第63話 小学校の頃、バカな神童だった。
私は親の仕事の関係で、子供の頃しょっちゅう引越しをした。
小学校は1、2年と3、4、5年、そして6年と三回転校している。
だから風景とか家の感じで、大体何年生くらいの時の記憶なのか、けっこうはっきりわかる。
そして、私は覚えなくちゃいけないことは、てんで覚えてないんだけど、どうでもいいことに関しての記憶はすこぶるいい。
親戚とかに、「よくそんなこと覚えてるわね」と、いまだに言われる人間なのだ。
ふたつめの小学校の時だから、10歳くらいの時だろうか、あまりテレビを見せてくれない親だったから、親が見ているテレビを一緒に見ることが多かった。
だから好きな番組が大河ドラマとか、日曜洋画劇場という小学生に仕上がった。
ある日、日曜洋画劇場を見ている時、「外国の人って日本語上手だね〜」と、親に向かって何気なくつぶやいた。
だって、ほんとにそう思ったから。
それに対して父親は、顔色ひとつ変えず「そうだな」と返した。
めんどくさくてそう言ったのか、イタズラ心だったのか、今となってはわからない。
とりあえず『吹き替え』と言うシステムを知るまで、ずいぶん長いこと信じこんでいた。
*
「原告と被告がわかいしました」
わかい?
若い?
原告と被告が若い、しました?
小学校の頃、この単語がずっと気になっていた。
原告と被告のイメージはぼんやりあったけど、この『わかい』には、だいぶ手こずった。
なら、とっとと親なり先生なりに聞けよ、って話なんだけど、テレビのニュースで耳にするたび、気になっては直後に忘れ、ということを繰り返していたのだ。
そして、忘れもしない、小学校5年生になって、はじめて
「わかい=和解=争いの当事者が譲歩し合って争いをやめる約束をすること」
だと知った。
長年の疑問がスッと解けて、なんだか自分がひとまわり大きくなった気がした。
そして、「これで、世の中の8割のことは理解した」。
なぜかそう思った。
『和解』という言葉の意味を知っただけなのに、ずいぶんなうっかりさんだ。
あと、これも小学校の時だけど、ずいぶん長い間考えてたことがあって、
それは、『私とは、なんなのだろう』ということ。
私には、〇〇◯子という名前がある。
だけど、それは私を表す呼び名であって、私自身ではない。
『私』とは、私を生かしている心臓だろうか?
でも、それは私が持っている心臓という臓器であって、私ではない。
なんてことを、田舎の学校の帰り道、重いランドセルを肩に食い込ませながら、ちょいちょい考えてた。
その時点で出した結論は、私の脳で考えだす『意識』なんじゃないかということ。
これは、私だけのものであって、形にはできないけど、私にしかできないことだからな、と考えたのだ。
それから、同じ時期に、自分の中ではやった遊びがある。
それは、「何も考えない」という遊び。
水に飛び込むときみたいに、頭の中で、「せーの」とタイミングを測って、一切の思考を停止してみる、というもの。
頭の中を真っ白、というか、私のイメージ的には真っ黒にして、何も考えない瞬間を作る。
でも、思考を停止しようとしても、できないんだな、これが。
「今度はうまくいってるかな?」
「あ、今、また考えちゃった。無心、無心」
「って、無心にしようって、また考えてる」
というように、なかなか難しく、成功したことがない。
私はなぜそんなことに、労力を費やしていたのか?
それは、私にもわからない。
今ふり返ってみても、わからない。
大人になって、小学校の頃、世の中の8割のことを理解した、と思ってた、と友達に話したことがある。
すると、しばらく間があって後「っていうか、小学生でそういう風に考えること自体が特殊だよ」と言われた。
そうなのか?
言われてみれば、確かにちょっと変わった子だったかもしれない。
小学校の頃は、授業がつまらなくてしょうがなかった。
「どうして先生はこんな当たり前のことを、毎日したり顔で説明するのだろう」と不思議に思っていた。
成績表も、なんの努力もしなくても、体育以外はオール5だった。
でも、まわりのみんなの成績表も全員オール5だと思っていた。
「どうして先生は、全員同じなのに、成績表なんて、まどろっこしいものをつけてるのだろう」とも思っていた。
賢いのか、バカなのか。
まあ、中学生になったら、成績が坂道を転がるように落ちて、どうやら全員オール5ではないらしい、と身をもって知ることになるのだけど。
小学校の時は、時間が有り余ってて、どうでもいいこと考える時間がたっぷりあったんだなあ、と思う今日、この頃。
〜終わり
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