第36話 地上に這い出した闇
その光により、数階分の闇は消えた。
だがすぐに、また盛り返してくる。
「キリがなから逃げろ」
「そう言いながら、蓋をしているのはじいちゃんだ。速く走ってくれ。数階上に上がれば、シーヴか誰かのお尻に追いつくから頑張れ」
「尻か、頑張りたいが足が動かん」
「じいちゃん。早く」
そう言いながら、手すりに手を掛け、階段を通せんぼしている光希。
それを見て、言いたいことを理解した。
この野郎。暗にあいつと戦えと言ってやがる。
「このっ」
この階は、切断面からで十階程度。
上部二階は崩落で壊れ、ぐちゃぐちゃだが、そこから下はこの金属製の階段で行き来は問題ない。
一分もあれば逃げられる。
亜空間庫から、聖魔法の詰まった手榴弾をあるだけ下の階へばら撒く。
五秒タイプと十秒タイプ。
自由落下だと、時間を2乗して、重力加速度9.8gを掛けて、その答えを半分だった気がする。
「五秒と、十秒。ええと幾らだ? ああくそ。分かるかぁ。いけえ」
結局、五を数え、その場でもう一度聖魔法をぶちかます。
空気抵抗が無ければ、十秒あれば、四百九十メートルくらい落ちたことになる。
だが本体は、星のマントルまで侵していた。そこに至るには、おおよそ三十キロほど地下まで、降りなければいけない。
光の魔導具である手榴弾は、そんなに多くはない。
地球側で湧いていたゾンビ殲滅様に創ったもの。
後在庫として持っているのは、光魔法を発する。単なる、魔導ランプ。
明かりと、ゴースト除けになる逸品。
考えた末、ハンカチでパラシュートを作り落としてみる。
スイッチを入れ、ぽいぽいと穴の中へ放りこむ。
闇が立ちこめる縦穴に光が、ゆらゆらと落ちていく。
岩手や新潟とかで行われるスカイランタンの逆バージョン。
地下で、実に幻想的な風景が見られた。
ついスマホで撮影をする息吹。だが、撮影をしてみると、無数の恨みの籠もった目が、大量にこちらを向いていた。
「うげっ」
スマホを落としそうになる。
闇その物が、恨みの固まりなのか、闇に取り込まれた恨みなのか、どちらが先かは判らない。
だが、とんでもない恨みの固まりだという事は判った。
ランタンは、流石に配りまくるため沢山持っている。
だが布がない。
諦めて、もう一度気合いを入れて一発撃ち込むと、一つ上階へ上がり、ランタンをフロアに並べる。
そうしておいて、地上まで戻り、小型のパラシュートが無いかを、軍の方へ連絡をする。
ついでに、聖魔法の発動魔導具。
強力な物があれば、それをよこすように頼む。
その時、闇は考えていた。
外に放っていた物が、ドンドン接続が切れて逝っていた。
せっかく力を増し、増やした力。
それが削られている。
いまも、焼かれ続けている。
拡散していた闇を収束し、一所へと集まってくる。
やがて、多く取り込んだ記憶から、一匹の鬼へと形が変わる。
穴から這い出ると、大穴の底には、忌まわしい光を放つ物が多数転がっている。
彼が軽く手を振ると、それだけで、忌まわしい魔導具は砂へと変わっていった。
壁に手を掛け、這い上がり始める。
もしスマホで撮影をすれば、地の底から這い出す姿は、黄泉の国から這い出す亡者の群れに見えただろう。
肉眼では、十メートルほどの鬼が一匹。
だが、その周りには、恨みと呪いが渦巻いていた。
常人なら、きっと近くにいるだけで気が狂い、友人や肉親にも躊躇無く食らいつくだろう。
理性は飛び、生物の本能行動と欲だけが増幅される。
どのくらい、穴を上がっただろう。
周囲が明るくなる。
しかもかなり強力な光、手を振り闇を剣として使う。
だが、その剣は光により焼かれてしまう。
そのため、考える。彼は腕を槍のように突き出す。
焼かれるが、その奥から再生される。
そして、最小限で、目的を達成する。
階段の所で、その光景を見ていた、息吹。
「霧がないからおかしいと思ったら、やべえモノが来ている。効くのか?」
そいつに対して、光の槍を打ち込む。
だが、槍を槍で払い、本体まで届かない。
「もうちょっと、キツい奴」
光の槍は、別に物質ではないから、普通に払ってもあんなにはじかれるのはおかしい。
物理現象すら、ゆがめている。何が起こっているのか、よく分からない状態。
そう、何かが狂っている。
だから、奴を包めるくらいのサイズで、光の柱を打ち込む。
流石に、はじけずにまともに食らうが、シールド? いや盾を展開している。
その盾は、徐々に変化をする。生物的な何かへ進化している?
「やべえな」
その場を後に、逃げ出す息吹。
地上に出て、光希に相談をする。
今食事中だったが、血相を変えた息吹の様子を見て驚く。
「どうした?」
「なんか変な奴が上がってきている。鬼っぽいが、攻撃を加えるごとに進化する」
「そりゃあ、まずいな」
すると通れる場所が無かったのか、覆っていた岩などが吹き飛ぶ。
「霧じゃ無く、物理が効く相手になったようだな。だが、なんだかまずいという事は判った」
光希の目には、周囲の呪いが見えていた。
「触れるとじゃ無く、近寄ると危険だな」
そう言いながら、光希は走り出し、光を纏い、足首を狙って拳を振るう。
はじかれるように、軸足が跳ね上がる。
倒れ込み、闇は衝撃を受けて考える。
これでは駄目だと……
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