死にゲーに転生した俺は今日も生き足掻く
たぬき
第1話 死んで覚えろグレートスピリッツ
ギルドでダンジョン関連の依頼を漁っていると、入り口のスイングドアが勢いよく開いた。
「おおーっ!ここが冒険者ギルドかぁー!?」
「ちょっと、ミゲル!恥ずかしいから大声出さないで!」
大人と子どもの間のような能天気な声がギルドの中に響く。
恥ずかしそうに金髪の青年の服を引っ張っているのは同じパーティーの仲間なのかもしれない。
「シェリル、恥ずかしがる必要なんてないぜ。この瞬間は記念すべき日なんだ!なんてったって、今日この瞬間にグレートスピリッツを攻略する冒険者が生まれることになるんだから!」
「もう、ミゲルったら……。いい加減にして!」
バチンと派手な音が響く。後ろの娘が能天気な青年の背中を叩いた音だった。
「いてて……、シェリルは手が早すぎる」
周りを見れば、すでに彼らに興味を向けている冒険者はいなかった。
そりゃそうだ、若者の無謀さを咎めるほど余裕のある冒険者はここにはいない。
夢と希望が枯れ果てた地が冒険者ギルドだ。俺だってもっと楽な手段があればこんな仕事頼まれたってごめんだ。
「げっ」
そんな余計なことを考えていたせいか、俺の視線はいつの間にやら入り口のほうに向いていたらしい。
俺のピントの合わない眼が新米共の眼とぶつかってしまった。
「忌み血だ」
俺と目があった能天気が害虫でも見かけたような声を出した。
そういえば今日はフードを被り忘れていた。ギルドに慣れて気が抜けていたのかもしれない。ギルドの人混みでもこの褐色の肌はあまりに目立つ。
「ちょっとミゲル、シーっ!」
「あ、ああ。ったく、初日からケチが着いちまったな。ギルドに忌み血までいるなんて……」
「やめてよ、関わりたくもない……」
先ほどのまでの牧歌的な感じはどこへやら。
ただでさえ厳しいこの世界で俺の難易度は相変わらずルナティックにすぎる。
その後もコソコソといざとなれば誤魔化せるぐらいの当て擦りを吐きながら、ルーキーは受付へと進んでいった。
慣れきったはずの差別に晒されるたびに日本が恋しくなる。
30年日本で暮らしていた俺はこの世界で初めて本物のレイシストと出会うハメになった。というか、そんな奴らとしか出会っていない。まともに会話になるのは同じく忌み嫌われる爬人だけだ。
ゲームの頃はただのキャラクターの種族としか、思っていなかったんだけどなぁ……。まさかここまで嫌われているとは。
依頼書をめくる自分の浅黒い肌を何度憎く思ったことか。
褐色の肌に前世と同じ黒い髪。
それはかつてプレイしたゲーム『グレートスピリッツ』のキャラクター『呪われた民』そのものだ。
「ほんとグレスピは地獄だぜ」
「死んで覚えろ」を地でいくゲームから生まれたお決まりの言葉を吐きながら、俺はまた依頼書の中身に集中した。
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