第40話 非常識の連続

 部隊は見た。

 その非常識さを……


 住民の男が一人、すらりと剣を抜く。

 こちらは、小銃だ。

 セミオートモードで、腹を狙う。

 だが頭で止まった弾は、腹でも止まる。

 見えない壁が存在している。


 隊長はふと思う。人に化けたモンスターじゃないかと。

 一時期、ゾンビ達が湧いていた。

 それが共食いをすることも知っていた。

 強くなり、残った個体。

 それが、奴らではないかと。


 先頭に居た一人目の兵へと、奴が接近し一薙ぎ。


 兵の動きが止まり、一瞬おくれて首から血が噴き出す。


 エクストラ刈り刃は、鉄でも切れる。

 そして、魔石を使うが、斬撃も飛ばせる。

 射程距離は、二十メートルほど。


 今は畑の真ん中なので、飛ばしはしない。


「俺もやるかな。最近っていないから腕が鈍る」


 だが出ていく前に、隊長らしき奴が号令をかける。

「撤収」

 普段動きが遅い奴まで、この時ばかりは俊敏な動きを見せた。


 トラックは、狭い農道をすごい勢いでバックしていった。


 当然それは、報告される。

 だが、警備部からの報告は、書面として色々なところを経由する。

 そこで、情報を見た者達は、一様に動揺をする。

 特に、組織において下部の者達。


 中間管理職達は、ここを出ても受け入れてもらえるのか判らないとか色々考える。特に家族がいるものはその傾向が高い。

 だが、下部の人間達は逆に家族が居る者達ほど、何とかまともな生活をさせたいと考える。


 数日で噂が広がり、お近くにある希望の国。日本へと亡命を決定をする。


 農地が繁り、住民達は健康的で強かった。

 柵もないのに、モンスターに荒らされていなかった。

 鎧も着ていないのに、体の周りに見えない何かがあり、銃弾を止めた。

 立派な戸建ての家に住んでいた。


 この中で、他の企業体との連絡のため、ヘリを使ったり、周囲警戒にドローンを使ったりしている。

 その映像では、周囲は荒れ地だったはず。

 だがこの報告。

 農地に戸建ての家……

 しかも十キロも離れていない距離。


 あまりにもおかしい。

 だが、魔導具という言葉や、日本という言葉。

 知っている人間は知っている。

 日本は、ジャパンだ。


 騒動以前でも、おかしい民族性を誇っていた国。

 きっとアニメの世界を、現実にしたんだ。

 そう、あの国は非常識。


 自然すべてに神が宿り、古代から王が国を守る。

 数千年の歴史を持つ独特な国。


 だが、昔行ったことがある。

 頼ろう。


 意外と話は決まり、再び逃亡者が発生をした。


 

 彼らは、荷物などほとんど無い。

 手荷物一つで、発見場所に向けてひた走る。


「おい、また警報だ」

「だが、人かゴブリンか。かなりの大人数だな」

 モニターを見ると、後部を警戒しながらひた走る人達。

 小さな子供まで、姿が見える。


「お客さんだ」

「迎えに行こう」

 彼らは事情を話し、受け入れられる。

 少しの間、集会所に詰め込まれたが、お迎えがやって来る。


「ここで暮らすのか、別のところへ入植をするのか決めてくれ」

 そう言って地図を見せられる。

 北半球を中心にして、かなりのエリアが対象のエリアだった。


 その晩から、集会所を出る。彼らは輸送船と言ったが、中に入ると客船のようだった。

 客室に食堂。カジノや劇場はないが、設備は充実をしていた。


 家族だけのプライベート空間。

 シャワーまで付いている。


 そこには、失われ、忘れそうになっていた文明が存在した。

 落ち着いたところで、家族で抱き合い…… 涙をこぼす。


 その後の方が、非常識で、一気に時代を超えた生活を見る事になるのだが。



「なに? 事務方の下級民までが逃げただと。捕まえろ」

 流石に、これ以上人が減ると組織の維持ができなくなる。

 工場でも、最低限必要な人数というものがある。

 それを下回れば、生産すらできなくなる。


 大部分の食料も輸入しているこの企業にとって、製品の出荷停止は死活問題になる。

 いい加減、設備メンテナンスもできず、だましだまし生産をしている。

 管理技術者を、替えは幾らでもいると安くこき使っていたために、本当にいなくなれば困ることになった。


 当然焦ることになる。



「まあた、お客さんだが…… 敵だな」

「うーん? 企業の奴らか。皆に連絡だな」

「戦争だ」

 速やかに情報は流される。


 だが輸送船と共に、息吹達も現場にいた。

 当然宇宙船からの警告がくる。

「ご近所さんか、逃げ出す連中が多くて、ぷっつん来たかな」

「でしょうね。数回に分かれて、千人単位。厳しいでしょ」

「話をしてくるか」


 そう言って、隊列の前に転移をする。


「止まれ」

 手を広げてアピールをする。


 だが、なぜか止まる様子はなく、突っ込んでくる。

「ふん」

 戦闘のトラックを止める。


 彼らは戦闘をする気は満々で、人など殺せそんなつもりだったが、時速六十キロで走っていた大型トラックが、いきなり速度ゼロになる。


 その衝撃はすさまじく、運転席から人が飛び出し荷室に座っていた連中も前に向けて吹き飛んでくる。

 そこに、後続のトラック達も突っ込み、前方にいた数台の乗員は戦闘不能に陥る。


「バカやろう。人が居たら止まれや」

 どう見ても、撥ねた方が被害が甚大だが、その化け物は偉い人間を探すため歩き始める。


 隊長は、目標地点前で停車したのを不思議に思い降りてきた。

 いたのは車列の中間部分。危なく、前後のトラックに挟まれるところだった。

「何をしている。状況を報告をしろ」

 大声を出してしまった……


「みいつけた……」

 息吹の目が、怪しく光る。

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