第60話 お行儀悪いんだけど効率的、ってのはあるよなあ

その日は、ナタリーの仕事が遅くなって、うちでの餃子の夕飯を一緒にとっていた。


ちなみに、ナタリーはゆるいベジタリアンで、例外の日がちょくちょくある。この日も、ちゃっかり例外日。


私は皮は市販だけど、餡は手作りしていて、ちゃんと数えたことはないけど、冷凍用も合わせてたぶん100個以上は作る。


餃子を包んだ日は、とにかく、ひたすら餃子を食べまくる。うちの餃子は野菜がたっぷりで、肉はつなぎくらいにしか入れていない。だから、ご飯のおかずというより、そのままポイポイ食べるイメージ。


テーブルの上の大皿に、餃子を山盛りにして、子供たちはそのまま、私とナタリーは、ビールのお供として、餃子を食べていた。


子供がおかわりを欲しがった時、私が大皿からいくつかを取り分けた。


「なるほどね。前から疑問だったけど、そうやるわけね〜」


ナタリーが私の手元を凝視しながら、つぶやいた。「は?」「え? あ、お箸。お箸の使い方」


その時、私は取り分け用のお箸を持ってくるのがめんどうで、お箸を逆さにして子供たちに取り分けていた。


「あ、いや、これは本来はお行儀が悪いとされてるやり方で、あんまり推奨されるべき使い方ではなくって......」「前から、ずっと不思議だったのよ。なるほどね〜」


聞いちゃいない。


無意識にしてたことだけど、日本で暮らしてなけりゃ、確かにこの使い方は見たことないだろうなあ。


近所のバーに一緒に行って、ナチョスを頼んだ時も、似たようなことがあった。


このナチョスっていう食べ物は、いろんなパターンがあるんだけど、バーとかでは、トルティーヤチップスにチーズとかをまぶしてオーブンで焼いて、サルサ(トマトベースのディップソース)と、ワカモレ(アボカドベースのディップソース)をつけて食べるパターンが多い。


大きめのボウル満杯くらいをひっくり返した量のナチョスと、小鉢くらいのボウルにディップソースが一種類ずつ入って出てくる。


はじめてナタリーとナチョスをシェアした時、私はサルサとワカモレのボウルから半分ずつ自分の取り皿にぶちまけ、ボウルの分のソースはナタリーに渡した。よく考えたら、これってマナー違反なのかな、とも思うけど、これなら『二度漬け禁止』しなくても、好きなだけつけて食べられる。


すると、いつも弾丸のように喋るナタリーがめずらしく無言だった。


ようやく喋ったかと思えば、「なるほどねえ。それいい考えよね。今度から私もそれやろうっと」と、感心している。


またも、私の頭の中は?マーク。


要は、今までは、なにも考えずにボウルの中のソースをシェアしてたけど、ナタリーはちょっぴり潔癖症気味のところがあるから、私の「はなから分ける」やり方がいたく気に入ったみたいだった。


言われてみれば、日本で串カツ屋の『二度漬け禁止』があるように、ソースとかをシェアする事ってない気がする。


醤油もソースもちゃんと一人分ずつ、小皿に入ってるもんね。


こういうことって、長年、体に染み付いてて、自然にやっちゃう行為なんだと思う。だから指摘されるまで気が付かない。


反対にナタリーから学んだこともある。


その日、ナタリーはベジタリアンバーガーを頼んだ。


そして、バーガーが運ばれてくると、


「本当は、こういうのあんまりやるべきじゃないんだけどさ」


と言って、おもむろにテーブルにあったナイフで、ザクザクとハンバーガーを真っ二つに切った。


「私の友達がやってて、これだと食べやすいのよ。持ち帰りにもしやすいし」と、少しはにかんだ様子で言った。


目からウロコ。


ハンバーガーを「切る」という発想はなかった。


カナダやアメリカで外食すると、とにかく量が多い。


アメリカにいた時、頼んだパスタがやたらにデカくて、がんばって1/3くらいは食べたんだけど、「あとは持ち帰りかな〜」なんて考えてた。すると、ウエイトレスのお姉さんが心配そうな顔してやって来て、「あの、何か問題でもありましたか?」って聞かれた事がある。


慌てて、「いえいえ。美味しいんです。美味しいんですけど、少食なもんで、すんません」と伝えたけど。


とにかく食べ残しは避けたいから、私は外食の時は、なるべく持ち帰れそうなものを頼む。だから私はめったにハンバーガーを頼まない。だって、食べかけのハンバーガーって、どう見ても食欲失せるもの。


その点、「ハンバーガーぶった斬り」は、綺麗に持ち帰りができる。


しかも、確かに半分にすると食べやすい。


そして最近、これやってる人をわりと見かける。じわじわと、「ハンバーガーぶった斬り」が市民権を得ているのだろうか。


なんか最近、日本でマナーが正義!みたいな雰囲気を感じてて、ちょっと息苦しいな、と思ってたんだけど、これから徐々にマナー緩和型が出てくるんじゃないかな。何事も、やりすぎると反発する勢力が出てくるものだからね。


〜終わり


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