第37話 とりあえず、殴れるなら殴る

 起き上がると、サイズが半分になっていた。


 だが、また密度が上がり、足が地面に少しめり込む。


 謎だが、この闇質量がある様だ。

 そして、また光希が殴るが、今度はひどく堅い。

 奴の足も、少しスライドをしただけ。

「駄目だ。重いし堅い。手伝え」


 飯を少し食おうと思ったが、孫使いのあらいじいさんだ。

 走っていき、体重を乗せて殴る。


 音はしない。だが、本当に堅い。


 そして意外と早い。

 やって来たパンチを、間一髪でかわす。


 俺達がやるように、相手もパンチを繰り返す。


 二対一だが、じり貧だ。

 どう見ても、一発でも貰うとやばい。


 そこへ、シーヴが参戦。

 爪を立てながら、えぐるように猫パンチ。


 するとすぐに、奴もパンチが猫パンチに変化をする。


 肘を曲げ、すごいスピードで引っ掻き合い。


「こりゃ、手を出せん」

 爪の先端は、手首を返した瞬間、音速を超えているようで、はじけるような音がする。

 そこへ、アデラが剣を持って参戦。

 刀身は、聖魔法の光をまとう。

 だが、ゴンという感じで止まり、切ることなどできない。


 そして当然、奴の左手が剣へと変化をする。

 いきなり伸びるリーチ。これはやばい。


 シーヴのしっぽを掴み地面へと引っ張る。

「うにゃあぁぁ」

 文句を言っているが、それどころじゃない。


 さっき、シーヴの胴体があった所を剣が通り過ぎていく。

 しっかり音速を超えて。


「気を抜くな」

「うにゃ」

 そう言いながら、頭をぶんぶんと振り頷く。


「やべえな」

 じいちゃんがぼやく。


「見せれば見せるだけ手数が増える。まだ生まれたてで、勉強中なのか?」


 試しに、背中側から槍で突く。

 うん。刺さらん。


 そして、右拳が槍になる。


 なんのこだわりかは知らんが、手足は二本ずつのようだ。


「これ手を、四本とかにすると、まねをするんだろうなあ」

 じいちゃんに向けてそう言うと、当然言ってくる。

「この際だ、できるならやれ」

「俺は人間だ。できるわけないだろう」

「じゃあ言うな。期待するだろう」

 するなよ。孫をなんだと思っているんだ?


 叫びあってるのが気になったのか、奴まで大口を開けた。

 つい反射的に、さっき追加できた手榴弾型光魔法を放り込む。

 男ってさあ、口を開けられると突っ込むよね。


「欲しいときは、あーんって、言うんだぜ」

 ついでに、顎下から蹴りを放つ。


「重い……」


 鼻と口から、光が吹き上がる。

「効いたか?」

 口が開いているから、もっと放り込む。


 ついでにランチャータイプの弾まで突っ込む。


 人間だと、喉の奥まで入ったようだが、平気だな。すげ。



 その時闇は考えていた。

 この光は、やばいものだと。

 高密度に圧縮をして、物理的な重さを持った。

 だがそれが解れ、消えていく。


 また体を、霧に戻そうとするが、それができない。


 何か決まり事があり、受肉した瞬間、それに沿ってしまったようだ。

 この宇宙の決まり事。それに組み込まれてしまった。


 むろんそれをしたのが何者かは判らない。だが、そのおかげで、生物のようにダメージを与えられる。

 闇にとっては不利な状況。


 動きを止め呻いているために、また口へ、ランチャーの弾が押し込まれ、はじける。


 とうとう光は、内側から喉を食い破ってきた。


 口腔から鼻腔、目を突き破り、頭蓋骨を消滅させる。


 だが、頭で考えているわけではない。


 胸より上は消えてしまったが、手足を振るい攻撃をまた始める。

 物理的な何かになったが、疲れや痛みなどは感じない。

 消耗をすると、小さくなって行くだけ。


 いい加減、皆は疲れてきた。


 こっちは人間で、光魔法を連発中だ。

「いい加減疲れた」

 そうぼやきながらふと気が付く。

 霧の時には効かなかったが、今ならひょっとして……


 真打ち登場と、杏がこちらへ来たとき、目の前の空間で、世界が軋む。


 そう、息吹が放った空間斬。


 あっという間に切り刻まれ、ブロックになり崩れ始める。


 その上に手榴弾がばら撒かれ、さらに力一杯の光魔法。


 世界が白く塗りつぶされる。

 その中で、蒸発するように、黒い奴が消えていく。


「そりゃ」

 光希も放つ。

 そして、シーヴ、アデラ、杏。


 光が本当に世界を染め、何か結晶が煌めく。


 それは、黄金の粒子が混ざり、少しいつもと違った。

 その光の中で、闇は消えていく……


 その下の地面まで、消える。


「ちょっとやばい。逃げろ」

 どのような反応が起こったのか、その場には百メートルを越える、クレーターが出来上がった。


 その光は、遠く離れた都市でも、見られるほどだったとか。


 それを見た大部分は、それが光希の仕業とわかり大騒ぎになる。


 石の像の横に、クリスタルの像ができたとか。

 息吹達は当然逃げた。


 そして、そのクレーターの中心から、ちょっとズレた所に、開いている大穴。

 そこには飛行機から数発の、浄化用爆弾が念には念を入れて落とされた。


 それにより、きちんと浄化できたはずだったが、闇は闇。

 復活には、数億年掛かった様だが、奴は再び這い出してきた。


 だがまあ、それはずいぶんと後の話し。


「さてそれでは、発表しようか」

 人が住んでいる地域。地球の空に、スクリーンが浮かんでいた。

 そこに流される、闇との戦い。

 そうファジェーエヴァでの戦闘。それを利用して言い訳が、始まった。

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