第9話 日本食 vs 欧米食! みんな違って、みんないい
カナダとはいえ、うちは基本的に和食が食卓に並ぶ。
両親が共働きだったし、なんなら若かりし頃、洋食屋のキッチンの厨房でアシスタントのバイトしてたこともあって、私は料理するのが特に苦ではない。
だからと言って、「料理好き」ってわけでもない。誰かが作ってくれるなら、その方がいいし、ありがたくいただく。財力があったら、家政婦さんを雇いたいくらいだ。
まあ、そんな感じなので、小洒落た料理ではない、いわゆる昭和の母ちゃんが作るような料理がカナダとて食卓に並べられる。
そして、日本のように、そこらへんでお手軽な惣菜や冷凍食品が売ってるわけではないので、美味しい和食を食べたければ、結局、自力で大量に作って、冷凍保存するしかない。餃子とか、とんかつ、お好み焼きとか。
で、オーストラリア出身のナタリーなんだが、ようやく小学校の教員免許を移行することができたとき、蓋を開けたら息子の担任だった。しかも当時、離婚が成立した私が引っ越した先が、赴任先の小学校の運動場に隣接する一軒家の一階だったこともあって、ナタリーは朝、飼い犬のボーダーコリーを私んちに置いて、放課後また引き取りに来る、みたいな生活になった。
で、用事とかで、引き取りの時間と夕飯時がかち合うと、「ついでに食べてく?」なんてことも多かった。
「お好み焼き、ってもんだけど、食べてく?」
「食べるに決まってるでしょ。で、なんなの、そのお好み焼きってのは?」
「うーん。なんていうか、日本式のピザ? いや、違うな、うーん、まあ、食べてみて、口に合わなかったら、食べなくていいし」
「了解。ま、いまだかつて、口に合わなかったもの、ないんだけどね」
とか、なぜか、勝ち誇ったように言い捨てる。
まあ、結果、「うまい、うまい」と毎度完食してったんだが。
そして、帰り際に、呪文のように、
「えっと、これはOKONOMI -YAKI...OKONOMI...YAKI...」
と口頭練習しながら帰っていく。
聞くとこによると、私と接する事によって、自然と日本食の知識が増え、友達から何気に『日本食通』みたいな扱いされて、気分が良かったらしい。
ナタリーは、ナタリーで、私が泊まりに行った時とかに、簡単な食事を作ってくれる。だいたい、子供から離れて思う存分話して、飲みたいから泊まりがけになるので、酒に合うつまみが主流だった。
そんな中、私はある日の朝食にいたく感動した。
「何にもないんだけどさー」
と言って作ってくれたのが、フライパンで、食パンにチーズとハムを挟んで押し付けて焼きサンドイッチ(?)にしてくれたやつ。
作るところを見ていたんだけど、日本人ならバターひとかけくらいで、ちまちま焼き付けるところを、倍以上の量のバターを豪快にフライパンに『ドンっ』。すぐにジュワーとなって、すばやく投入されたパンにみるみる染み込んでいく。しばらくして、パンをひっくり返すと、再び大量のバターが『ドンっ』と投入され、みるみるうちに(以下略)。
さすが、狩猟民族。激しい。
農耕民族の私にはとても真似できない。
そして尋常じゃない量のバターで焼きつけたサンドイッチの香ばしいこと。
味もやっぱり強烈だ。
「うまー、これ、うんまー」
ナタリーも、「そうでしょ、そうでしょ」みたいな顔して、満足げだった。
で、家でもホットサンドメーカーで作ってみたりするんだけど、相変わらず、あれだけの量のバターを投入する勇気が出ない。
がんばって、ひとかけらを大きめにするくらい。
みみっちいぞ、私!
ここら辺が、いまいち、器の大きい人間になれないとこなんだろうなあ、などと考えたりしながら、それなりにいい香りを立てるパンを見つめたりする日々なのだ。
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