第52話 ゴブリンの巣
「うう……下等なゴブリンにまで胸が大きいって馬鹿にされましたぁ……救世主様あとでなぐさめてくださいぃぃぃ」
「ああ、わかったからそんなに胸を押し付けないで!! 勃起したまま戦いたくないんだけど」
「あんたらね……仮にもここは敵の本拠地なのよ……」
涙目になりながら抱き着いてくるナタリアさんをなだめているとジトーっとした目のシャーロットに怒られた。
まあ、確かにここは敵の本拠地だしね……
とはいえ、想像以上に敵の数は少ない。今頃ヒルダ姉さんや他の人たちと戦っているからだろう。
「だいぶ進んだわね。時々見張りもいるけど、このくらいなら問題はなさそうね」
シャーロットの言葉に無言で頷く。ゴブリンを見つけたら身を隠したりしてどんどん奥へと進んでいく。残されたゴブリンはすっかり油断しているのか、モチベが低いようだ。申し訳程度に警戒しているだけなのであっさりと奥には入れた。
これならば某ゲームのように段ボールに隠れてもばれなそうだ。まあ、段ボールなんてこの世界にはないんだけど……
「この部屋ですぅーー。ゴブリンのリーダーたちがよく出入りをするって言ってましたぁ。顔は知りませんがゴブリンのリーダー四人いるですぅ。巨体で巨腕のゴブリンチャンピオン。すべてを従えるゴブリンテイマー、圧倒的な守備力を持つゴブリンナイトそして、もう一人はサキュバスよりも魅力的なゴブリンレディというらしいですぅ。むかつくですぅ」
「……確かに何体かの気配を感じるね」
アクセラレーションを耳に集中し、聴力を強化すると、何体かのゴブリンの声が聞こえてくる。あとはなんだろう人のうめき声のようなものも聞こえる。まさか内通者がいるのだろうか?
「ここで間違いないと思う。行くぞ!!」
「わかりましたぁ!!」
「ふふ、ヒルダ姉さんの妨害何てぶっ壊してやるわ。セイン。この戦いが終わったら婚約パーティーを開くわよ」
「いきなり、死亡フラグみたいなこと言わないでくれる!?」
シャーロットに思わずツッコミをいれつつも俺とナタリアはそれぞれにバフをかけて……ひときわ立派で大きな扉をこっそりとあける。
むわっと酒の匂いがすると同時に視界に入ったのは、裸の若い人間の女性とサキュバス。そして、それに対して下卑た笑いをあびせているひときわ大きなゴブリンと、鞭のようなものをふるっているゴブリンだった。
このありさまは……
「私の同族を……死ね。聖弾」
これまで聞いたことのない冷たい声がしたかと思うとナタリアさんがそのまま鞭をもっているゴブリンに光の弾丸を放つ。おそらく、これが彼女の二つの目のヘスティア様の力なのだろう。
もちろん、この隙をのがすまいと俺とシャーロットが斬りかかる。
「ゴブゴブ!?」
「ゴブ――!!」
幹部級のゴブリンチャンピオンとやらなのだろう、ホブゴブリンを一回り大きくした巨体のゴブリンが床に落ちていた大剣を拾い上げるとそのままナタリアの放った光の弾を剣が禍々しい光を受けて吸収していく。
にやりと厭らしい笑みを受けべるゴブリンチャンピオン。
「あれは魔剣? なんでゴブリンがあんなのものを持っているのよ」
「だけど、負けるわけにはいかない!! あれなら小回りは効かないはずだ」
「ゴブ――!!」
俺とシャーロットが同時に左右同時に斬りかかるとデカゴブリンは大剣をぶん回して俺たちを近づけないようにする。
とっさに身を引く俺たち……だけど、それでいい。
ぐしゃりという音ともにデカゴブリンの頭が吹き飛んだ。
「ざまぁですぅーー」
放ったのはもちろん、ナタリアさんだ。俺たちはあくまで囮に過ぎない。本命はハイサキュバスの魔力による聖弾だ。
遠距離魔法がつかえるとなると一気に戦いの幅が広がるね。
「オマエラウゴクナ!! コノオンナガドウナッテモイイノカ?」
で俺たちを牽制するかのような大きな声が聞こえたかと思うと動揺しているゴブリンが鞭を片手に、意識をうしなっている女性を盾にするようにしてこちらを向いているのが見える。
人質か……さて、どうするか。
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