第54話 ドノバンの部下
「なんでお前がここにいるんだ。外で戦っているんじゃないのか?」
しりもちをついたドノバンが驚きの声をあげるが、俺はそれどころではなかった。なぜならば、その背後の女性が立派な兜をしたゴブリンの首を抱えていたからだ。しかも、その女性には見覚えがあった。
「そいつはまさかゴブリンナイトかな?」
「はい、我らがドノバン様が見事討ち取られたのです。ですが、セイン様もすでに幹部を倒されたようですね」
無様な様子を晒しているドノバン何て視界に入らないとばかりに、奥の部屋を覗いてほほ笑む女性は会議での彼が連れていた女性だった。
笑顔をうかべてこそいるものの一切感情を宿していない瞳がどこか恐ろしい。
「とりあえず、ここにいては他のゴブリンたちに捕まってしまいます。部屋にいれては頂けないでしょうか?」
「ああ、構わないけど……」
「いきますよ、ドノバン様」
「ああ……一人で立てる!!」
無表情な女性が手を差し出すも、なぜかそれには触れないドノバン。女好きのこいつがこんな反応をするなんて……
絶対おかしいなとおもいつつ、二人を招き入れるのだった。
「なんだと……ゴブリンチャンピオンを殺しただけではなく、ゴブリンテイマーを捕らえているというのか……」
「ええ、だからこの後継者争いであなたたちの勝利は薄いわよ」
驚きの声をあげるドノバンにシャーロットが冷たく言い放って、二人の女性の治療へと向かうと露骨にシュンとする。
彼はシャーロットにメロメロだったからね……まあ、胸のことを知ったら変わるだろうけど、
自己紹介を終えて俺たちは向かい合っていた。ドノバンの部下の女性はセルヴィというらしい。彼が雇った傭兵だそうだ。
ちなみにだが剣はいつでも触れる状況だ。同じ陣営ではあるけど、気を許せる相手ではないしね。
「それで、ドノバン兄さんとセルヴィはゴブリンたちを指揮しているゴブリンナイトを倒して、そのままこっちに来たってことかな?」
「ああ、そうだ……奇襲が成功してな。だが、お前がゴブリンの巣に潜入していたとは……」
「ふふ、我々サキュバスも伊達に森で暮らしているわけではありませんからね」
信じられないとばかりに悔しそうな顔をするドノバンに、外交モードのナタリアさんがどや顔で言った。
どんな時でも調子に乗るスタイルはちょっと見習いたい。
「状況は理解しました。ただ、ゴブリンテイマーを生かしているのはいただけませんね。そいつは人間だろうがなんでもテイムして自分の支配下におく強力な魔物です。即座に処刑が正しい判断化と……そう思うでしょう、ドノバン様」
「あ、ああそうだな。セルヴィ。セイン、そのゴブリンテイマーとやらをさっさと殺せ」
「わるいけど、こいつは俺の捕虜だ。どうするかはこっちで決めさせてもらう」
ドノバンが俺の背後で寝かせているゴブリンテイマーを指さすが、もちろん拒否だ。こいつには色々と聞きたいことがあるからね。
「兄である俺に逆らうのか? セインのくせに……」
「兄っぽいことをなにかしてくれたっけ? それよりも、俺が後継者に選ばれた時にどうするかを考えおいた方がいいんじゃないかな?」
のび太のくせに……みたいなことを言うドノバンに軽口を返す。転生した直後は恐ろしかった彼も修羅場をくぐった今ではスネ夫以下である。
「ゴブ……」
「あ、目をさましたですぅ」
一触即発の空気の中ゴブリンテイマーが目をあけて、信じられないとばかりにこちらを見て、ゴブリン語でしゃべって……その首に矢が突き刺さった。
「お前一体何を……!?」
「感謝してほしいくらいです。ゴブリンテイマーはその声でも、他者を支配できるんですよ」
仕込んでいたボウガンから矢を放った姿勢であきれたとばかりに声を声を上げるセルヴィ。
え? そんなに強キャラだったの、このゴブリン……
「救世主様気を付けてくださいですぅ、ゴブリンテイマーがその女のことをゴブリンレディっていっていたですぅ」
「え?」
信じられない言葉だったがとっさに剣を構えるとセルヴィがめんどくさそうにため息をつく。
「ああ、そうでしたね。サキュバスは他種族の言葉もわかるんでしたっけ? 厄介な力ですね」
「おい、お前がゴブリンレディってどういうことだ……?」
そのまま臨戦態勢に入るセルヴィにドノバンも困惑の表情をうかべるが……彼女はごみでも見るような目で冷たく言い放った。
「いいから、あなたも戦う準備をしてください。後継者争いに勝ちたいんでしょう?」
「なっ……お前なにを……」
俺と同様に混乱しているドノバンを無視して彼女はにやりと笑うとその右腕がボウガンに変化している。
「ふふ、あなたたちはかんがえたことがありましたか? ヘスティアの加護を持つ存在がいるように、この世界の均衡を保つヘラ様の加護をもつものがいることを。さあ、醜い胸の異教徒を狩らせていただきましょう」
セルヴィははじめてにやりと笑うのだった。
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