第2話 グレスピは地獄だぜ
『グレートスピリッツ』とは前世で流行ったローグライク要素の強いソーシャルゲームだ。
「助けて、助けてください!!」
入るたびに更新されるダンジョンと、キャラクターロストのシビアさが好評を博した。
懐かしさを感じるドットのキャラクターたちもおじさんに刺さる要因だったのかもしれない。
「だれかっ、だれかミゲルを助けてください!」
俺も休みの日には散々やったものだ。
前世でどうやって死んだかの記憶はあまり定かじゃないが、最後の方は仕事が忙しすぎてログインボーナスをもらうぐらいしかできなかった気がする。
「お願いします!なんでもしますからっ!」
「おい入り口に座り込むな、邪魔だよ」
「きゃっ!」
ゲーム内には色々な種族がいて、それぞれパラメーターに特徴がある。
結局育てたキャラクターでアイテムを手に入れて、先に進んでまた死んで、仲間に装備とスキルを継承して──みたいなことの繰り返しだ。
「だれか……、だれか……」
俺が転生したのは『呪われた民』というキャラクターだ。
全体のステータスは低いが、状態異常にかからないという特性を持つ。
ゲームでは割と当たりの部類の種族ではあったが、この道徳という概念が抜け落ちた世界に産まれてから大変すぎて。とても喜ぶ気にはなれなかった。
「うううぅぅ……」
神の塔『グレートスピリッツ』。
どんな願い事でも叶うと言われるこの塔に冒険者たちはパーティーを組んで塔に登る。
キャラクターは基本死ぬ。
出てくる敵が強すぎるし、初見殺しに溢れている。
入るたびに内部は変わるダンジョンだが、さすがに出現するモンスターは決まっているので、キャラクターを真面目に育てたければ到達階層を決めて、撤退を繰り返すしかない。
かなりのレベル差が無ければ斬撃無効や魔法無効を当たり前のように持つモンスターにさくっとに鏖殺されるはめになる。
この世界に生まれ落ちて20年余りいまだにこの世界にレベルという概念があるかはわからないが、基本的にレアアイテムを持ち帰るまでは5回ぐらいはパーティーが総入れ替えする。
運良く龍人などの珍しい種族を引ければ、多少は楽になるだろうが。
「お待たせしました。薬草の品質の確認が終わりました」
おっと、いつの間にやら職員さんが奥から戻っていた。
営業スマイルなんかはないが嫌悪に塗れた視線を送ってこないだけ有難い。
他人の悪意ってやつはどれだけ慣れようが不快なことには変わりないからな。
「こちらが報酬です」
「ありがとう」
まったくギルド職員さんだけだよ、俺の姿を見ても表面上は普通にしてくれるのは。
この世界に生まれ落ちてからようやく、物を受け取るときに地面を経由しなくていいことを思い出せた。
薬草の採取で銅貨10枚。一食が大体銅貨3枚だから、今日の食費ぐらいの稼ぎになった。残った1枚で馬小屋にでも潜り込むとしよう。
報酬が依頼書通りに貰えることも本当に助かる。
運よく肉体労働なんかにありついてもピンハネが当たり前だったからな──おっと、こんなところで蹲ってちゃ危ないよ。やれやれ、最近の若者はどこへでも座り込むのだから困ったもんだね。
まったくグレスピは地獄だぜ。
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