ですか? お爺さま」

「本気じゃ。お前達は姉弟だが、血は繋がっていない。茜は私の弟子であり、源三郎の親友だった東堂君の娘。養女として肩身の狭い思いをさせてしまっていたなら申し訳無い」

「いえ、よくしてもらってきました」


 茜と初めて会ったのは、コウが小3,茜が小6の時だった。


「お前達、結婚しろ」

「結婚?」

「そして、夫婦仲良く神武流を継いでくれ」

「でも、結婚なんて、僕はええけど姉貴がかわいそうやんか」

「大丈夫じゃ、きっと上手くいく」

「爺さん!」

「今日は、もう話し疲れた。寝かせてもらう」

「爺さん!」

「茜、後は頼むぞ」

「はい。コウちゃん、行こう」

「なんやねん、クソ爺」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る