第10話 英会話にまず必要なのは、表情筋なのではないだろうか
以前ナタリーに
「あんたと話してる時、英語を見失った瞬間がよくわかる」
と言われたことがある。
それまで、調子良い感じで、
「ふん、ふん、ふん。なるほど、なるほど」
みたいに聞いていたのに、ある瞬間に
「?!」
と、私の顔の表情が変わるらしい。
すると、ナタリーは賢い子ちゃんなので、即座にわかりやすい単語に変えたり、簡単なフレーズに直してくれたりして対処してくれる。
ありがたい。
他人の力で英語力アップ。
この瞬時に顔色が変わる、言葉に出さずとも顔見てりゃわかる、っていう状況は、英語取得を目指す人には、けっこう有効なのではないだろうか。
この間、息子が入院していた病院でも似たようなことがあった。
その子供病院は大掛かりなプレイルームがあったり、学生ボランティアの人が部屋を巡回して、おもちゃや本を持ってきてくれたり、なんなら勉強をみてくれたりする。
ピエロの格好した人が突然現れて手品を見せてくれたと思えば、音楽セラピーの先生がいろんな楽器を担いできて弾いてくれたり、息子に弾かせてくれたり。
至れり尽くせり。
病院外からも、地元のホッケーチームの人がきてくれたり、ハロウィーンには、めっちゃ本気のスターウォーズの扮装の人、R2-D2(ロボコンみたいなやつ)までやってきたりする。
その中でも、ほぼ毎日巡回に来てくれるのが、ワンちゃんたち。
セラピードッグというらしい。
なでさせてくれたり、おやつをあげさせてくれたりする。夜の世界のお姉さんの名刺みたいなのも持っていて、表面にはワンちゃんの写真、裏にはそのワンちゃんの年齢とか犬種とか、性格の情報が載っていて、訪問されるたびに、その名刺が増えていくのだ。
なかには、本当はダメなのに、何度も息子のベッドに飛び乗ろうとするレトリーバーや、もう疲れちゃってたのか、がんとして床に寝そべったまま動こうとしない大型犬とか、焦る飼い主さんの様子とかもあわせて、何かと笑わせてもらった。
そんなある日、洗濯室から帰ってきたら、見知らぬおばちゃんがニコニコしながら息子のベッド脇に座っていた。
誰やねん。
と警戒しながら近づくと、やっぱり知らない人だった。
と、思った瞬間、息子のベッドに、何かしらの物体があるのに気づいた。
それは、ちょっとデカめの灰色のウサギだった。
まさかのセラピーラビット。
お粗相しないためなのか、下には広く布が敷いてある。
状況が把握できない状態で、
「あ、何か言わなきゃ。会話をしなければ」
と思ってるんだけど、びっくりしすぎて咄嗟に言葉が出ない。
その間も、ベッドの上で、ぽっちゃりウサギは、ずっと真顔で微動だにしない。
気がつけば、飼い主のおばちゃんと息子が涙流して、大笑いしている。
「あなたのびっくりした顔ったら、、、ヒーっ」
ちくしょうめ。
わざわざ言葉にしなくても、びっくりが伝わっちゃってた。
笑いながらおばちゃんが言う。
「触ってもいいのよ」
お言葉に甘えて触ってみると、ふっさふさ。
だけど、ウサギ的にはノーリアクション。
そして娘が以前から、ウサギを飼いたいと言っていたのを思い出したので、写真を撮って送ってみた。
すると、
「え、飼ってもいいの?」
と、トンチンカンな返事が。
どこからそんな話が湧いてくるんだ。
「娘が飼ってもいいのか? なんて言ってるよ」
落ち着いたので、英語が口からちゃんと出てくる。
「1日に300回うんちするけど、それでもいいならね」
それは嫌。
なぜなら、その世話をするのが私になるのは目に見えているから。
で、ここで本題に戻るんだけど、英語が初心者の頃でも、私がわりと話し相手に困らなかったのは、この『心のうちが瞬時に顔に出る』ってことに一つ原因があるのかも、と思うわけだ。
意思の疎通ができてるから、会話が続くからね、一応。
これは、昔からそうなのか、英語ができないのに、英語圏に無理やり居続けたから、自然にそうなったのかはわからないが、案外、これって役に立つんじゃないの?と思った次第だ。
なんというか、日本人ってわりと無表情だと言われるけど、英会話を習得するために、今日から表情筋を鍛えてみる、っていうのはどうだろう。
〜終わり
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