第62話 パーティーの前に


 買い物や兵士の手配を終えいよいよパーティー当日である。



「セイン……わかっているとは思うけど、カフカ姉さまが仕掛けてくるとしたらここでやって来ると思うわ」

「ああ、警護は万全だし、ドノバンの見張りも頼んであるよ」



 ヒルダ姉さんの部下が俺にも忠誠を誓ってくれているおかげで、指示の伝達がスムーズになったのは大きいと思う。

 ちなみにドノバンに関してはケルベーともう一人の部下が交互で監視しているらしい。



「あとは影がどれくらいいるかよね、さすがのヒルダも気配を隠すことに特化したあいつらを完璧にとらえるのは難しいらしいわ」

「戦えば絶対かてるんだけどね……まあ、心配しても仕方ないさ。シャーロット着替えてきてね。警戒は怠らないようにね」

「あなたの方こそ……気を付けるのよ」



 あくまで婚約ということで、彼女の着替えまでは手伝うことはできない。結婚前の男女が公式の場で同じ部屋で着替えるというのはマナー違反らしい。

 まあ、とっくに裸は見ているし色々なことをしているんだけどね……



「シャーロット様とシグレの護衛はお任せください。セイン様は第一にご自分の身をお守りくださいね」

「なにかあったらすぐに言ってくださいね、飛んできますから」

「ああ、ありがとう。二人ともよろしく頼むね」



 扉の外で待っていたヒルダ姉さんとシグレにお礼を言って自室へと戻る。メイドや使用人たちは今頃パーティーの準備をしているから忙しいのだろう。あまり人はいない。



「俺も着替えないとな……うう……シグレ……」



 本来ならばシグレにお願いするはずなのだが、彼女はヒルダ姉さんに守ってもらわねばならない。

 


「よかったら俺が手伝いますぜ」

「いや、着替えくらい自分でできるから大丈夫だよ、ありがとう」



 部屋に待機していた護衛を担当するケルベーが腕まくりをしてくれるが謹んで辞退する。

 俺は巨乳メイドさんにご奉仕してほしいだけなのである。着替え何て普通にできるしね。



「ドノバン兄さんはどう? 大人しくしてるかな?」

「ええ、あれはもうだめですね。何もする気力がなくなってるみたいです」

「そっか……」


 もう少し騒いだりするかと思っていたけど大人しくしてくれているのならまあいいか。

 継承権も奪われ、好きな人も取られたのだ。嫌味の一つくらい言ってくるかと思っていたけど……



「ああ、そうだ……一応合言葉をお願いしてもいいかな」

「もちろんですぜ、おっぱい!!」

「でかぱい!!」

「ヘスティア様ぁ!!」



 合言葉を元気よくやりとりする俺とケルベー。セルヴィの能力を警戒して決めておいたのである。

 そして、お互いに笑いあうと俺は上着を脱いでそのままケルベーに投げつけてそのまま斬りかかる。



「な!! なぜ、私の正体が……」



 こちらの斬撃を受け止めたケルベーの表情が驚愕に歪み、その顔が見覚えのある女性へと変わっていく。



「いや、わかってないよ。合言葉もあっていたし、怪しい所も何もなかった」

「ならば、なぜ……」

「ヒルダ姉さんの忠告だよ。影は拷問や潜入も得意だからとりあえずうちのを斬って確かめろってね。本物でもケルベーの実力ならとっさに反応できると思ったんだ」

「なるほど……、ですが、一対一であなたが勝てるとでも? ちなみに助けは来ませんよ、あなたと仲良しのお兄さんが他の人間は誘導してくれてますからね」



 にやりと笑うセルヴィの腕が禍々しい剣へと変化していく。だから人が少なかったのか? だけど、俺だってだてにヘスティア様の救世主をやっているわけではないのだ。

 そして、俺とセルヴィは対峙するのだった。

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