第31話 地道な餌付け

 世界が終わった。


 ずいぶん前から、異常気象とか色々言われていた。

 だがその日。比喩でも何でも無く、多くの人が住んでいた町が消滅をした。


 政権や王室もあそこにあった。

 それから闇がおとずれ世界は吹き荒れた。人々は家に籠もって祈り続けた。


 世界を覆った闇は、三ヶ月程度で訪れた長雨の後に晴れた。だが、景色が一変していた。

 木々や草木は枯れ、まるで世界は死んだようだった。


 年寄り達は、少し前に生活が戻っただけと言い、電気も水道もない生活に順応する。

 あるものを食い、働く。


 そうして、地域単位でまとまり。道を復旧したりして、昔の生活に慣れた頃、見慣れない飛行機が来た。


「やあ、元気そうで良かった」

 その男はそう言って、人なつっこい顔で笑いかけてきた。


「今、国はあるのか?」

「いや、連絡も取れないし、集落の外は知らない」

 少し警戒しながら答える。中国人か?


「そうか……」

「今国がどうなっているのか、あんたの方が知っているのじゃないのか?」

 飛行機を指さすと、少し考え込む。


「大きな都市は消滅し、此処みたいな集落単位で暮らしているようだ。これを渡しておくから、何かあったら連絡をくれ」

 そう言って通信機をくれた。


「あんた何者だ?」

「昔の日本。今の国名はまだ決まっていない」

 そう言いながら、じいさんは秋津島が良いなあと言っていた。

 秋津島の秋津はトンボの事らしい。神武天皇が国の形を見てそう言ったとか……

 ただ、トンボの前に交尾をしていると付くらしいが。


「日本もひどかったのか?」

「ああ、大きな町はなくなった」

「そうか、頑張れよ」

 逆に励まされてしまった。


「判った。電気と水は必要か? そのまま飲める奴」

「ボトルか?」

「いや魔法の道具だ」

 そう言って、ティティというニックネームを持つ奴の家に、五十ヘルツ二百二十ボルトの電源も付ける。


 水道は使えないそうなのでぶった切り、バルブを付けておく。

 魔導具タンクを、家の方へとつなぎ、洗浄する。まあ浄化だな。

 元々水道水は、飲めなかったそうだから必要だろう。


「これは良い。他にはないのか? 値段は」

 当然だがそう聞かれる。

「この村くらいなら付けてやる」

 そう言って、各家を回り設置をする。


「後は、売る事も出来るが、まあ相談だな。それで連絡をくれ」

 通信機を指さし、そう言って帰る。



 さっきのは、タイだったが、平和な方だ。


 一部の国は、抑える者達がなくなり、暴徒が民衆を奴隷化している国もあった。

 驚く事に、そう言うところが、意外と多く。介入をして住民を解放し、暴徒達の処分は住民に任せた。

「困ったら連絡をしろ」

 そう言って衛星無線機を配布する。


 そう初期は電話だったが、俺が全部対応しないといけないので無線機にした。

 こっちでモニターしていて、適当に誰かが対応する。


 時差があるから、何時かかるか判らないのは面倒だった。


 そう、最近ずっと休日は、訪問販売兼、外交官をやっている。


 表には出ないが、杏も一緒。


 これをするために小型機を貰ったのだが、意外と面倒な事も多い。

 話をしていると、いきなり襲われたり、撃たれたり。


 そんな事をすると、神罰の雷がその周囲に降りそそぐ。


 意外と効果が高い。

 宗教的な物なのか、神の使いとしてみられることもあり、文化レベルが低いところの方が、そういう説得も効きやすいようだ。


 先進国ほど面倒が多い。


「不法入国か?」

「誰にも止められていない。入国審査は何処で受けるんだ?」

「そりゃ空港とか船着き場だろう」

「何処にあるんだ?」

「そりゃあ……」

「大きな所は消滅しているぞ」

「…… 自分で調べろ」

 まあその場合、何も与えず帰るけどな。


 いくつかの集落で、素直なところには、物資もやるし衛星無線機も置いてくる。


 地道な、餌付け…… いや救済活動。


 それを世界中を回って、繰り返す。


 餌付け、戦闘、戦闘、戦闘、戦闘、餌付け。

 こんな感じ、以外と暴力的な奴らは多い。


 一面、小麦も作らず、やばそうな花や植物が栽培されているところもあった。

「貧乏人は、夢を見ている方が幸せなんだとか……」

 あんときも、いきなり腰だめのマシンガンで斉射を受けた。


 撃っている奴らに、スタスタと近付きぶん殴っていく。

 ひとしきり暴れたら、やっとおとなしく話を聞いてくれた。

 そこは元々、電気も水道もなく生活は変わっていなかったようで、放っておいてくれと言われたので周囲で話をするが、すでに終わった町だった。

 それこそ薬で、魂がどこかに行った奴らばかりだった。


 浄化や治癒をしても、壊れ方により駄目な物は駄目なようだ……


 そうしてそんな事があると、杏に癒やされる。


 今は、南海の孤島でバカンス中。

 青い空と、透き通った海。白い砂浜……


 水中には、一面の巨大なまこ。少し沖にはサメの群れ。

 ステキな海だ。


 探査をしても誰も居なかったので、生まれたままの格好ではしゃぎ、その晩泣く事になる。

 南の島では、日よけが必須だ……


 ポッドで日焼けの治療を受ける。


 すると今度から、シーヴ達が付いてくると話が決まったようだ。

「なんで?」

「ハイヒューマンだからです。長寿命ですから、伴侶は他にいません。それとも私たちの事がお嫌いですか」

 そう言って、アデラと二人が詰めてきた。


 困った俺は、杏に聞いた。

「良いんじゃない」。

 なぜかあっさり許された。


 杏が言うには、それには長く辛い、彼女達の話し合いと、苦渋の決断があったそうだ……

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