第61話 セインの実力
ドレスを選んで屋敷に戻った俺とシャーロットは、訓練場へと向かう。
「そもそもヒルダ姉さんにカフカを倒してもらうわけにはいかないのかな?」
「できるわけないでしょ。カフカ姉さまは表向きにはなにも悪いことをしていないもの。そもそも巨乳の迫害だって当たり前のことだしね」
ふと思ったことをつぶやくもシャーロットにあっという間に論破されてしまった。そう、巨乳聖女としてシャーロットが頑張ってくれているが、まだまだ巨乳の地位は低いままである。
俺が辺境伯となってもっと発言力を持ちヘスティア様の力の有用性を示さねば世界は変わらないだろう。
だからこそ、この婚約パーティーは必ず成功させなければいけないのだ。
「おー、やってるね」
剣と剣のぶつかり合う音や魔法の響く音を聞きながら少し懐かしい気持ちになる。あの頃はまだまだここでもみそっかす扱いされてたっけ……
「おお、セイン様、シャーロット様!! 視察ですか? パーティーも近いのにお疲れ様です」
「ああ、みんなも頑張ってね」
「警護頑張ってくださいね。私たちの婚約を祝福してくださると嬉しいです」
すれ違う兵士たちが少し緊張した様子で声をかけてくるのをみてふと思い出す。そして、奥の方でひときわ激しい訓練をしているヒルダ姉さんを見つけた。
「ああ、セイン様……ちょうどよかった。あなたにお願いしたいことがあるんです」
「お願い? いったい何かな?」
「ここには信頼できるものしかいないので、あの力を使って構いません、ケルベーと全力でたたかってもらってもいいでしょうか?」
「え? なんで……?」
「俺らは姉御についてきたんです。その姉御が仕える人間の器をみたいっていうのは当たり前だと思いませんか?」
予想外の提案に混乱していると、ヒルダ姉さんの部下たちから視線を感じる。それは期待のような怖いもの見たさのような不思議な感覚だ。
ギャンガー家は武官だ。だから、俺の力を改めて確認彼についてくる価値があるかをみせろってことだろうか?
「わかったよ。俺もちょうど自分がどれくらい強くなったか知りたかったしね」
「セイン……わかっていると思いますがヒルダ率いる赤狼騎士団は熟練の戦士ぞろいです。手加減はせずに殺す気でかかってください」
「はは、シャーロット姫はこわいことをおっしゃいますねぇ」
猫かぶりモードのシャーロットの言葉に苦笑しながらケルベーが剣を構える。
「ですが……俺をそこらの雑兵と同じように扱わなかったのはさすがですぜ」
「これがあなたの本気か」
「姉御から聞いてますぜ。カフカ様と敵対するんでしょう? だったら器をみせてくださいよ。俺らも命がかかってんだ。情けない奴に背中は任せられないですからね」
それは最近慣れていた殺気という感覚だった。最初に戦った時に彼にどれだけ手加減されていたかがよくわかる。
ヒルダ姉さんほどではないけど、彼の腕が立つということはわかる。だけど……
「セイン……信じてるわよ」
「ああ、任せろ。君の婚約者は強いってみんなに教えてみせるよ」
「みせつけてくれますねぇ」
耳元でささやくシャーロットに笑顔で返して、ケルベーに向けて剣を構える。そして、互いの視線が交差して……
「ふふ、両者やる気は十分のようですね。負けた方は特別特訓コースです。それでははじめ!!」
ヒルダ姉さんの開始の合図とともに俺は限界までアクセラレーションを足にかけてケルベーに斬りかかる。
「はは、それが本気ですかい? 二度は通じませんぜ!!」
「こっちも二度は通じないよ!!」
剣を受け止めたケルベーの死角から放たれた一撃をバックステップして、かわす。先ほどまでいたところに蹴りが放たれていたのだ。
はは、すごいや……相手の動きが見える。
ヒルダ姉さんの特訓で身体能力があがったのはもちろん、ゴブリンの巣に落とされたりして視野が広がっているのだろう。
ゆえに俺は強い!!
「悪いね、これが本当の本気だ!!」
足がミシリと悲鳴をあげるほどにアクセラレーションを重ねてかけて、即座にバフの対象を剣を持つ両腕に移して、斬りかかる。
「なっ!!」
先ほどよりも早い一撃に驚愕の声を上げるケルベーの首に剣をおくと、それに少しおくれて、彼の剣が俺の首筋に置かれる。
「勝敗は決しました。そして、これが女神ヘスティアの加護の力です。私たちのような魔法とは違い、ヘスティア様は身体能力のアップや、回復などを使うことができ、セイン様は彼女の力を持って戦い続けてきたのです」
「おおーー。すげえ。あのケルベーを倒すなんて!!」
「あれさえ、あれば俺たちも前線で戦えるようになるのか?」
「ちょっと、ヒルダ!?」
いきなりの暴露に俺だけでなくシャーロットも驚きの表情を浮かべる。そんな俺たちに対してヒルダ姉さんは微笑みながら頭を下げる。
すると他の赤狼騎士団の連中もそれにならうようにして頭を下げた。
「我々赤狼騎士団はお二人とヘスティア様につきます。これが私たちの答えです」
「いいの? そのヘスティア様はこの国では……」
「ふふ、セイン様はちゃんとちからを示してくれました。我々は力を持つものについていくと決めているのですよ」
そうして、ヒルダ姉さんとその部下たちが正式に仲間になってくれたのだった。
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