第59話 ヘビのような子、と呼ばれて

「また、〇〇(私)のなんで、なんでが始まった〜」と言って、父は逃げていった。


私はとにかく、いろいろ疑問を持つ子供だったらしい。


まあ、ここまでなら、「あら、いいじゃない?子供は好奇心旺盛じゃなきゃ!」なんて、下手すりゃ褒められたかもしれない。


が、しかし、「〇〇(私)は、ほんと、ヘビのような子だ......」とも父に言われた私なのだ。次元が違う。


しかも、それは、「なぜ、空は青いのか?」とか、「人生とは?」とかの疑問ではない。


小さい頃、廊下のどん詰まりのタンスの奥に、見たことのない箱を見つけた。中を見ても、なんなのかわからない。「これ何?」母親のところに持っていって聞いた。「大人になったらわかるよ」微妙に視線をはぐらかせながら、母親はいった。


「大人になるまで、待てない〜」「いい加減にしなさい」


今度は、そのよくわからないものの箱をむんずと掴んで、父親に詰め寄る。「お母さんが、これ、なんなのか教えてくれない! お父さん、知ってる?」父親もチラリと箱を見て、「今、忙しいから」と、どこかにいってしまう。


それでも、私は、あきらめない。「じゃあ、これ開けてみてもいい?」と、箱の中から薄っぺらい小袋のひとつを取りあげて、母親に聞く。「ダメダメ。こっちによこしなさい」「教えてくれたら、返してあげる」


まあ、この時は結局根負けしたんだけど、「今思えば、あれは……アレ、だったんだな」と、大人の階段登ってから知ることができた。


とにかく、こういうくだらないことに、やたら食い下がる子だったらしい。


他にも、当時、マクドナルドが街にできて、イケてる子たちが軒並みバーガーの話をし始めた。どうしても、どうしても、食べてみたくて、まる一日、親につきまとって、交渉して、根負けした親からお金をもぎ取って、家族分分を自転車に乗って買いに行った。


ま、食べてみたら、さして美味しいもんじゃないな、と思ったのは覚えてる。だから、その一回こっきりで、あっさりマクドナルド熱は終わった。


一度気になると、いてもたってもいられない、この性格は今でも治ってない。


だから、学生時代に、「ねえねえ、A子のあの話なんだけどさ、......あ、やっぱりだめ、その後は話せない」とかいうのが、大嫌いだった。


別に人のこと、そんなに気になる人間じゃないから、誰と誰がどうしようと、どっちでもいいんだけど、この中途半端に聞かされるのが、ほんとだめ。残りの話が気になってしょうがない。


だから、友達にも、「お願いだから、全容をまるっと話せないなら、秘密の話は私にしないで」と頼んでいた。


そんな私が、小学校高学年の頃、たいそう気になる事案が出現した。


それは「人は死んだらどうなるのか?」という疑問。


その答えは、誰も知らない。なのに気になっちゃったから、しょうがない。


そんな時、本屋で一冊の本を見つけてしまった。


その名も、『私は見た、死後の世界』。


これだ!と思った私は、親にその本を買ってもらえるように交渉を開始した。


うちは、本だったら、けっこうあっさり買ってくれる家だった。


私はあまり外で遊ぶタイプの子供でなかったが、放っておけば家の中で一日中喋ってる子で、親が私を黙らせるためか、とにかく常に本が大量に与えられた。


だから、あっさり買ってくれるもんだと思っていたら、「そんなくだらない本、買わなくていい」と、思いがけず却下されてしまった。


今、思えば確かにくだらないんだけど、当時の私は、「ようやく謎が解ける本がそこにあるのに、これを読まずして!」と、また、マクドナルドの時のように、親の部屋に入り浸って、ネチネチと、どれだけその本が読みたいか、読む必要があるのかを唱え続けた。


そしてまたも父親が根をあげ、「あー、もう、うるさい。これで買ってこい」と、千円札をさし出した。


私は意気揚々と、真新しいその本を手に入れ、自分の部屋で読み耽った。


『私は見た、死後の世界』には、例えば、善行を積んだ人は、光さす、お花畑のようなところへ行き、おばあさんの「お前はまだ、ここに来てはいけない」という声と共に現世へ戻ってきた、とかいうような話がいくつか書かれていた。


反対に、悪行を重ねた人は、辛い苦役を強いられる。例として、ヒットラーが、死体でできた階段を延々と登らされる苦役を今でも行なっている、というのが、挿絵つきで載っていた。


......怖い。


とりあえず、ぜんぶ読んだものの、急に怖くなって、しかも、その本から邪気が漂ってるような気さえしてきた。


結局、自分の部屋に置いておくのが嫌で、買ったばかりのその本を、ナイショで親の寝室の押し入れの片隅に隠した。


まあ、後になって見つかって、「あんなにしつこく、買ってくれって言ったくせに」と、たんまり怒られたのは言うまでもない。


もうこの性格が変わることはないんだろうな、と諦めている。


〜終わり

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