第43話 語り合う

 鉛玉の洗礼。

 この手の集落には良くある話だ。


 射線から、発射位置を特定。

 ファイヤーアローっぽい魔法をぶち込む。


 なぜか、チュドーンなどと言う爆発が起こる。


 それも規模が大きく、周囲の建物まで巻き込んで吹っ飛んでいく。

 さらにその途中でも、爆発が起こり破裂音や爆発音が周囲に響き渡る。


「あれって多分に、武器弾薬を周囲に積んでいたのかな?」

「地球の事情はよく分かりませんが、地元の警察によると彼らは撤退戦が得意なようです。奥へ奥へと引き込み、周囲から一斉射撃を行う様ですね」

 そう言って、シーヴが度の入っていないめがねを、クイッとあげる。


 今のブームは、優秀な秘書だそうだ。

 まあ、倦怠期の解消とか言っていたが、言っていて意味は分かっていないだろう。

 いつもノリノリだし。


 獣人は、繁殖が命ですとか言っていたしな。

 種族として強いオスの子を残すのは、何よりも優先されると。


「まあいい。それじゃあ、あの辺りも人が居ないし、ファイヤー」

 やはり周囲に、武器弾薬をストックしているようだし、燃やそう。

 なるべく人が居ない方へ向けて、火の付いた槍の様なサイズの矢が飛んでいく。


 それが着弾するたびに、火薬への誘爆が起こるようだ。


 それを、離れた位置から見ている市長。いや今は州長か。

「なかなか派手だな、周りを囲む警官達を下げろ、誘爆で発射された弾に当たるのはかなわん」

「はっ」

 良い返事で走り出した警官だが、ぱったりと倒れる。


「あっ、撃たれたのか?」

 数人が助けに行くと、器用なことに自分の靴紐を踏んで倒れたようだ。


 この前のお遊びを思い出してしまった。

 こそっと、杏の靴紐を左右で結んでおいたら、朝こけたらしく呻いていた。


 それに腹を立て、皆の靴紐を結んだようだが、普通は靴を履くときに気が付くし、あんな見え見えな罠にはまるのは、杏だけだったようだ。



 さてそんな事を思い出しながら、双方での語り合いが本格的に始まる。


「やりやがったな」

 とか叫びながら、こちらに数発、銃を撃つ。

 そして、誘爆した爆発に巻き込まれて、吹っ飛んでいく。

 つまらないことをせずに、逃げれば良いのに。


 奴らが、どれだけ無防備に銃の弾や爆薬を積んでいたのか、色々言う間もなく、周りは瓦礫の積み上がる集落だった物に変化していく。


「手入れか畜生。警官め」

「いえ、警官ではないようです」

「えらく騒ぎになっているが、警官じゃないなら何者だ?」

「へい。ガキと女が一人ずつ。女も、ガキっぽいが、かわいいそうです」

「売れそうか」

「そりゃもう」

「いけ。殺すなよ」

「ヘイ」


 わさわさと出てきた武装集団。


 もたもたと、構えを始める前に、矢を撃ち込む。

 そう、これは語り合い。

 最初の鉛玉がご挨拶なった。


 挨拶をされれば、返さなければいけない。

 全身全霊を持って、丁寧に。

 手を抜いては、失礼になってしまう。


 奴らの前に、炎をの壁を創る。

「おお、喜んでいるな」

「ええ、大騒ぎですね。情報が来ました。面会相手は、セルジージョ=ゴンザレス。彼とは口頭での対話を警官も望んでいるようです。殺っちゃ駄目です」

「了解。でも顔も知らないが、素直に答えてくれるかな?」

「きっとおバカですから、あの高いビル辺りにいるのでは無いでしょうか?」

 そう言われて建物を探査すると、確かに高いビルに、人が集まっている気配がする。


「結構いるから、挨拶をしに行こう」

 そう言ってシールド張り、スタスタと町の中へと入って行く。

 放射熱などもきっちり防ぐ。


「セルジージョちゃーん。ゴンザレスちゃーん。あーそーぼー」

「セルジージョちゃーん。ゴンザレスちゃーん。あーそーぼー」

 俺が言った言葉を、シーヴがまねをする。同じ言葉なのに、妙にかわいいな。

 シーヴが言った方が出てきそうだな。


 そうして、燃えている奴らの脇を抜けて、目立つビルへと向かう。


 火はそこまで来ていて、ビルに居た奴らもあわてているようだ。


「セルジージョ=ゴンザレスという奴を探しているんだが、知らないか?」

「ゴンザレス様を呼び捨てだと」

 そう言って、身長二メートル近くの厳つい、いかにもな奴が振り返る。


 そして、シーヴを目にとめると、言葉も無しに手を伸ばし……

 奴の右手は空を飛ぶ。


 亜空間庫から一瞬で抜刀し、また戻す。

 それだけだが、シーヴは最近お気に入りで、陽炎かげろうと技に名前を付けている。


 最近、杏やアデラと一緒に、オレが持っていた漫画を掘り出して、読みふけっている。

「やっぱり、技には名前よね」

 そう言って楽しんでいるようだ。


 だが、おもしろかった本達も、もう、続巻が出ることはない。


 地方へと散らばっていれば…… 大都市に集中をしているから、攻撃一つですべてが終わってしまったんだ。

 今でも悔やまれる。


「さーてと、ラ○ウの元に案内をしなさい」

 シーヴはそう言って、拳の関節を鳴らそうとするが、ならない。

「シーヴ。探す相手が違う。セルジージョ=ゴンザレスだ」

 後日、じいちゃんにセルジージョ=ゴンザレスの名前を言ったら、なんだか、懐かしそうだった。クロノがどうしたこうした。歌がどうしたと。


「ひっ」

 とか言いながら、意外とあっさり道案内をしてくれた。

 意外と良い奴だったようだ。


 ビルの上階へと上がり、ザワザワと声がする所へやって来た。

「ルッピ。てめえ」

 同じく、厳つい男が声をかけてくる。

「その手はどうした。大丈夫か? おおい治療班」

 意外と、みんな良い奴だな。厳ついけれど……


「セルジージョ=ゴンザレスって言うのは誰だい?」

「ああ。なんだ?」

 スーツを着込み、葉巻を咥えて身長百六十センチくらいの男が出てきた。

 姿を見せるなり、シーヴのしっぽが目についたようで、触ろうとした。

 その瞬間に、顔がぶれる。


 シーヴの往復ビンタ。

 スピードが速く、一瞬で顔が左右に振られて、脳が揺さぶられた様だ。

 かくっと膝をつき、前に向いて倒れ込む。


「「「あっ。ボスぅ」」」

 こいつが、ゴンザレスで間違いない様だ。

 

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