第43話 ゴブリンメイジ
飛んでくる矢に対して俺は驚きつつもあっさりとかわす。普段ならばともかく強化された俺からしたら止まっているも同然だった。
「つまらない演技だね。最初から殺すつもりだったでしょ」
「アタリマエダロ……ニンゲンノオスナンテコモウメナイゴミダ」
「はは、さいこうに薄汚いゴブリンってかんじだな」
優しそうな笑顔から一転厭らしく笑うゴブリンメイジが杖をふるうと禍々しいオーラに包まれ一瞬だが、精神に違和感を覚える。
おそらく洗脳のたぐいなのだろう。これで、魅了されていたホブゴブリンたちを操っていたのだろう。
けど……
「俺には状態異常は通じないんだよ!!」
二重のバフがかかった俺はあっさりと護衛らしきホブゴブリンたちを切り捨てて、そのままゴブリンメイジを追い詰める。
「ナマイキナニンゲンメ!! シヌガイイ!!」
「遅いよ。今の俺には止まって見える」
ゴブリンメイジに魔力が杖に集中し、強力な火の玉が生まれかけたタイミングで、その先端を断ち切った。
そして、そのまま驚きの表情を浮かべているゴブリンメイジの腹を蹴り上げるとそのまま壁にぶつかっていき吐しゃ物を口から漏らす。
「マ、マテ……オレタチハニンゲントキョウリョクシテイルンダ……コレニミオボエガナイカ?」
「人間と協力だって……」
苦しそうに腹を抱えているゴブリンメイジが胸元から取り出したのは何かの紋章だった。残念ながら見覚えはないが、もしかしたらシャーロットならば知っているかもしれない。
「もうちょっと良く見せてみろ」
「アア……コレトイッショニウデワモモラッテサキュバスト、ニンゲンヲコロセトタノマレタンダ……」
息も絶え絶えのゴブリンメイジに近づこうとした時だった。殺気と共にすさまじい速さの矢がこちらへ飛んでくるのに気づきかろうじで剣ではじく。
しかも、魔法が付与してあったのか剣が凍てつきわずかに重くなる。
「また、不意打ちを……って、そういうことか」
どうやら矢が狙っていたのは俺だけではなかったらしい。ゴブリンメイジはその額を貫かれており、徐々にその死体が燃えていくのを見て、矢が飛んできた方を睨みつけるもそちらからは気配は一切感じられなかった。
ゴブリンをそそのかした人間に魔法の矢か……なんか嫌な予感がするな……
「この腕輪には何らかの魔力がこもっているみたいですぅー、でもこの紋章には見覚えはないですぅー」
「我々魔物はこういうものはあまり好みません。人間が使用しているのでしょうね」
ゴブリンたちの襲撃を何とか押しとどめて、俺は再度ナタリアの部屋に来ていた。ゴブリンメイジの持っていた紋章をナタリアさんとグラベルさんに見せたが、反応はいまいちだった。
「侵入者を奴隷にする我々サキュバスは利用しにくいと思いゴブリンたちとのみ組んだのかもしれません。おそらくですが、力を重視し、たった一匹のカリスマの元に立っているオークもこういった絡め手は好まないと思います」
「じゃあ、ゴブリンの領地にだけ人間がいるってことだね」
その話を聞いていてなんだか嫌な予感がする。だって、ゴブリンメイジは言ったのだ。
『ニンゲンヲコロセトタノマレタンダ……』だと……その人間というのはおそらくだが、魔物退治をしようとしているギャンガー家の人間のことだろう。
つまり、父やドノバン……そして、俺の誰かが狙われていることになる。辺境伯ということで、父がだれかに恨みを買っているのだろうか……
「とりあえず先ほどの戦いでナタリア様が反対勢力のリリスを抑えることができました。正式に同盟を組もうと思うのですがいかがでしょうか?」
「ああ、そうだね。父と連絡を取って合流できないか聞いてみるよ」
結果的に三大勢力のうちの一つと同盟を組むことができたのだ。父は魔物を倒せとは言わなかった。成果をあげろといったのだからこれはかなり大きいはずだ。
これで後継者争いも一歩リードかな。
「難しい話はおわりですぅー。では、同盟記念ということでサキュバス風に親睦を深めるですぅー。一緒にお風呂にはいるですぅー」
「え、そんな風習あるの?」
まあ、確かにサキュバスは女性ばかりのサキュバスならあり得るのか……でも、これじゃあ、まるでソープランドじゃ……
「いえ、そんなものはありませんが……」
「私が今作りましたぁー。女王が決めたことなので決定ですぅ―」
「こいつ……調子にのりはじめたな……」
「ああ、そのごみを見るような目がくせになるですぅぅぅ。今までおあずけされていたんだからちょっとくらい救世主の体をさわらせてくださいですぅーー」
きゃっきゃと楽しそうにしているナタリアに苦笑していると、俺はすさまじい殺気を感じて腰の剣に手を置く。
そして、ナタリアさんたちも同様に構えた時だった。窓ガラスが割れて一人の人影が現れるのだった。
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