第39話 立ち位置と正義

「我らのおかげで、モンスターから守られている。非力な奴らが何を言っているのだ」

 代表チェンツォ=ブリアーニは激怒する。


 そう、異常が起こったとき、門戸を開き。周囲の住人を避難させて感謝された。

 この暮らしを維持するために考え、作りだしたシステム。


 優秀な者達は、運営へ引き上げ、学のない者達は誰でも従事できる単純作業へ。

 そこに差が出るのは仕方が無いこと。


 エリアを広げ、そこを畑としても収穫までは出費ばかり。

 損益が発生をする。

 そのしわ寄せは、どこかへ向かうことになる。


 優秀な者達は優秀な者達で、承認欲求が強く。見返りが無いと動かなくなる。

 そのバランスが難しいが、目に付く優秀な者が優遇されるのは仕方が無いだろう。

 企業はピラミッド。

 下の者達を管理するのは、下の方で行われる。

 中間の者達は、中間で自分の利益を追求する。


 そのしわ寄せは、代表チェンツォの想像以上にひどくなっていた。

 そうそれだけの事。


 しかし、始まったモノは簡単に止まらない。


 大きな流れとなり、ビルの中へと突入をする。

 ピラミッドは裾野が大きい。

 人数の多さは力となる。


 武器を奪取され、その流れは止まらない。


 かなり凄惨な状況になり、代表チェンツォは吊るされる。

 その日、企業体の一つが止まった。


 すると、輸出していた流れが止まる。


 むろん現状では、一カ所に完全依存などと言う物はリスクでしか無い。

 一部の代替品がない物を除き、他からも入手は可能だが、影響は発生する。


「畜生が、一体何をやっているのだ?」

 連絡を受け、他の企業体でも同様のリスクが、当然考えられるために騒ぎになる。


「調査結果は?」

「社内では、問題は発生しておりません。よほどひどい扱いをしていたのでは?」

 それは、そもそもの企業体の業種による。


 主が、穀物などであれば、そこまでひどくはならない。


 だが、ケミカル関係や半導体、重工業などでは、リスクを考え農地が周囲になかったりする。地下水のくみ上げや汚染など、リスクが高い。


 テフロンによる副産物、PFOS『ペルフルオロオクタンスルホン酸』やPFOA『ペルフルオロオクタン酸』などの有機フッ素化合物による地下水汚染などは記憶に新しい。非常に安定な物質であるために、自然界では分解されにくく残留性、毒性が高いという特徴を持っている。

 体内に蓄積すると、がんの発症や胎児異常などを引き起こすおそれがあるとされ、企業の周囲で、住人の腎臓がんや潰瘍性大腸炎といった難病を患う人が続出。また工場付近の牧場では、牛の大量死も確認されていたそうだ。


 汚染された地下水は、野菜や穀物にも有毒物質を蓄積し、接種した人間に影響を与える懸念がある。


 そう同様の企業で、食糧問題は深刻だった。


 だが、皮肉なことにその周り。

 企業体から追い出された人達は、日本からの支援を受けて、急速に文化レベルが上がっていた。

 安全な暮らしと、十分な食糧。魔導具による安全な水。


 周囲に張り巡らされた警戒装置と、モンスター避け聖魔法具。商品名『この先は、だ・め・にゃ♡』。

 その威力により、生活が守られている。


 あの放送後、食糧が足りていたところでも、外の世界は、すでに安全ではないか?  

 そんな疑念が湧いてきていた。


 その様子は、気を付けていれば発見できただろうが、管理者達は見落とした様だ。


 ある日、最下層の住民達は、忽然と姿を消すことになる。


「なに? 農作物が枯れた? なぜだ」

「それがその、食事の配給達は取りに来ないことに気が付いたようですが、報告をせず。三日目からは、物資の横流しをしていまして」

「横流し? 奴らには販路などないだろう?」

「それが、製品管理部と、販売部にも。特に販売部はおまけを付けることで、売り上げが上がったと言う事で、買っていたそうです」

「―― それは、今回急にじゃなく前からだな?」

「おそらくは……」

「そんな事をするから、反乱が起こるのだ。探せ」

「はっ」


 そうして、住人探査に出かけた部隊の連中。


 当然、すぐに発見をした。

 本社から、数キロしか離れていない所に、農地が広がり、そこでは立派な家に住み、見た感じ裕福な暮らしが営まれていた。


 武力を持つ彼らは、あくどいことを考え、銃を向ける。

 その瞬間に、到る所で警報が鳴り、人々がぞろぞろと集まってくる。


「なんだよ。モンスターかと思ったら盗賊か? 最近珍しいなあ」

「一時期殺しまくったから、近隣では、壊滅をしてしまった」

「あれは楽しかった。自分たちがやられているときには悲惨だったがな」

「ああ。これも、日本の州になったおかげだ」

 その言葉に当然反応する。


「日本? 州だと?」

「そうだ、あんたら、パスポートを見せろ。手前に看板があっただろう。あそこからこっちは日本だ。国境を越えてるぜ」

「そうだな、こいつら犯罪者だな」

 なぜか嬉しそうな住人。

 その異様さは、その場でしか感じられないだろう。


 小型軍用トラックには、二十名ほどが乗車していたが、その人数と火器をを持っていても、足が震える。


 そんな緊張の中で、誰かが引き金を引いてしまう。

 それは単発だったが、住人を捉えてしまった。

「バカ撃つな」

 あわてて、住人を見る。


「危ねえなあ。当たっていたら死んでいたぞ」

 そういった住人の目の前で、空中に浮いていた弾が、ポトリと落ちる。

「敵だな……」

「ああ。てきだ……」

 周囲の温度が数度下がったように感じ、背中を冷たい汗が流れた。


「作物は切るなよ」

「判っているさ」

 彼がすらりと抜いた剣。

 エクストラ刈り刃搭載、対モンスター用標準装備。

 西洋剣中型。神谷工房作。


「いざ参る……」

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