第一話 展開が怒涛過ぎる───!!
「エ! すっゴーイ! こんな偶然ってあるんですね! インクレディブル!」
グッと両の拳でガッツを作り、キラキラとした目で迫る少女。
その激しい動作でフワッと、甘い香りが鼻腔に侵入した。
慣れない女の子の可愛い声に仕草、香り、と……あらゆる情報が新鮮を超えた鮮烈なインパクトとして、一度に押し寄せてくる。
驚きのあまり俺の瞳は、線香花火を宿してしまった。
「え、え、え」と、取り乱す俺に、金髪少女は、妖精のような笑顔で続ける。
「まさかニッポンに来て初めて話しカケたヒトが! ラブフレを知ってイルナンテ! テンションバクアガリー! ですよ! それこそ! ファブロッキーズにソーグーしたような!」
て、テンションばくあがりー!? ふぁぶろっきー? 何それ!?
動揺のあまり、頭が回らなくなってしまってるのか、「え、え、え」と困惑を漏らしながら、頭の中でオウム返しする俺。
「ヒャッホー! アナタはここでエロゲー! よく買ってるんデスカ!?」
アナタはここでエロゲー! で、区切られたことに過剰反応を示しつつ(心の中で)、「よくは買ってないですよ! なんならこの店自体初めて来ました! エロゲー買うのも今日が初めてです!」
と、何故か敬語で返す。
俺の中の何かが、崩れ落ちたような気がしたが今は、この場を早く切り抜けようと頑張るので精一杯だ。
「ワーオ! それはそれは、なんとセレンディピティ!!!」
両手を口にやり驚く少女。
そしてまた、知らない言葉にセレンディピー? と頭の中でおうむ返しする俺。
もしや、これが言語の違いというやつなのだろうか。
ふと、そんなことを思いつつも、少しはしゃぎ過ぎたのか緊張が解けてくるのが分かった。
そうすると今度は、店の外で待たせてしまっている妹の存在を思い出す。
「あ! やばい早く買わないと咲が! すみません! 俺急いでるので今回はこれで! 話しかけてくれてありがとうございます!
楽しかったです! ではさようなら!」
そう、勢いだけで挨拶すると、ラブフレのソフトを手にレジへと向かう。
「エ! あの! ちょっと待ってください!」
「え、なんですか!」
すると、金髪少女は大急ぎでスマホにQRコードを映し出すと、前に突き出した。
「連絡先! 交換しませんか! 今日こうして会えたのも何かの縁! ニッポンでは一期一会というんでしタッケ? だから……あ、この曲は」
店内の音楽が切り替わると同時に目を
様子の変化は感じ取ったが、急いでいたため、俺は「お、おう」と、素の返事でQRコードを読み取ると、茫然と立ち尽くす少女を尻目に、レジへと向かいエロゲーを通した。
会計を済ませると店を出る。
「お兄ちゃん、やっと来たか」
妹は駐車場の近くに立っていた。
「咲ごめんな。 エロゲーを買いに来た女の子と話してたら遅くなった……あ」
「女の子?」
急ぎ過ぎて思考をまとめる余裕が無かったからだろう。 咄嗟にさっき起きた出来事が口をついて出てきた。
妹の目が猫のようになる。
「お兄ちゃん、妹外で待たせて女の子とェロゲーの話してたんだ」
相変わらずエロゲーの部分だけふにゃふにゃになりながら言う妹にどう言葉を返せばと悩みながら俺は「ごめん」と、頭を下げて謝った。
はあ。 今日の俺は、大事な何かを崩し、妹を外で待たせた挙句詰められると……なんて情けない奴なんだろう。
穴があれば潜って上から土を被せたい……。
すると、妹は、ニコッとイヤらしくはにかんだ。
「ほんと隅に置けない奴だなーお兄ちゃんはー! それでそれで、何話したのその女の子とは?」
意外な反応に面食らいつつも、「あ、それはな、えと……って言ってもそんな大した話でも無く」と前置きをすると。
「うんうん、勿体ぶらずに早く言って」
と、目を煌めかせる妹に「エロゲー探してる時に、あなたもラブフレ買うんですかって……」と、説明していると横から遮るような声が聞こえた。
「アナタは先程の! まさか店出てすぐにサイカイ出来るとは!??」
その驚く声と、カタコト混ざりの言葉は、まさにさっき聞いた金髪少女のものだった。
てっきり、店を出た後は何事もなく、妹に店の中で起きた出来事を話しながら二人で、あの少女とすれ違うこともなく
そして、金髪少女の方を見ると、その少女は妹の方を見ていた。そしてまた驚きの声を出す。
「て、あなたは!? ドナタデスカ!? この方のツレデスカ!?」
「はい! この人は私のお兄ちゃん! 私を待たせて買い物してた人だよ!」
妹は予想もしてない事態にあったのか、動揺しながら返す。
「いやそれなんか、語弊ないか!? いや事実だけど!」
と、咄嗟にツッコむ俺。
金髪少女は驚いている。
「ワーオ! 妹待たせてエロゲーを買うなんて、なんてクレイジーな方デショウ!
ファッキューデスネ!」
中指を立てる金髪少女。
人に中指を立てられるのは、これが初めてで、それが原因なのかは定かでないが、どことなく、クるものがあった。
これは……新たな扉の開く音か……!?
「あ! いや待たせてェロゲー買ってたのは事実だけど、そうさせたのは私だからお兄ちゃんは悪くないですよ! 寧ろお兄ちゃんは私に気を遣って今日、ここに私と来てくれてるんだし……!」
金髪少女の反応に、自身の発言が意味することを察したのか、妹は慌てて弁明を図る。
「エ、そうなんデスカ?! 気を遣ってここに……私はなんて早計で、トンデモナイ勘違いを…… タシカニ別れ際、待たせてるとか言って急いでマシタモンネ……申し訳ゴザイマセン!!」
どこまで、どういう風に伝わったかは分からないが、深々と頭を下げる金髪少女。
「いいですよ! いいですよ! それより……さっきお兄ちゃんと話してた女の子、ですよね?」
「は、ハイ……ソウデスガ……」
頭を下げたまま答える金髪少女。
「もう頭上げていいよ!」
咲もこんな状況にあうのは初めてだろう。
空気を上手く取り扱えない様子だ。
そんな、妹の反応に俺はやっぱ兄妹なんだなとホッコリする。
「ハイ……」と、ちらり綺麗な碧眼を覗かせる少女。
すると、妹は「何話したの?」と目を煌めかせた。
「お兄ちゃんから聞いてない、店から出てアマリ経ってなかったんですね」
と、前置きを入れる少女に「うん」と頷く妹と、結構思ったことを口にするタイプの子か。と戦慄を覚える俺。
少女の「では、アナタガタノ家の方向はどこですか?」という問いに、「こっち」と答えた所で、「oh! なんというセレンディピティ! では、私も同じ方向なので歩きながら話しましょう」と、切り出した。
「セレンディピティ?」と、頭上にはてな記号を浮かべながら、「そうだね」と言う妹。
そして、少女がレッツゴーって言ったところで兄妹で続く。
「その出来事は……て、その前に自己紹介しなければですね!」
そう言って「ワタクシ! 生まれはフィンランド! ソダチはトーキョーのアイラ・コルホネンと申します! 今日会えたのはナニカの縁! お連れの方も是非! ナカヨクしてくださるとシアワセでーす!」 と、自己紹介をする。
まさかのフィンランド生まれの方!?
でも、日本育ちなら別にカタコトになる事も……。なんて思いつつ、俺たちも軽く自己紹介を済ませる。
握手をすると、その手の細さと温もりに浸るのを遮るように「では改めて」と切り出すアイラ。
再び「その出来事は」と語り始めた。
「今思えば驚きの連続デシタ……。
実はキョウ、エロゲーのラブフレを買うべく店舗巡りをシテイマシテネ。 ちなみにここは、ニケンメデス」
え、何この海外インタビューみたいな語り口調。
「へー、そうなんですね!」
楽しげに相槌を打つ妹。
「はい! 一軒目は、ツタリャーという大きめなお店でしたが、悲しくもラブフレ置いてイナカッタノデスヨ。 ま、一軒目でゲットするなんてことの方が珍しいかとオモイマスが、それは置いといて。
二軒目、つまりここのお店───まさか私にこのような出会いが待ち受けているとは、思いもしませんデシタネ」
「おおー!」
そうして、アイラの海外インタビューのような語りは三十分ほど続いた。
俺の頭に、もしやこの人、頭にアンテナでも生えているんじゃないか? 俺が言えた事じゃ無いけど。なんて言葉が浮かんでいた。
それからは、和気藹々と案外悪くない空気に包まれながら家に着くと、別れの手前で少女が手を振ってくれた。
「では! カエッたらマタ連絡クダサイねー! ハバナイスデー」
俺たちも手を振りかえす。
金髪の少女はにこやかに自分の家の方へと走って行った。
その後、俺たちも家に帰るのだが、時刻は午前二時過ぎ。 案の定両親にこっぴどく怒られ、俺に関しては妹の管理を強く問われた。
妹は見切り発車でかつ、暴走機関車みたいなやつだから、一度決めたら俺の手には負えない……なんて言い訳はやめておいた。
俺の落ち度であることには変わらなかったからだ。にしても、天国から地獄に落ちたようだ。
こうして、俺は丑三つ時にベッドに着いた。
いつもなら五時間コースだったのだろうが、深夜だと言うこともあってお情けを頂いた。
このことを俺は重く受け止めて、今後の行動に反映させなければいけないな─────
「……て! お……て! おに……ん……起きて! お兄ちゃん起きて!!!」
気付けば朝が来ていた。 昨日何か思って寝たと思うのだが、それが何なのか思い出せない。
まあいいだろう。どうせ俺のことだ、それほど大事な事でもないだろう。いや、そうでも無いな。昨日の夜した反省を思い出して、再び反省する。
そうして思いっきり伸びをしたあと、「お兄ちゃん! やっと起きた!」と、慌ただしく、朝練に向かう準備をする妹。
俺は妹に礼を言うと、洗顔をして、朝食へと向かった。
平日の親父は朝、仕事が早く、妹は朝練の都合で一足早く朝食を済ませる。
だから朝のテーブルを囲うのはいつも母と俺の二人だ。
今日の朝食は昨日のこともあって、気まずい空気の中、
心配そうに潤む母の眼と、強い語気に胸を突かれて、申し訳ない気持ちで一杯になった。
もう二度とこんな事はしない。
俺はそう胸に誓い、朝食を済ませると急いで準備を整えて、学校へと向かう。
いつもなら、その道すがら可愛い女の子とのイチャラブを妄想してウキウキしているのだが、罪悪感が強すぎる。
ただ胸の内で妹に悪い事したな、親を心配させてしまったなと反芻するばかりだ。
きっと、昨日の俺に対する罰だろう。
自他に甘くて能天気。 結果周りに迷惑をかけたクズな俺に対する。
仕方ないし、寧ろ有難いくらいだ。
暗鬱な気持ちで学校の門をくぐり、席に着く。
俺の気持ちが暗くなる一方で、変わらず盛り上がりを見せる周囲のテンション。
自分の矮小さが、より浮き彫りになるようで辛かった。
朝のホールルームが始まった時、俺は先程の三分の一ほどにまで縮こまっていた。
それこそ、机の中に潜り込めるんじゃないかってくらい。
いや。潜れるものなら今すぐにでも潜りたい。
チャイムが鳴って生徒が席に座り始めると、先生が壇上に上がった。
朝のホームルームの空気になった時、先生が口を開いた。
「朝のホームルームの前に。 今日からこの学校で授業を受けることになった転校生を紹介します! 女の子だかんなー色目使うなよー」
転校生? どうしてこんな唐突に。
というか、女の子なのかよ!?
それにしても、このふわふわっとしたトーンでの強い私怨。
皆は思ったことだろう。
転校生。 絶対かわいい子だと!!
「はい、教室へどうぞー自己紹介お願いねー」
「ハイ! カシコまりーマシタ! 先生!」
嘘……。
この聞き覚えのある声に話し方。
教室のドアを開け、入ってくる金髪の少女。
マジかよ────
少女が黒板の前に立ち、こちら側を向いたとき、ハッと少女は両の手のひらを口元にやった。
目がキラキラと揺らめいている。 白い陽射しを反射する爽やかな海面のようだ。
「アナタは!!!! あの時の……」
俺もまた驚いていた。 口を半開きにして固まるくらいに。
自分がそんな恥ずかしい状態になっているという事に、気付かないくらいに。
この青春コンプにオワカレを!!! とm @Tugomori4285
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。この青春コンプにオワカレを!!!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます