第16話 日本の食べ物の『のびしろ』は思っているより大きいのかも
「あのさあ、あれ、あの時のあれ、おいしいは、おいしかったんだけど、すごく不思議...だったんだ。でも、今じゃむしろ、はやってるよね、あれ」
ずいぶん前だが、いきなりナタリーにそう言われた。
頭の中が、まだ英語モードになっていない私は、
「あれ、あれ、って、なんのこっちゃ?」
と、頭の中ははてなマークでいっぱい。
「えっと、なんの話か、ぜんぜん見えてこないんですけど」
「ほら、あれよ、あれ。前に、ビーチでランチした時、一緒に食べたサンドイッチ」
うっすらぼんやり思い出した。
その時はまだ、海沿いの小さな町に住んでいて、その日は、子供を連れてビーチで超簡単適当ピクニックをしてて、なんかナタリーも急遽参加したのだった。
「私、正直、はじめてみたんだよね、クロワッサンのサンドイッチ」
確かにその日、食パンがなかったので、急遽クロワッサンで卵サンドイッチ作って、雑にラップに包んでランチにした記憶がある。
「あれ、あの時は、ちょっとびっくりしたけど、今となっちゃ、おしゃれなカフェとか街のベーカリーでも売ってるよね」
日本では普通に昔から売ってるから、気にも止めてなかった。
そう言われて、じっくり思い出してみたけど、確かに今でもほとんど見かけない。スターバックスで、クロワッサン・ブレックファスト・サンドイッチってのがあった気がするけど、クロワッサンが丸型になってて、三日月の形ではなかった。
こっちのサンドイッチって、なんか、もりもりに中身入れてて、高さが3、4センチになってるやつが主流だから、日本みたいな、あの食べやすい薄めのパンで作られて、断面美しい系のやつは存在しないのは知ってたけど、クロワッサン・サンドイッチもだったのか。
まあ、お寿司でも、こっちで言うとこのお寿司は、『カリフォルニアロール』とか、『サーモンロール』とかの巻き寿司が主流で、握り寿司は『Nigiri(にぎり)』っていう名前に特化している。しかも『ドラゴンロール』とか『BCロール』とかって、名前見ただけじゃ、どんなもんなのか想像つかない巻き寿司も多い。
あと、同じ名前のくせに、まったく違う食べ物になってしまってる『Sunomono(酢の物)』なんかもどうにかして欲しい。
日本の酢の物とぜんぜん違って、なんか、味噌汁椀くらいのボウルに、冷たい少し甘酸っぱい透明なスープにベトナムのフォーみたいな麺がゆらゆらしてて、上に申し訳程度のきゅうりとスライスとワカメがのってるものが、『Sunomono』として、まかり通っている。
納得できませんよ。こちとら。
なぜ、わざわざ、『酢の物』なんて名前をつけたのか。
『コールドビネガーヌードル ーきゅうりとわかめを添えてー』
とかじゃ、ダメだったのだろうか。
まあ、そんなこと言ったら、日本でも、中国のラーメンやら餃子を魔改造して出してるから、文句は言えないのか。
ちなみに元旦那は日本にいる時、「パッケージとか読めないからできない」と、甘えたことを言ってめったに料理しなかったのだが、自分しかいない時は仕方がないので、家にあるもので何かしら作っていた。
「今日はお好み焼き作ったよ」
「あれ、キャベツあったっけ?」
「あったよ。葉っぱのやつ。うまくできて、おいしかった」
「……君、それは、同じ葉っぱでも『白菜』と言って、違う野菜なのだよ」
とは言わなかった。
本人が「美味しかった」って言ってるんだから、それで良し。
また別の時、私が疲れて帰ってきたら、
「今日は焼きそば作ってあるよ」
と嬉しいサプライズ。
そして出された焼きそばには、なぜか『オリーブのスライス』が。
……なぜ?
今まで何度も『焼きそば』食べてるだろうに、なぜ、ここへ来てオリーブを入れようと思ったのだ。そして、そのことよりもびっくりなのは、そのオリーブ入り焼きそばが、意外においしかった、ってことだ。
国が違えば、といえば、ナタリーが、
「オーストラリアで寿司ロールはフードトラックとかで、切らずに「ほいっ」と渡されて、そのままかじって食べるんだ」
と教えてくれた。
えー。
なんか、ちょっと冒涜された気分。
だけど、よくよく考えたら、理にかなってるんだよな、これ。
元々、庶民の食べ物だったんだし、細くて長い食べ物は、押し並べて、歩き食べに向いている。
アメリカンドック、アイスクリーム、チュロスなんてのもある。そこに、サーモンロールや、鉄火巻きが食い込んでも......やっぱ、無理があるか。
とにかく日本の食べ物は、まだまだ世界を席巻する可能性を秘めている、と私は信じて疑わないのだ。
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