第5話 子供病院の食事メニュー

ということで、息子の今回の入院のテーマは、「なんとしてでも体重を増やす」ということだったわけだ。


なので、食事もハイカロリー的なものが提供されるもんだと思ってたら、いつも通りのメニューだった。


日本の病院だとたぶん、普通食、とか、減塩メニュー、とか、カロリー制限とかのメニューがあると思う。そして、だいたい、和食を中心として、栄養バランスを考えた食事が提供されるだろう。


じゃあ、ここカナダではどうなのか?


私自身は入院したことないので、息子の入院中の食事しか知らないのだけれど、入院初日にメニューを渡される。


朝食:各種シリアル、オートミール、パンケーキ、ワッフル、マフィン、トーストなどフルーツ:りんご、バナナ、オレンジ、キウイベーコン、ソーセージ、卵飲み物:オレンジジュース、アップルジュース、ミルクなど。


朝食+夕食サラダ +チキン +ツナとかハンバーガー、各種パスタ、グリルサーモン(さすがカナダ)、チキン照り焼き、ピザ、チキンや魚のフライなどなど。


これ全部が一枚の紙に印刷されてて、やれ、トッピングだの、ドレッシングだのも選べる。


つまり、患者が、このメニューから、好き勝手に選んで、備え付けの電話でオーダーすると、しばらくしてトレイに載せて、「ルームサービスです」って届けてくれる。


別に誰も、どの患者が何を食べたか、とかチェックしない。


まあ、今回は、入院理由が理由なだけに、私が用紙を渡されて、どれくらい食べたかの記録をとらなくちゃいけなかったけれど、普段は何も言われない。


「食欲はどう? ちゃんと食べてる?」


とか、お医者さんや看護師さんに聞かれるぐらい。


なので、病院以外の食べ物ももちろん食べて良い。ノーチェック。


「こんだけメニューが豊富で、何頼んでもいいなら、病院食だけで十分でしょ?」


と思うかもしれないが、大きな落とし穴がそこにはある。


すべてにおいて、うまくない。


それには理由があって、たぶんだけど、材料すべて冷凍食品で、生野菜も、いわゆる洗浄されてパックになったものを開けて盛り付けているだけだと思われる。なんなら、火を使った料理もなく、ほぼほぼ、電子レンジでの加熱だと思う。包丁すら使われていない気がする。りんごだって、オレンジだって、キウイだって丸ごと出てくるのだから。


そう、キウイも。


私は家から包丁を持ってきているので、当然のようにキウイの皮を剥いて、カットしようとしたところ、「そのままでいいよ」と、息子が言う。


「え、え、キウイだよ? 切るよ、切るよ、母さん、切ったげるよ」「いいってば」と言って、私の手からキウイをもぎ取ると、ふぁさふぁさした皮のままのキウイにまるごとかぶりついた。


うえー。


が、しかし、この光景を見るのは2度目なのだ。


初回は、学童で先生やってた時、輝くような金髪で青い目のオリバー(仮名)が、ランチバッグの中からキウイを出して、普通に丸かじりしているのをみた時だった。


その時も動揺を隠しきれず、「あのさ、そ、それ、なんか、皮、気にならない?」と聞くも、「いや、ぜんぜん」と、「なんでそんなこと聞く?」みたいな顔して答えられた。


そして、今日、自分の息子もそうなるとは。


「キウイの皮は剥くもんでしょ」などと話をしてたら、研修医のイケメン先生が入ってきた。


「なんか盛り上がってるね。どうしたの?」


まぶしい笑顔に、風呂にも入ってない、ボサボサの自分が急に恥ずかしくなる。


「今、ママがキウイを皮つきで食べるのが信じられない、って騒いでんの」


すると先生は息子の手にあるキウイに視線を移した。そこで思い立った私は、「先生、キウイ、皮つきのまま食べる?」と聞いてみた。もちろん、「No!」と言われるのを期待して。


先生は、一瞬ためらった後、「僕は、、、食べれます」と答えた。


うええええ。


してやったり、と、満面の笑みの息子。


先生は続ける。「いや、でも、前にみんなでご飯食べてて、僕がキウイにそのままかぶりついたら、めっちゃ変な目で見られたよ。急いでたから、仕方なかったんだけどさ」と。


そっかー。食べるのかー。私は嫌だけどなあ。


そして、息子がキウイの皮のことをhairy(毛深い)と表現するのが地味に嫌だった。


〜終わり


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