第35話 まだまだぁ

 じいちゃんは、崩れた所を見に行った。


 杏だが、現在のシステムにリンクしている為、船には連れて行けない。

 テントを張り、中で脱がして、塩をまぶしてみる。

「黒い霧が出ない。駄目だな」

「それは…… それなら、入った所。お尻から光魔法で浄化する?」

「脱がしたし、まあ良いか」

 シーヴとアデラに足を抑えていて貰い、杏の体内に向けて浄化魔法を流し込む。

 そして、徐々に強さをあげていく。


 ガクガクと痙攣をし始め、口や目。ありとあらゆる穴から、煙が吹き出す。


 あわてて、シーヴとアデラが周りを浄化し始める。


 痙攣はひどくなるが、角がコロンと抜け落ちる。

 爪や、牙も……


 やがて、痙攣が治まり、おとなしくなる。


 治癒魔法で、抜け落ちた跡を治療をして行く。


「まあ、こんな物かな」

 すると、以外とすぐに目が開く。

 目の色も普通に戻っていた。


「あれ、もう終わり?」

 なぜか、そんな質問を投げてくる。


「なんだ? 夢でも見ていたのか?」

「あーうん。なんか、欲望を解放せよとか、頭の中で声が聞こえて……」

 そう言ったまま、杏は口ごもる。


「受け入れろって。見た感じ聞いてきているのが、息吹だったからつい。限界までの耐久エッチを望んだのよ。受け入れちゃった」

「あー実に、平和でよろしい」


「でー。この粘ついた感じと、かゆいのは何?」

「塩。光希様が穢れを祓うのは塩だと言って、全身にまぶしたの」

「へー」

 そう言っているが、シーヴが写真を見せる。


 角が生え、牙が生え、真っ黒い目と、口から黒い煙。

「格好いいけれど、いまいちかわいくない」

「そうだな」


 そう言って、体はお湯で流し吹き上げる。外は氷点下だが、テントの中でするのは随分無理がある。外に出たときが怖い。湿気がバシバシだと、凍りそうだ。

 素直に体の外に向かい、浄化をすれば良かった。




 地上で何とか杏が落ち着いた頃、杏がなりかけた魔人どもが地下にも湧いていた。


 コンピュータその物は勝手に動いても、管理者は必要だったらしく、結構な人数が光希に向かい攻撃をして来る。


「面倒だな。浄化するか?」

 強力な浄化魔法の光が、周囲全体を包む。


 その強力な光は、柱となって、上空までを白く染める。


「なんか、派手にやってんな。行くか」


 大穴を、ひょいひょいと降りていく。


 すると、炭になった人達だった物が倒れている。

 ただし、爪や角が生えている。


「変化すると、人間じゃ無くなるのか」

 息吹は軽くそう言ったが、それを見て、杏は引きつる。


「もしかして、手遅れになるとモンスターになるの?」

「そうみたいだな」

 フロアごとに、かなりいたようだ。


 光希は、何かに導かれ、下へ下へと降りていた。


 ずっと頭に響く誘い声。


 幾度か体へもぐり混もうと、黒い煙がやって来る。

 当然体の周りには、常時聖魔法のシールドが張り巡らされ、届くことはない。


「来るが良い。力を与え望みを叶えよう」

 そんな事を言ってくる何か……


「さて特に願いなどは無いが、お前が死ねと言ったら、願いは叶うのか?」


 そんな事をぼやきながら、システムの下層へ来ると、大穴が開いていた。


 まるで星の中心にまで届きそうな穴。

 だがそこには、闇が溜まっていた。

 何処までも続く、深い闇。

 見ているだけで引き込まれそうになる。


「これは、力なき者は、魅入られるな」

 単なる大穴に、黒い霧が溜まっているのだが、不思議なことに飛び込みたい誘惑に駆られる。


「ほんじゃあ、まあ。浄化」

 いい加減、幾度も撃って、いい加減疲れてきた。

 周囲魔力を使い、非常に省エネで魔法を使っているが、以外と疲労感が来る。

 魔法は撃つときに、自己の魔力も使うが、その時に何かが抜ける脱力感を感じる。


 実際連発すれば、疲れて動けなくなる。


 少し考えたが、ぶちかます。

「逝けやぁー」

 光が、再び柱となって降りそそぐ。


 息吹達も下っていたが、隙間という隙間から光が湧き上がってくる。

「じいちゃん。連発かよ。大丈夫か?」


 大丈夫じゃ無かった。

「あーだる。腰に来る」

 闇の本体は見た目よりも巨大で、うごめき、這い上がってくるときに、構造物を食い荒らしているのが判った。


「たく。スライムかよ。しかしあれだ。年は取りたくないな。若ければ、三日くらいぶっ続けで放出できたが、二発で終わりか。あーやだやだ」

 そうぼやくと、いきなり逃げ始める。


 それを見たのか、ゆらゆらと表面が湧き上がり、追いかけ始める闇。


「げっ。あの姿で意識体かよ」

 光希はあわてて上に向かうが、やはり無理をすると足腰に来るようだ。

 省エネで最小限の身体強化。


「ちとまずいかな」

 下を見ると、途中にあった床が消えてなくなってきている。


 あわてて走る。

 無理でも何でも走る。

「一人で来るんじゃ無かった」

 その時、上から声と足音が聞こえる。


「バカヤロー来るんじゃねぇ。逃げろ」


 下に向かっていた、息吹達達だが、声を聞いてあわてて止まる。

 息吹の頭に何かがぽよんと当たる。


「じいちゃんだ。やばそうだ逃げろ」

 あわてて、振り向くが、また声がかかる。


「息吹。逃げる前に下に一発撃ち込んでくれ」

「どっちだよ、全く」

 息吹だけ下に向けて走る。


 さっきまでのフロアは、意外と普通だったが、下の階は闇だった。


 光希を見つけて引き上げ、そのまま光魔法をぶっ放す。

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