第44話 乱入者
「ひぃぃぃぃ、なんなんですか、この人ぉぉぉぉぉぉ」
「ナタリア様大丈夫ですか!! まさか祝勝ムードで油断していたとはいえ、ここまで侵入を許すとは……」
窓から乱入してきた人影は流れるような動作で俺とナタリアさんを引き離し、彼女の首に剣を当てていた。
アクセラレーションを使う暇すらも与えない圧倒的なまでの力に俺は驚くしかなかった。だけど、それと同時に人影の顔を見て安堵の吐息をつく。
「俺は正気だから大丈夫だよ、心配させてごめん」
「連絡がなかったのでサキュバスに魅了されたと思ったのですが……違ったようで、お姉ちゃんは安心しました」
正気の俺を見てヒルダ姉さんがほっとしたように微笑むと剣をしまう。その手足には無数の切り傷があり、おそらくサキュバスの魅了から逃れるために自分で傷つけたのだろう。
どれだけ心配させてしまったのか、申し訳なさと嬉しさが入り混じりに俺は即座に彼女の傷を治療する。
「本当に心配かけちゃったね……だけど、そんなに急いで何かあったの?」
「はい、ゴブリンたちの元へと向かっていた辺境伯が負傷して戻ってきたのです。魔物たちがイレギュラーな行動をとっていたらしく……それでつい心配になり様子を見に行ったら遠目からセイン様が襲われているのが見えて……」
「違うんですぅ。私は救世主様にお礼をしようとしただけですぅー。確かに襲おうとはしましたが、それは性的な意味ですぅ―」
解放されたナタリアが慌てて言い訳をすると、ヒルダ姉さんはその豊かな胸を見てふっと笑って頭を下げる。
「その胸……あなたもシャーロットさまと同じくヘスティア様の加護を持つ方なのですね。セイン様の仲間だとは知らず失礼いたしました」
「あなたも私の胸を見ても変な顔をしないんですかぁ? さすがは救世主様のおねえさんですぅ。私は器が大きいので怒っていないので安心してほしいですぅ」
ナタリアさんが微笑むとヒルダ姉さんも安心したように一息つく。ヒルダ姉さんを俺の姉って勘違いしているのはあれだけど、説明するとややこしくなるので放っておく。
「まさかサキュバスと同盟を組むとは……流石はセイン様ですね。これならば、今回の後継者争いも間違いなく勝てるでしょう」
「ああ、父は魔物たちを何とかしろとは言っていたけど倒せとは言ってなかったからね。仲間にしたんだ。ドノバンがオークの巣を滅ぼしていない限り勝てるでしょ。それよりもこれからのことを考えないと……」
負傷した父といいゴブリンの言っていた協力者といい今回の遠征はどうも胡散臭い。まだまだ終わらない気がするのだ。
「どうやら、話はまとまったようですね。正式にセイン様たちと同盟を組みたいのですが……大丈夫でしょうか?」
「そうだね……父さんが負傷しているとなると、サキュバスをたくさん連れていくと変に警戒される可能性があるね……」
「では、私たちの方で一人使者をたてましょう。そしてあなたたちの屋敷で交渉すればこちらの誠意も見せることができるはずです」
グラベルさんとこれからのことをどんどん進めていく。転生したとはいえ父が負傷したというのに驚くほど俺はショックを受けていなかった。
まあ、関係性も少なかったしね……
そのことを少し悲しく思いながらも俺は自分の屋敷の方角を見つめるのだった。
☆☆
サキュバスたちで話し合い使者を決めるということでヒルダ姉さんと共に別室で休ませてもらうことにする。
「幸いにも辺境伯の傷は大したものではありません。数週間休めばまた公務に戻れるでしょう」
「シグレに治療してもらうのは……やめた方がいいよね」
「はい……辺境伯が負傷したことは皆知っていますし、彼女がヘスティア様の力を使えるとばれれれば面倒なことに巻き込まれると思います」
父の傷もまあ心配だが、シグレの身の安全の方がもっと心配である。致命傷ではないのだ。少し耐えてもらおう。
「そういえばヒルダ姉さんたちはどうしていたの?」
「私はあのあと霧を発生させる花を焼いて待機していました。あとは定期的に襲ってくる魔物退治ですね。本当に心配したんですよ。今度こういう場合は護衛として私を連れて行ってくださいね」
「ああ、その点に関しては本当に申し訳なかったと思うよ」
急ぎだったとはいえ彼女を待っていればよかったと思う。
しかし、こうして怒られているとなんだか本当にお姉さんみたいである。そして俺は実感する。今の自分にとって大切なのはずっと支えてくれたシグレと、こうして俺を心配してくれるヒルダ姉さん。そして、ツンツンしながらも頼ってくれるシャーロットなのだなと……
コンコン
ノック音が聞こえたのでヒルダ姉さんが扉を開く。使者の件が決まったのだろうか?
「お兄さん、ちょっといいかなぁ♡」
意外にも顔を出したのはメスガキサキュバスことリリスだったのだ。
ヒルダ姉さんだって読者さんにはバレバレでしたね……
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