第32話 交渉
ある晩。宴会中の話。
「杏様。私たちにも息吹様を分けてください」
「えっなんで? いやよ」
「私たちは、ハイヒューマンになっています。つまり寿命が普通の人の十倍以上あります。その長き間、伴侶を失うという別れを繰り返せと?」
シーヴとアデラが詰め寄る。
「それは…… わたしだってこの前、やっと付き合い…… 番いになったのよ。それに法律では……」
「何処の?」
「日本はもう無いけれど、一応まだその法律に則って生活をしているんだから」
「じゃあ結婚の届けを、日本側に出さなければよろしいのですね」
そう言って、じっと見てくる。
「まさか、そっちって……」
「ええ何人までとか、そんな規定はありません。民族によってはそれが普通なので。多様性の制限は、人種の差別に繋がります」
きっぱりとそう言う。
「そっ、そうなの?」
「そうです」
「それににゃ。今はまだ息吹は普通から外れていないけどニャ、光希様の伝説では、三日三晩やっても絶倫だったという伝説があるにゃ。一人で、その寵愛を受けられると?」
「えっ。三日三マン」
「まんじゃにゃいけど、まんにゃ」
腰に手を当て、高笑いする息吹が、杏の脳裏に浮かぶ。
「今でもいい加減、エッチなのに……」
隙あらば触ってくる。
最近体の方が慣れて、触られて反応するから受け入れる。
特に世界を回り、ひどいところを見て、絶望を感じると甘えてくる事が多い。
言われてみれば、彼が満足する前にわたしが意識を失う事が多い。
「もしかして、息吹に我慢させているの……」
思い当たるところが、ポツポツと思い浮かぶ。
そして、彼女達が言った伴侶問題。
誰かを好きになっても、相手だけが年を取り、死んでいく。
それはキツい……
かといって、ハイヒューマンを量産など、もってのほか……
「うーんまあ。わたしとの付き合いに影響ない程度に。良いわね。わたしが一番だから」
「まあ良いけれど、それを決めるのは息吹だし、私たちすごいから」
獣人は、そっち系に貪欲だと前に聞いた。大丈夫かしら?
「さて、大体、日本中回ったな。首長達が一度集まって会議をするか?」
今この場には、じいちゃんと俺、町長と知事。先生と、シーヴとアデラ。そして行政官のユーディット。
「会議は、国名ですか?」
「ああ、世界を回る中で、やはりジャパンという名は強いが、元々聴き間違いから始まった名だ。それもマルコ・ポーロが、中国人が呼んでいたジーペンを聞き間違えたらしい。日本でも良いし大和でも、秋津島でもいいが、新制の国家として決め、国としての形をそろそろ決めよう。今の状態のまま、アメリカのように州。日本なら県が管理し、その上に国が来る形。共和制で元首を持たないとしようか」
「ですが、大統領的な国の代表は必要でしょう」
「管理上小回りがきくのは県単位で良いですが、すりあわせが面倒ですな」
「国家事業のすりあわせか。その辺りは様子を見てから決めるか」
こうして、あの事故から二年半以上経って、ようやく残りの県などが集まる会議が執り行われた。
会場は輸送船。
輸送船でも立派な会議室はあるし、プロジェクターも積み込んだ。
各県から生き残っている企業の状況と農産物の把握。
そして、トランスファーチューブの設置について希望の有無を聞く。
「それは、既存の電車が、置き換えられるというわけですかな」
「路線が決まったタクシーと、考えた方が判りやすいですね。山間部だろうが設置しますし、車の免許を返納したいが、公共機関がないという事は起こらなくなる。それに個室だ」
「耐久性は?」
「材料的には三百年だとか」
会場にどよめきが起こる。
「この燃料は魔素とあるが、無限なのか」
「ええ魔素は、物理現象に変化しますが、その後、また元の状態に戻ります。その時に消費をするのは精神力でしょうか?」
「精神力? 本当に謎エネルギーだな」
今の日本は、政治体制は立憲君主制で、行政は議院内閣制。
今回の事で、その形が壊れてしまった。
「従来の形に拘らず、決めていこうと思う」
そうして話し合いだしたが、国税と県税。いや地方税か。その比率からして問題となる。
復旧をして、皆の欲が全開のようだ。
「なら復興は、各県が自前でするんだな」
「それは困る。金があるところは良いが、山と海しか無いところはじり貧じゃないか」
「頑張れば良い」
そう言って、いくつかの県からニヤニヤが出ているが、石油関連はこれから無くなっていく。
電子制御系もこれから魔導が優先的に使われ、シリコンチップはじり貧になっていくだろう。
今の集積回路は、通電させたときに配線の距離が近すぎて、これ以上集積化が難しくなっている。
そう、電気を流すと、磁界が悪影響を起こすし、電子自体が、ギャップを飛び越す事態も発生する。
もうずいぶん前から、中央演算装置。つまりCPUの性能は変わっていない。
省電力と、マルチコア化で御茶を濁していた。
「では、基本は県単位で管理。国はその補助という事で進めよう。税率は従来国が六対地方四だったが半々で良いな」
「最初はそこからで良いだろう」
その意見で皆の手が上がる。
「では次に、代表。つまり総理の決め方だが、間接か直接か? どうします?」
「人気だけで上に立つのは避けたい。間接が良いだろう……」
とまあ会議は続く……
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