第4話 夢
夢。寝ている間に見る光景。人によっては現れない光景。
ちなみに私はよく夢を見る。基本は作家も思いつかないほどのびっくりファンタジーである。例えば、トイレに1mくらいのミニティラノサウルス何匹も突撃しにきたり、スーパーの野菜売り場で全身青い人たちに捕まったら負けゲームが開催されていたり。起きてからも記憶がまあまあ残っているので、なんじゃらほい、と思い出しては楽しんでいる。
そんな夢たちをつなぎ合わせるかのように、ストーリーができることもある。続きが見たくて5度寝をするくらいには面白い。ただ、毎回良いところでプツン、と夢が途切れてしまうから勿体ない。来週放送してほしいくらいには待ちわびているのに、日を跨いだアンコールは未だかつてない。他にも妙にリアルな感覚として身体に残っているパターンもある。桜咲く第三王立学院へ行った日の夢もそんな感じだった。たま~に面白半分で[夢分析ツール]なんてものをネットで覗いてみるが、あまりにも場面と登場人物が特殊すぎて当てにならない。夢って意外といろいろなことに繋がりがあるらしく、私の能力が【つながり】である以上、何かしらの意味はありそうなんだけれども。今のところは何もわかっていない。
「なんなんだろうな~」
そうやって青空に向かって問いかけてみた。午後2時のベランダから見る、キラキラ光る太陽はもう夏のようだ。まだ新学期に皆が慣れないというのに季節はもう次のステップへ行くのだろうか。
《そのうち分かりますよ~》
太陽さんからの返答。この言葉もまた、私の中から自然と生まれるようにして紡がれている。気が付いたら、殆どの存在と【つながる】ことができるようになっていた。何か特別なことはしていないけれど、つながりはじめてからのレベルアップが早すぎる。神様たちのお声とつながったと思えば、精霊さんや妖精さん、はたまた物とまでお話ができるようになってしまった。つながっている間は、人間の言葉では伝わらないことも念じると伝えられたり、相手の伝えたいことが頭の中に言葉として現れるようになったりする。【つながる】ことで意思疎通ができるかといわれると、会話はできるけれど意見交換みたいなイメージの方が強いかもしれない。とはいえ、両親に説明したら一発でレスト行き決定なほど、私には様々な存在とつながるので超常的なことが毎日起こり続けている。
この、【つながる】ことこそ、私の【能力】であることはここ3か月ほどで感覚的に解ってきていた。始まりは勝手に私が天気予報を祈りスポットで始めたこと。数秒後に雨が本当に降ってきていた。
応用して場所同士を繋げることも可能だが、私の消費するエネルギーもそこそこ多いのでたらふく食べられる時以外はあまり使うことがない。そもそも【能力】を意図的に使うと消費するエネルギーも多いので、気になること以外ではお腹が空かないようにセーブしている。だってね、食費も大事な生活費なんだもん。
〔まあ焦ることはねえよ〕
と、俺くん?からも返答があった。
この【つながる】ことに対して、私は自分の【能力】を十分に使いこなすところまでは出来ていない。太陽さんのように、私が望んだ時に教えてくれるパターンもあるけれど、良く分からん内的I型さんたちのように勝手につながってしまうことだってある。いわば、何時鳴るか分からないスマホを常に携帯しているものなのだ。受信するメッセージも圧縮ファイルなので時間が経たないと分からないこともある。意識が飛んでいるときには、よりつながる力が強まっているのだが、コントロールが出来ていないのか、つながったはいいけれども記憶がないということもある。きっと意識が飛んでいる間は、無意識に何かしらとつながっているんだと思う。実生活のこともあるので、出来れば制御したいところだ。
「ほあ~い」
傍から見ればデッカイ独り言を言不審者女子大生だが、寮の中のベランダだしまあいいか。聞こえていないだろうし、他学年は授業に行っている時間だ。卒業まで1年ずれてしまった私は、皆が講義を受けている時間を悠々自適に洗濯物を干す時間へと当てている。リッチな時間割だ。一人暮らしで生活している人ってすごいよね。本来ならもっと忙しいはずなんだもん。すごすぎる。
さてと。お昼も食べたし、洗濯物もかけたし。夜ご飯の準備もレンチンでいいから今日の家事は終了!よし、昼寝しよう!
上述の通り、夢を見るのが面白くて大好きな私にとって寝ることはすなわち冒険を見せてくれる面白い遊びの一つだ。体力もそこそこ回復するし一石二鳥。さてさて、寝るぞ~。
日差しであたたかな布団にダイブした私が、昼寝を後悔したのはこれからちょい後のこと。
(...ここは?)
いつも以上にふわふわとした布団の感触。甘いユリの香りもしている。なんというフレグランス、柔軟剤サイコーですね。うん、いい寝心地。
「お......ま」
耳元でなんか聞こえる。なんか優しいお兄さんって感じの、こう、アニメに出てきそうな、やさし~い声。フレグランスの次はASMRですか、趣味ではないですが悪くはないですね、よきかな、気分やすらかに眠れる午後よ...
「おじょさま」
うん、声は良いんだけれど眠らせておくれ。こちとら家事を頑張った私ですよ~。それともこちらの声や意思が相手に伝わっていないのかな。【つながる】能力のコントロール不足で一方的に聞こえているユリの精霊さんかな、それとも日差しの妖精さん?...にしては、声、低いよね......
「起きなければ何したっていいんですよね、」
「僕の愛しの僕の、ぼくだけのおじょうさま」
「はようございます、誰っすか」
あかん、これはなんかあかんやつや。現実じゃこんな人は知らないので夢だろう。
ふとん?を全力で引っ張って声の対象を探す。もうすぐに逃げ出したいけれども、足には力が入らない。相手の顔だけでも覚えておくつもりで声の方向へ目を合わせる。これから夢が醒めるまでに何回会うか分からないから。
良かったこと。今回の夢は夢だと自覚しているパターンだ。夢だと自覚さえできていれば、【つながる】能力が使えることがあるし、夢から現実の脱出もまだ容易なはず。
良くないこと。要らぬオプションとして言えることは、この夢が温和じゃないパティーンであること。なんて言っていたかはあんまり聞き取りたくないし聞いてなかったけれど、圧がすごかったのは確実だ。それも脊髄反射で掛け布団をたくし上げるほどには危機感が迫っている。
「う。まぶっし、」
目を開けるとまず、視界にはアホほど広い窓が左方向前面に展開されており、日の光が視界を全て遮っている。大きな窓から煌々と入る日光はとても心地が良い。どうりでふとんも温かいわけだ。部屋の様子は日光によってほとんどが影になり見えないけれど、窓際に人らしい姿がある。で、天井にはバカデかいシャンデリアのシルエット。ええと...洋風のお宅の寝室っぽいですね。
「ああ、またお忘れになりましたか」
妙に嬉しそうな声色で話す相手は逆光のせいで全体的に黒く浮かんで見える。顔も見えない。んでもってシルエットは細い。体形的には私のような柔らかいO型(女性的)ではないので、おそらくI型(男性的)か。やべえじゃん、力くらべとかじゃ勝てない感じかもしれない。刺激しないよう会話をしつつ、脱出ルートを探して夢から醒めよう。この危機感からはしばらくは愉しいおにごっことかになりそうな予感。よし、自分のステータスの確認を会話でしてみよう。
「え、ええ...長い夢を見ていたみたいで。あなたは、だれ?」
まるでおとぎ話のようなかわいいセリフを言ってみましたよ、誰かさん。よろこんでくださいまし。さてさてそのうちに設定確認、っと。
【つながる】この夢の世界 私の設定 開示
これで意図してっと。
(設定:ひめ? 屋敷に閉じ込められている。両親とは別居。執事(詳細不明)によって軟禁されている。この部屋から外に出ることは禁じられている。)
「ええと、わたしはジョンです。あなたの執事として10年前から仕えておりますが、お父様からの遺言で夫になったものでもあります、いとしの....」
おおい....あんまりじゃないかこれは。肝心のところが抜けている。なぜそうなったんだい、おひめさんよ。執事の後に書かれているしょうさいふめい、ってなんだ。直前の両親との別居との関連性も気になるし、何かしら執事となんかありそうだし、直後の軟禁って......。
設定もひどすぎるけれど、現在進行形で行われている執事?の発言もひどい。パワーワードマシマシ過ぎだろ。特に「軟禁」は洒落にならない。本当になにがあったんだ、ひめさんよ。圧倒的なパワーワードに情報不足が過ぎる。つながる能力のコントロールが完璧じゃないとはいえ、ここまで情報が断片的だとこの後の行動の選択肢も考えるのに難航する。何度も言いたいが、「軟禁」はあかん。たとえ、それが設定でも夢でも。「お父様の遺言」ってことは設定上のお父様とは今の状態からは会えないっぽいし。両親が別居しているということは、今この場面には助けを求める相手がいない、ってコト...?
そんな状態で、執事から自分自身は「夫」ですよ、の発言はよくあるバッドエンド後のお話じゃあないですか。何されたんすか、過去に。何をしでかしたんですか、そのひめ?って人は。
「じゃあ、頼れる人ってもしかして...」
「ええ、なんでも教えて差し上げますよ。僕だけのおじょうさま」
うおおおお。お腹から背中がぞわぞわする。
顔も見えないのに、口角があがったしっとり冷たい低い声。なんかねっとり甘い感じがするのは、この執事さんのあいじょーひょーげんとかいうやつですかね。
なんか私の知っているものとは違うんですけれども。
ちょ、夢のチェンジってできましたっけ?
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