第58話 子供の宿題がムズすぎる

いよいよ夏休み突入。


上の子は火曜日が学校の最終日なのに、先生が忘れてたらしく、日曜日に急に最後のエッセイの要項が投下されて、「もう、ないと思ってたのに〜」と、焦り狂った様子で私の部屋にパソコンを抱えて現れた。


「で、なぜ私の部屋に?」

「エッセイ書くんだけど、テーマが、自分の祖先が絡んだ植民地政策について、自分がどのように影響を受けているかってことを調べて書かなきゃいけないの」

「な、なんか、すごいテーマだね」

「だから、ママ側、日本サイドの話も書かなくっちゃいけないわけ。先生が言うには、中国系の子は、第二次世界大戦で、日本に植民地化されたこととかを調べて書けばいい、って言ってた。だから、はやく、そこら辺のこと教えて」


......あれ、日本の場合、植民地っていうより、傀儡政権立てて、うんぬん、って話じゃなかった?


それも植民地って言うんだっけ?


なんか遠い昔の歴史の授業が、よみがえりそうで......よみがえらなかった。


「なんで、黙ってるの? 急いでるんだけど」

「っていうか、植民地、だったっけかな?って思ってさ」

「どういうこと?」

「いや、確か、『併合』とか『統治』って教わったような。それって植民地って括っていいんだっけかなって」

「併合?統治?」

「そう」

「なんていうのかな。その国に自分の国の息のかかった政府を立てるけど、その土地の人も役人にもなるし、インフラも整備するし、近代化もさせるし、みたいな話だったような」

「わかった」


そう言うなり、娘は部屋を出ていってしまった。


なんかその後、気になって検索したら、やはりすべて「日本の植民地政策」と書かれていた。


「やっぱり、ちゃんと訂正しといた方がいいよな」

と、娘の部屋を訪れた。


「あのさ、さっきの話なんだけど、やっぱり植民地でいいみたい」

「もう書いちゃったからいいよ」

「いや、でも、先生に変に思われても嫌だしさ」

「いいの、いいの、Mr.〇〇は、物議を醸す方が好きだから」

「ええええ......」


娘的には、エッセイは提出したから、もう、どうでもいいらしい。


私は微妙にスッキリしない気持ちを抱えてたら、今度は息子からヘルプ要請が来た。


「これ、ぜんぜんわかんねーよ」

と言って、プリントの束を渡された。


『メリッサは、職場から今年の明細を以下のように受け取りました。ただし、ここに、チップでもらった額は記載されていません。この情報を元に、次のフォームを完成させなさい』


そこには、職場から支給される、いわゆる源泉徴収票みたいな書類と、国用と、州用の税金申告の申し込み書類が添付されていた。


「なにこれ、このメリッサって人の税金の申告用紙を完成させしろ、ってこと?」

「そう。ママは毎年、やってるからわかるでしょ」


わかりません。


私は、税金申告用のソフトウェアで、ここに、ここの金額入れろ、とか、言われるがままに入力してるだけだから、いちいち、そんな内容見てない。


そしてこの宿題は手書きだから、自分で足したり、引いたりして、書き込まなくちゃいけない。


日本もカナダも、どこであっても役所の書類、特に税金関係は本当、なんのこっちゃかわからない。


自分の確定申告も吐きそうな思いでやってるのに、自力で電卓叩きながらなんて、できるわけがない。


ここで、娘召喚。


「ねえ、この宿題、やったことあるでしょ。手伝ってあげてよ」


娘、プリントを一瞥するも、

「やってない、これ」

と、速攻、返された。


「これ、私の知り合いも、この宿題もらってて、わけわからん、って、ぶーたれてたよ」


結局、誰も手助けできないから、白紙のまま先生のところに質問に行かせて、その後、ようやく完成したらしい。


で、なにがすごいかというと、これ『数学』のクラスの宿題。

社会科とかじゃないの。


意味不明にも程がある。


元旦那にも、もちろんヘルプ要請したんだけど、

「これ、なんの教科の宿題?」

って、まず聞かれた。

「数学」

「Oh....」

だって。


その前の宿題では、『銀行に1万ドルを預けるとして、自分にとって一番いいと思われる投資パターンを、実際の銀行のレートを比較した上で完成させよ』ってのがあった。固定金利で1年なら何%、変動なら何%とかそう言うやつ。


だから、その流れから来てるらしい。


でもさ、これ、いい宿題だと思う。


どれだけ給料から税金としてもってかれてるか、子供のうちからわかるもんね。


息子も、「こんなにもってかれるの〜?!」と驚いてた。


「いやいや、まともに稼いだら、それよりはるかにもってかれるんやで」

と言ったら、さらに驚いてた。


つーか、その後の税金の碌でもない使われ道を知ったら、もっと驚くと思うけどね。


〜終わり

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