第5話 奥の手

お目当てのブツを無事に見つけることが出来た。


見つけることは出来たのだが……


「カタカタカタ」


「カタカタカタ」


2体のスケルトンが、能天気くんの死体に腰掛けて談笑しているではないか。


時折、手を叩いて大袈裟に笑う身振りをしている。肉が着いていたときは陽気な人だったのかもしれない。


人間がスケルトンなるなんて話は聞いたことがないが、骨格が人間のものである限り元のなった人物はいるのかもしれない。


──しかし、困った。あいつらしばらく動きそうにないな。


こうしてじっと様子を伺っている間も、モンスターと出会うリスクは以前として存在している。


あまり時間をかけてもいられない。モンスター以外にも、同業者と会ったときにソロはカモにされやすい。しかも俺は「呪われた民」だ。


「多少のリスクは背負う必要があるか」


命は大事だが、張るべきときに張らないといけない。幼少期の生活から学んだ経験則だ。


真綿で締めるように長時間かけて殺されるのも、爆弾の爆発で木っ端微塵になるのも行き着く先は同じ。


今後のことを考えれば是が非でもあの武器は手に入れておきたい。


そうと決まれば、一旦ここから離れよう。


1人で出来ないことは皆の力を合わせて乗り越えるんだい!



♢♢



お、いたいた。


石造りの壁の先から戦闘音が聞こえてくる。


音を聞く限りはソロではなさそうだ。


うーん、ちょっと面倒臭い。ソロだと最高だったんだけどなぁ。


冒険者は気配に聡いため覗くことはせず、隣のフロアから音だけで様子を伺う。


大事なのはタイミングとスピード。


今回の3階層の構造は能天気くんを見つけるまで繰り返したサーチ&エスケープのおかげで大体頭に入っている。戦闘が起きているフロアも申し分ない。


「もうちょっとだけ戦闘長引いてくれよぉ」


戦っているであろうスケルトンを心の中で応援しながら、戦闘フロアに別の道から回り込む。


近くに冒険者やスケルトンがいないことを確認しながらから能天気くんへの道筋に虎の子の聖水を撒いていく。


「あぁ1ヶ月分の稼ぎが……」


リュックから補充しながら計3瓶を使い切った。自分の血を流すよりもしんどい作業だった。


さぁ、ここからはスピード勝負のはじまりだ。


モンスターを寄せ付けない聖水の効果もそれほど長いものじゃない。


とにかく全速力で能天気くんのところへ走っていく。予算の都合で聖水をまけたところとまけていない場所があるのは仕方がない。あとはもう神のみぞ知る、だ。


能天気くんフロアに足音を立てて現れた俺に、スケルトンは虚な眼孔が怪しく光らせてた。


「っ!?」


俺はすぐさまUターンして、今度は冒険者たちが戦闘をしているフロアへ走りこむ。


「な!?」


「てめぇっ!?」


そのまま突っ切ろうとする俺を見て、冒険者二人組はすぐに目的を察した。感のいいやつらめ。


冒険者が相手取っていたのは2体のスケルトンだった。


「アタァッ!」


すれ違うときに後衛の1人が逃すまいと伸ばした杖を蹴って弾き飛ばす。ラッキー、なすりつけるついでに武器も奪えた。


これであとは聖水ルートを通って、能天気くんのところへ行くだけ。


後ろから怒声と悲鳴が聞こえるが気にしない。


素直に計算すれば俺の連れてきた2体を合わせて、4体のスケルトンが楽しくワルツを踊っていることだろう。


「ふっ!」


最後の仕上げに足元に癇癪玉を叩きつけて逃げる方向からもモンスターを呼ぶ。このためにわざわざ隣のフロアから聖水をまいたのだ。


このを使うときは絶対に目撃者を残しちゃいけない。


残せばモンスターに代わって人間にリンチにされる。命ばかりは何て虫の良い考えだろう。それになすりつけは発覚するとギルドからも重い処罰が下される。


なので彼らを生かしておく理由は一つもない。


グルリと周って、能天気くんが寝ているフロアに転がり込むように入れば狙い通りスケルトンは残っていない。


「えー武器武器冒険者証──っ!」


しかし、安心してはいけない。時間をかければかけるだけ別の冒険者に顔を見られるリスクも、周辺に集まってるモンスターに囲まれる危険がある。


せっかくのイベントを駆け足で済まさなければならないことは勿体無いが、贅沢はいってられない。


手早く能天気くんの体を漁って、冒険者証と素人の俺でも一目で業物とわかる短剣をリュックに入れる。


さぁ、あとは帰るだけ──なのだが、念の為にしばらく2階層で待機する予定だ。


難易度はさらに上がるけど、もしも彼らが生き延びた場合は次の手段を考えなければならないからな。

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