第59話 パーティー準備

「なんか思った以上にあっさりと進んでしまった……」



 さっそく父に婚約パーティーのことを相談したところ「おお、後継者もお前になったことだし、ちょうどいい。その場で婚約の件とお前がギャンガー家を引き継ぐことを発表しよう」ととても上機嫌だったのだ。

 そして、招待客に手紙を送り終えて、ぼちぼち返事も返ってきているのだが……


『セイン=ギャンガー様


 ご招待ありがとうございます。

 我が愛しの妹と婚約されるという旨を聞き、嬉しさと共にあの幼かったシャーロットが誰かの元に嫁ぐということがいまだ信じられません。

 ちゃんと幸せにしてあげてくださいね。これは王女命令です。


 カフカ=ホーリースター』


 と言った内容の手紙と共に参加とかいてあった。あれ? カフカって黒幕じゃないの? マジで来るの? しかも、この文章だけだとすごい良い人っぽいよ……?



「くっ、カフカ姉さまは相も変わらず外面だけはいいわね……これ、ちゃんと直筆じゃないの……」

「なんというか、徹底しているのですね……シャーロット様から聞くまでは確かにカフカ様の悪口は聞こえてきませんでしたし……」

「あー、でも、確かに王族って外面を取り繕うのうまいよね」



 シグレの言葉に思わず初対面のシャーロットを思い出してクスリと笑うと、ぎろりと睨まれた。



「何か言いたそうね」

「最初のシャーロットよりも今の方が好きだなって思っただけだよ」

「……ありがと。おっぱい揉む?」



 顔を真っ赤にしたシャーロットは照れ隠しなのか俺に抱き着いて胸を押し付けてくる。こういうところも可愛いと思う。



「嬉しいけどそれはあとにしよう。色々と準備しなきゃいけないしね」

「他の招待客も主だったところにからは返事が来ています。ナタリアさんたちサキュバスも数人いらっしゃるようですよ」

「あいつら婚約者の前でセインを誘惑しないかしら?」

「さすがに大丈夫……だといいなぁ」



 サキュバスの里に行った時のことを思いだして苦笑する。リリスやナタリアに何回襲われただろうか?

 幸い俺のセインはリリスには反応しないが、ナタリアはやばい……

 そんなくだらないことを考えているとノック音が響く。


「セイン様、私を呼んでいるということですが、どうされましたか?

「ああ、ヒルダ姉さん。婚約パーティーのことで相談があるんだ」


 そう、カフカの手の者である影がどこに潜んでいるかわからないから彼女には会場の警備を……


「ああ、なるほど……姉としてセイン様の付き添いということですね。ふふふ、尊敬するシャーロット様と大切な弟であるセイン様の婚約パーティーですからね、普段着ないドレスも身に着けるとしましょう」


 あれ? 付き添いになっちゃった……だけど、まあ、うちの領地で最強のヒルダ姉さんが近くにいると行こうとはすごい心強いと思う。



「ああ、じゃあ、当日はシグレとヒルダ姉さんは俺たちの世話を頼む。あとは……だ」


 俺は参加者リストに載っているドノバンの名前を見て眉を顰める。彼は戦いが終わってから大人しいものの、何を考えているかわからないからだ。

とはいえ、実の兄を呼ばないわけにはいかないんだよね……



☆☆


「くそが!!」



 ドノバンは酒瓶を片手に怒鳴り声をあげる。すっかり散らかった部屋に本来世話をするはずの専属メイドの姿はない。



「俺は全てを失ったのか……」


 机の上にはイザベルの退職届が置いてあるのを見て彼は思う。


 俺とセインは何が違うんだ……?


 完全に立場が逆転してしまったがそれでもあいつにはシグレというメイドが常に付き添っていた。だが、自分はイザベルには見捨てられて、他の使用人たちにも腫物のように扱われている。

 これでもギャンガー家を継ぐために剣や戦術の訓練は続けてきたというのに……



「おやおや、随分と荒れていますね」



 背後から聞こえた声に思わず振り向きその主におどろきの声を上げる。



「お前は……セルヴィ!! なんでここに?」

「黙ってください。あと私の胸を見るな。その目をつぶしますよ」



 セルヴィの今は小さくなっている胸に思わず視線を送るとすさまじい殺気を感じて押し黙るドノバン。



「まあいいでしょう。今度行われるパーティーで私たちはセインを暗殺します。あなたには邪魔を入らないようにしていただければいいんです」

「なっ……だが、武官であるギャンガー家の当主候補が暗殺されたとなればわが一族の名声は地に落ちるぞ!!」


 驚きの声をあげるドノバンにセルヴィは興味がなさそうにうなづく。


「でしょうね。ですが、ご安心を。あなたには王都でのポストを用意すると我らが主が約束してくださいました」

「だがそれではギャンガー家は……」

「うるさいですね。どのみち我が主に逆らった時点でこの家は終わりなんですよ。そして、我々の力を借りたあなたももう逃げられないんです」


 吐き捨てるようにそういうとセルヴィの気配が遠のいていく。一人残されたドノバンは頭を抱える。



「くそ、どうすればいいんだ、俺は……」


 彼の言葉に答えるものも慰めるものもだれもいなかった

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