第49話 会議
会議室につくとさきほど帰ってきたばかりなのか、汚れた鎧を身に着けているドノバンがテーブルに巨大なオークの首を置いて座っているのが目に入る。
本当にオークロードを狩ったというのか……?
森の三種族たちはみな同等の力を持っていると言える。
サキュバスの女王であるナタリアをあっさりと説得できたのは俺がヘスティア様の救世主だったからだ。そもそも状態異常無効の力をもっていなければもっと苦戦したのは間違いないだろう。
そして、もう一つ怪しいとおもっている理由があるのだ。
「さすがはドノバン様です!! あのオークロードを倒すなんて……」
「やはり、あなたしか後継者はいませんよ」
「あ、ああ……」
取り巻きたちがはやし立てるなかドノバンは何とも言えなさそうな表情で頷くだけなのだ。
あいつの性格だったらもっといきりそうなものだと思うんだけど……
「おお、セイン様だ。あの人はサキュバスと同盟を組むことに成功したらしいぞ」
「これは後継者争いもわからなくなってきたな」
「隣の女性が女王らしい……すげえ、美人だな」
俺たちが入ると視線が集中してくる。今のナタリアはサキュバス特有の痴女みたいな恰好ではなく、貴族が着るような衣装に身を包み、シャーロット直伝の胸つぶしをやっているからため普通の人間の受けもいい。
「あまり見ないでください……恥ずかしいです」
「「おおーーーー!!」」
「なんて美しいの……」
ナタリアが恥じらうように笑うと男はおろか女性からも歓声があびる。余計なことをしないようにとにらみつけると、一瞬むっちゃ調子にのったどや顔が見えた。
まるで、自撮りがバズって調子にのった陰キャ女子である。
そんななか視線を感じて、そちらを見るとドノバンを目があって……彼はなぜかさっとさらしてきたのだった。
いったいなんだ……?
普段と違いすぎる様子にまゆをひそめていると、騒がしかった部屋が一気に静まって来る。
父上がやってきたのだ。
「皆の者心配かけたな、ゴブリン相手に負傷するとは私も随分と衰えてしまったようだ」
自虐的な言葉と共に元気そうに顔を出した父上に皆がほっと一安心する。
「だが、ギャンガー家には二つの希望がある。一つは兵士を率いて勇猛果敢にもオークロードとたたかい見事打ち取ったドノバン。もう一つは単騎でサキュバスの里へとむかい見事、同盟の交渉をしたセインだ。この二人がいればギャンガー家の未来は明るいであろう」
「「おおおーー!!!」」
顔色もすっかり良くなっているのは、ケガが大したものではなかったこともそうだが、俺とドノバンが良い結果を残したのもあるようだ。
まあ、確かに遠征にいって「何の成果も得られませんでしたーー」では進撃の巨人の時みたいなお通夜ムードになってしまうからね。
「皆も彼女のことが気になっているとは思う。自己紹介をしてもらえるかな、ナタリアさん」
「わかりました」
父上に促されてナタリアさんが席を立つ。その表情はいつもとは違いすましてはいるものの不安なのか、しっぽが俺の足にからみついている。
大丈夫だよと優しくなでると「ふひ♡」っと一瞬アへ声をあげた。どうやら尻尾は性感帯だったらしい……本当にごめん……
「私の名前はナタリア。サキュバスの女王をやらせてもらっています。そこのオークには見覚えがあります。オークロードは討たれたようですね。あなたがた人間の能力には尊敬の念を抱くばかりです」
ナタリアが美しい所作で告げる言葉に歓声があがる。実際こいつがオークロードかどうかは人々も不安だったのだろう。
「そして、私はセイン様に説得され、和平と同盟を結ぶためにやってきました。まずは憎きゴブリンたちを共に打ち倒そうではないですか!!」
「おおーーー!!」
「それでは私の兵士は正面から、ドノバンはオークの巣から、セインの部隊はサキュバスの里から三方向から同時に攻めることにしようと思う。まさかあいつらも三方向から来るとは思わぬから混乱するはずだ。とりあえずドノバンはしばらく休憩しておけ。その間にセインはサキュバスの里に行き、彼女たちとの作戦を話し合っておいてくれ」
「「はっ!!」」
その言葉で会議が終了をつげる。父上は明言してはいなかったけど、俺とドノバンの部隊をわけるっていうことは活躍した方を後継者にするということなのだろう。
そして、皆が席を立ち始めたので俺もサキュバスの里へと向かうための準備をするために自室に戻ろうとした時だった。意外な人物に声をかけられる。
「なあ、お前が自分でサキュバスと交渉したのか?」
その声の主とはドノバンだったのである。いつもは馬鹿にした顔でこっちを見てくるくせに今はなぜか弱気なようにもみえる。
「当たり前だよ。俺は兄さんとは違って兵士たちからの人望はなかったからね。ヒルダ姉さんたちと一部の兵士しかついてくれなかったからね」
これは悲しいが事実だ。そして、結果的にオークロードを倒しているのだ。剣はそうでもなく指揮能力は高いのかもしれない。兵士たちも正しかったのだろう。
そう思っていたのだが……
「お前は自分だけの力でこの偉業を成し遂げたというのか……」
「ドノバン様、いきましょう。お疲れのようです」
「あ、ああ……」
会話の途中で現れた胸のひときわ小さい少女によって会話は遮断される。切れ長の瞳の美しい女性だ。
初めて会う人間だけど、誰かに似ている気がする……
「救世主様もいきましょう。私は頑張ったからご褒美がほしいですぅー」
少しひっかかることはありながらも会議室をあとにするのだった。
ナタリアさんは黙っていれば美しいんです。
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