第53話 ゴブリンテイマー

「巨乳に対する態度といい本当にゴブリンは下種な生き物ね。反吐がでるわ」

「とはいえ、これはちょっと厄介だよね」



 小柄な鞭を持つゴブリンは大柄なゴブリンチャンピオンが光弾で倒されていたことをから学んでいるのか、きっちりと射線から守るようにしてスレンダーな女性を人質にしている。

 どうするか……俺はチラっとナタリアさんを見つめるが、首をよこにふられてしまった。さすがに光弾を曲げたりはできないのか。

 もちろん名前も知らない少女を救いたいけど、俺にとってはシャーロットやナタリアさんの方が大事だ。いざとなったら覚悟を決めなければいけないだろう。



「オマエラワレワレノキャクジンデハナイナ?」

「こいつ……俺たちの言葉がわかるのか」

「ってことはこいつが誰かさんと共謀したゴブリンなのかしら?」



 ゴブリンメイジだけでなく、こいつもしゃべるのか……頭のいいゴブリンは異種族の言葉すらも覚えているようだ。

 あれ、人間よりも賢くない? こいつも何かまほうを使いそうだよね……てか鞭っていうとまさか……



「ああ……ここは……?」

「大丈夫ですかぁ? 目を覚ましてくれてよかったですぅ」

「ひぃぃぃ。助けてくれてありがとうございます」



 全裸のサキュバスが意識を取り戻すのを見てナタリアさんが歓喜の声を上げる。そして、そのままサキュバスはナタリアさんを見るとそのままフラフラとこちらにやってくきて……鞭を持ったゴブリンがにやりと笑うのが見えた。



「シャーロット。彼女に状態異常回復を!! こいつがゴブリンテイマーだ」

「わかったわ」

「え、一体どうしたですぅ? きゃぁぁぁぁ」


 ナタリアさんの悲鳴があたりにこだまする。それも無理はないだろう。こちらへむかってきたサキュバスがいきなり彼女の首をしめようとしてきたのだから……


 だけど、全裸で乱暴されているというのに、一切悲鳴をあげないことと、こんなところに女王であるナタリアさんがいるというのに無反応だったことに違和感を覚えていた俺は身体能力を上げた体で思いっきり横に飛んで剣を投げつける。



「ゴブゥ!!??」



 俺が横に動いたことで見えたゴブリンの腕を狙い違わずに剣が貫き、そのまま猛ダッシュでかけよると、ゴブリンが悲鳴をあげつつも何かをつぶやくのが見える。

 すると、人質にされていた少女がゴブリンの剣を引き抜いてそのまま自分の喉に突き刺そうとして……



「させるかよ、状態異常回復!!」



 ヘスティア様の加護をつかって、正気に戻させる。そして、今まさに俺に背をむけて逃げようとするゴブリンを追いかけて全力でその後頭部を殴りつける。



「ゴブゥ!!」


 あっさりと気絶したゴブリンを拘束しながらあたりを見回すと、全裸の女性をシャーロットが、全裸のサキュバスをナタリアさんが保護しているところだった。

 戦いがひと段落したことを一息ついてあたりを見回すとかつては皆に信仰されていたであろうヘスティア様の像は右胸から半分がかけており、蔦が絡まっているのが見えて複雑な気持ちになる。

 俺たちで必ずやヘスティア様の信仰を復活させよう。そう誓うのだった。





「ひどいですぅ……この子はリリスの部下で最近行方不明になっていたんですぅ。まさかこんなところにいるとは……」

「この子もさらわれたんでしょうね……許せないわ……」


 倒れていた二人に近くにあった布をかぶせた二人が怒りに満ちた目で気を失っているゴブリンを睨みつける。



「こいつにはまだ聞きたいことがあるんだ。だから殺さないでね」

「わかってるわよ。私だってそこまで馬鹿じゃないわ」

「もちろんですぅ……でも、全てが終わったらこいつは拷問ですぅ。一生勃なくしてやるですぅ」



 気持ちはわかるけど、とどめを刺さないように制止する。たぶんだけど、大きい奴がゴブリンチャンピオンで、こいつがゴブリンテイマーだろう。

 あとの二匹のリーダーや、人間について聞きたいことがあるのだ。早く起きないかなとゴブリンを見張っていると足音が聞こえてくる。

 剣を構えて扉の前にいき……開くと同時に斬りかかる。



「うおおおお? なんでお前がここにいるんだよ」

「それはこっちのセリフだよ、ドノバン兄さん」


 俺が剣を首元につけたのはおどろいてしりもちをついたドノバンだったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る